砂糖はむし歯のリスク・ファクターのひとつであり、摂取方法によってむし歯の発症に影響を与えます。むし歯予防には、甘味(砂糖)摂取の総量を減らすこと、およびその摂取回数を減らすことは効果的です。ただし、砂糖摂取を制限するだけでは、むし歯予防対策として不十分なため、フッ化物配合歯磨剤の利用など併せて取り組むことが大切です。また砂糖の過剰摂取は、肥満にもつながることから、生活習慣病予防対策の一環として取り組むことも効果的です。
わが国においては、1人当たり年間砂糖消費量と12歳児童における平均のむし歯数(DMFT指数)は、昭和30年代から約30年間にわたり強い関連があったと報告[1]されています。このほか、動物や人を対象とした様々な調査・研究の成果から、砂糖摂取とむし歯の発症との関連は明らかです。
甘味(砂糖)の摂取量については、年間の1人当たり砂糖消費量が15キロ程度まではむし歯の発症は抑えられていますが、15キロから35キロでは急激に増加することがわかっています[2]。また6歳から18歳までの追跡調査によると、砂糖を含む食品を多く取っている子供たちは、少なく取っている子供たちと比較して、追跡期間中に多くのむし歯が発症したと報告しています[3]。これらの結果は、砂糖の総摂取量を抑えることが、むし歯予防につながることを示しています。世界保健機構(WHO)は、むし歯および肥満のリスクを下げるため、加工食品または調理に加えられる糖類の摂取量を、総エネルギーの10%未満、望ましくは5%未満にとどめることを推奨しています[4]。
むし歯のリスクを低減するには、砂糖の総摂取量を減少することに加え、砂糖を含む食品や飲料の摂取回数を下げることが大切です。スウェーデンにおいて1940年代後半から50年代前期にかけて、砂糖摂取がむし歯の発症に及ぼす影響について436名を対象に実験的な調査が行われました。その結果、砂糖を含む歯に付着しやすい菓子(トフィー)を食事時のみ与えた時期と比べて、食事時と間食時とに分けて、すなわち回数を増やしてトフィーを与えた時期では、むし歯が増加していることが明らかになりました[5]。このことは砂糖摂取の総量だけではなく、摂取回数の増加がむし歯の発症を増加させたことを示しています。
むし歯の予防には、甘味(砂糖)の総量を減少させることと、摂取回数を減少させることの両方が重要です。砂糖の総量と摂取回数とは互いに相関[6]していることから、どちらかを強調するのではなく、家庭環境や生活環境に合わせた方法を実践するのが良いと考えます。
砂糖にかわる甘味料の利用は、むし歯の発症を抑えることがわかっています。フィンランドTruku地区では、1)砂糖(スクロース)、2)果糖(フルクトース)、あるいは3)キシリトールを含む甘味食品のみを与えた3つの群間でむし歯の発症割合に差があるかを調べました。その結果、キシリトールを含む甘味食品を食べた者は、砂糖や果糖を含む甘味食品を食べた者と比較して、むし歯の発症が抑えられていました[7]。キャンディーやガムなどのお菓子を購入する際は、成分表を参考にし、砂糖以外の甘味料、たとえばキシリトールなどを使った製品を選択するのも良い方法です。
むし歯の発症予防には、砂糖の摂取制限に加え、歯磨きの際にはフッ化物配合歯磨剤を利用する、あるいはかかりつけ歯科医においてフッ化物歯面塗布を受けるなどフッ化物応用も併せて行うことが大切です。
成人期における砂糖の摂取制限は、むし歯予防のみならず、肥満予防の観点からも重要です。むし歯予防を目的とした砂糖摂取への取り組みは、単独で行うのではなく、肥満予防や生活習慣病予防と結び付けて取り組むことがより効果的です[8]。
(最終更新日:2019年12月19日)