20歳以上の9割以上がむし歯の罹患経験を有しています。また、20歳以上の3割が未処置のむし歯を有しています。そして40歳以上の年齢において常に約4割はむし歯が原因で歯が抜かれています。大人のむし歯はその特徴から、歯の根面のむし歯・歯の詰め物の裏側のむし歯・子供と同様のむし歯に分けられます。成人期には歯周病対策だけでなく、むし歯への対策も重要です。
大人の歯科保健対策といえば歯周病と受け取られがちですが、大人でもむし歯の発生は頻繁に見られます[1]。大人のむし歯は特徴で分けると下記のように3種類存在しますが、原因については子供と同様です。
第一に、子供と同様に歯の溝や歯と歯の間・歯ぐきに接する部分などから発生するむし歯が挙げられます。
第二に、むし歯の治療に用いた歯の詰め物の裏側のむし歯(二次う蝕)が挙げられます。歯の詰め物と歯との間に隙間があると、細菌が進入してしまうためむし歯を発生させる可能性があるのです。このむし歯はもともと歯の治療がしてあるため、より歯の奥深くに進行することが多く、神経に達するむし歯の原因となります。治療した歯が駄目になる原因のひとつでもあります。また歯の神経を抜いた歯の場合、むし歯の痛みが分からずに気がつくのが遅くなる傾向にあります。
第三に、歯周病により歯の根面が露出した部分に発生するむし歯(根面う蝕)が挙げられます。根面は、通常の歯の表面にあるエナメル質とは異なり、より硬度の低い象牙質により覆われています。歯を多く有する高齢者でしばしば発生します。奥歯での発生は見つかりにくいため、気づくのが遅くなりがちです。全身的な活動能力の低下や薬物の服用により、唾液が減少した高齢者では根面のむし歯が多発することがあります。
平成28年の歯科疾患実態調査によると、20歳以上の9割以上がむし歯の罹患経験を有しており、20歳以上の3割が未処置のむし歯を有しています。また、年齢が高いほど、むし歯をもつ人の割合が高いことが分かります。さらに、歯を多く持つ高齢者が増えた結果、高齢者のむし歯は以前に比べて大きく増加しています。
むし歯は歯の喪失の主要な原因にもなっています。歯がなぜ喪失するのかを調べた調査結果では、むし歯とその後発症が計43.3%と、歯周病(41.8%)をわずかにですが上回っていました[2]。40歳以上の年齢においても常に約4割はむし歯が原因で歯が抜かれています。海外でもかつては40歳以上では歯周病が歯の抜ける大部分を占める原因とされていましたが、現在の研究によりそれは否定されています。
残念ながら「健康日本21」のような全体的な歯科保健政策においては、大人でのむし歯予防はあまり言及されていませんが、実は重要性が高いのです。
近年、子供のむし歯が減っています。子供の時にむし歯にあまり罹患しなかった大人では、むし歯に罹患していない歯を多く有するため、生涯を通じてむし歯を発症する可能性を有します。また高齢者は歯周病により歯の根面が口の中に露出していることが多く、根面のむし歯の危険が高くなります。さらに脳卒中の後遺症で手に麻痺が残った場合など、口腔のセルフケアが行えない人々が、高齢化に伴い増加すると考えられます。このような理由から、近年大人のむし歯の増加が危惧されています[3]。
むし歯は、フッ化物の利用や就寝前の糖質を含んだ飲食物の摂取の制限、歯みがきなどによりある程度防ぐことが可能です。またセルフケアが困難な高齢者に対しての口腔ケアの実施は社会的に広がりつつあります。大人でも歯を喪失する大きな原因であることを考慮し、むし歯の予防に個人および社会が取り組んでいくことが必要でしょう。
(最終更新日:2020年1月16日)