フッ化物(モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)・フッ化ナトリウム・フッ化第一スズ)を含む歯磨剤です。幼児から高齢者まで生涯を通じて家庭で利用できる身近なフッ化物応用で、世界で最も利用人口が多い方法です。
日常的に適量のフッ化物配合歯磨剤を使って歯みがきをすることにより、口腔内にフッ化物を供給し、むし歯を予防します。この歯磨剤は医薬部外品で、効能・効果として「むし歯の発生および進行の予防」の記載が、医薬品・医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律で認められています。
剤型としてはペースト状が一般的ですが、その他にジェル状、泡状や液状があります。薬用歯みがき類製造販売承認基準によりフッ化物イオン濃度は1,500ppmF以下に定められており、1,450ppmF程度までのものが販売されています。フッ化物イオン濃度としては1,450ppmF・950ppmFの製品が多く、子ども向けに500ppmF・100ppmFの製品も販売されています。
世界的にも数多くの調査があり、むし歯予防効果(DMFS:むし歯になる歯の面の数として)は概ね24%と報告されています[1]。また、むし歯予防効果は歯磨剤に配合されるフッ化物イオン濃度に依存し、1,000ppmF以上の濃度では500ppmF上がるごとにむし歯予防効果が6%上昇するとされています[2]。
この歯磨剤は他のフッ化物応用と重ねて使う機会が多くなります。フッ化物歯面塗布との複合応用によって、歯面塗布のみの群に比べ、乳歯むし歯の減少率65%であったとの報告もあります[3]。
成人・高齢者の根面むし歯に対しても、67%の予防効果があるとの報告[4]をはじめ、多くの研究が重ねられており、根面むし歯の予防においても効果がある[5]と考えられます。
表. フッ化物配合歯磨剤の年齢別応用量と使用方法[6]~[8]
年齢 | 歯磨剤のフッ化物イオン濃度と使用量 (写真の植毛部は概ね2cmです) |
使用方法 |
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歯が生えてから2歳 | 900~1,000ppmFの歯磨剤を米粒程度(1~2mm程度) |
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3〜5歳 | 900~1,000ppmFの歯磨剤をグリーンピース程度(5mm程度) |
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6歳〜成人・高齢者 | 1,400~1,500ppmFの歯磨剤を歯ブラシ全体(1.5~2cm)程度 |
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フッ化物配合歯磨剤は適正量を用いることで予防効果を発揮します。表にある使用量、使用方法を参考に歯みがきを行うことをおすすめします。
お口のケアは、乳歯が生え始めたら開始するとよいでしょう。最初はガーゼやコットンを使って練習することをおすすめします。歯ブラシに慣れてきたら保護者による歯みがきを始めてください。
要介護者の方で嚥下障害を認める場合には、ブラッシング時に唾液や歯磨剤を誤嚥する可能性もありますので、ガーゼ等による吸水や吸引器を併用するのもよいでしょう。また、食べ物がお口の中に残っているような場合は、先にそれらを除去してからブラッシングを行ってください。
歯磨剤をつけないブラッシング(からみがき)を好む人は、からみがきを行った後にフッ化物配合歯磨剤をつけて歯全体に行き渡らせる程度に磨く方法が適しています(ダブルブラッシング)。
幼児がひとりで磨く場合のフッ化物配合歯磨剤(イオン濃度1,000ppmF)使用後の口腔内フッ化物残留量(率)は、3~5歳児の調査では0.06mg(15.3%)[9]であり、1日に3回使用したとしても0.18mgで有害な影響はありません。
歯のフッ素症発現のリスクは幼児期(6歳以下)に集中します。特に審美的に問題となる上顎中切歯が歯のフッ素症にかかりやすい臨界期は1~3歳の間です。この時期にフッ化物の摂取が過量にならないように注意が必要です。
フッ化物の全身応用が行われている地域で、フッ化物配合歯磨剤を食べたり、毎回誤って飲み込んだりする場合には、過量のフッ化物摂取になる場合があります。全身応用が普及している国では、幼児に対して、使用量・歯みがき後のすすぎ方・口腔内残留量などに細心の注意が払われています。日本では全身応用が実施されていないので適正量での使用下においては、過度な心配は不要です。うがいのできないお子さんに対しては、歯みがき後にティッシュなどで歯磨剤の拭き取りを行ってもよいでしょう。
世界的には市販歯磨剤のほとんどにフッ化物が配合されています。日本におけるフッ化物イオン配合歯磨剤の市場占有率[10]は2021年に93%を超え、フッ化物イオン濃度が1,000ppmFを超える歯磨剤の占有率だけでも20%を超えています。
(最終更新日:2023年04月19日)