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むし歯の特徴・原因・進行

むし歯は世界で最も多い疾患として知られており[1]、未治療のむし歯は日本でも多くの人に存在します。さらに近年は高齢者において、むし歯は増加しています[2]。むし歯は細菌が糖質をもとに作り出す酸が歯を溶かすことで生じます。唾液は酸を中性に近づけたり、溶けかけた歯を修復する役割を持ちます。多くのむし歯は歯の間や奥歯の溝から発生し、特に溝の細菌は歯磨きでは取り除けません。そのため歯磨きをしていればむし歯が防げるという常識は現在では正しくないことが分かっています。さらに生物医学的原因だけでなく、社会環境・生活環境の重要性が認識されつつあります。

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むし歯の原因・進行

歯の表面のプラーク(歯垢)の中には細菌が存在します。細菌は飲食物の中の糖分を摂取・分解して酸を出します。この酸により歯は溶かされます(脱灰)。人の唾液は、酸を緩衝して中性に近づけることで歯を守ります。また唾液は、カルシウムやリン酸を含んでおり、これらが脱灰された歯を修復(再石灰化)します。糖分の摂取が頻繁で、酸の緩衝や再石灰化が間に合わずに脱灰された状態が続くと、その部分はそのうち崩壊することとなります。これがむし歯です。

むし歯により崩壊した歯質は、再石灰化等により自然に回復することはありません。むし歯の穴を埋めて修復する歯科治療が必要になります。また進行したむし歯では、歯の神経にまで細菌が達します。こうなると歯の神経を抜く大掛かりな治療が必要になります。さらに進行した場合には、歯の根元にまで細菌が達して病巣ができて、その結果歯肉から膿が出ることもあります。この場合歯を抜かなくてはならないこともあります。

むし歯の特徴

むし歯は極めて罹患率が高く、多くの人が生涯のうちに一度はかかる疾患です。痛みを伴い、自然治癒をしないため治療が必要になります。ゆっくりと進行し、小児に多発しますが、大人でもよく発症します[3]

むし歯の治療は、崩壊した歯質を歯科材料で置き換えるのが主な方法であり、元の健全な歯に回復するわけではありません。そのためむし歯を数えるための代表的な指標であるDMF歯数では、むし歯やむし歯が原因で喪失した歯に加えて、治療済みの歯もむし歯としてカウントします。

むし歯が発生しやすい歯の部分は、臼歯の溝や前歯の裏側のくぼみの部分(小窩裂溝)・歯と歯の間(歯間部)・歯ぐきに近い部分(歯頚部)です。なぜならこれらの部位のプラークは除去することが難しいからです。特に臼歯の溝(小窩裂溝)は、歯ブラシの毛先が届かず、子供に発生するむし歯の8割以上がこの部位から発生しているという報告もあります[4]。またむし歯の治療に用いた歯科材料と歯との隙間に細菌が侵入して、詰め物の底の部分にむし歯ができることもあります。

歯ブラシの届く場所のむし歯は歯みがきで防げますが、最もむし歯になりやすい部位のむし歯は歯みがきでは防げません。こうしたむし歯の予防には、フッ化物の利用や小窩裂溝を埋めるシーラント、糖分の摂取制限が必要になります。

また子供の時にむし歯にあまり罹患しなかった大人では、むし歯に罹患していない歯を多く有するため、生涯を通じてむし歯を発症する可能性を有します。さらに歯を多く有する高齢者では、歯周病により歯の根面が露出した部分にむし歯が発生することが多くなります。このため子供のむし歯が減って、さらに歯が多く残るようになると、大人や高齢者になってからのむし歯が増加するといわれています[5]

むし歯の原因・環境が保健行動に及ぼす影響

3歳児のむし歯有病者率の市町村別の地図[6]を見ると東北や九州でむし歯が多く、地域格差があることが分かります。地域の社会環境、生活環境(社会的決定要因[7])が人々の行動を左右してしまうため、地域差が発生しています。

むし歯の要因

【図】はこれらを考慮したむし歯の要因になります([8]を改変)。生活環境を変えなくては、行動を変えるのは困難だといわれています。そのため現在では「病気は個人の努力で防げる。病気になるのは自業自得である」と考えるのは、おかれた生活環境のために病気になった人を非難するのに等しい(犠牲者非難)と指摘されています[9]。生物学的な要因を集積させる人々の特性や環境に焦点を当てることが、社会環境・生活環境により生じる健康格差を減少させると期待されています。

(最終更新日:2020年1月15日)

相田 潤

相田 潤 あいだ じゅん

東北大学大学院 歯学研究科 口腔保健発育学講座 国際歯科保健学分野 准教授

2003年北海道大学歯学部卒業、04年国立保健医療科学院専門課程修了、07年北海道大学大学院歯学研究科博士課程修了。07年東北大学大学院歯学研究科助教、10年University College London客員研究員、11年より現職、12年~19年宮城県保健福祉部参与(歯科医療保健政策担当)兼務、14年東北大学大学院歯学研究科臨床疫学統計支援室室長兼任。専門分野は公衆衛生学と社会疫学。現在、歯科疾患の健康格差、口腔と全身の健康の研究、ソーシャル・キャピタルや東日本大震災の健康影響などの研究に従事。

参考文献

  1. GBD 2016 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators.
    Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 328 diseases and injuries for 195 countries, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016.
    Lancet. 2017;390(10100):1211-59.
  2. 厚生労働省.
    平成28年歯科疾患実態調査結果の概要 2017.
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html
  3. Gilbert GH, Foerster U, Dolan TA, Duncan RP, Ringelberg ML.
    Twenty-four month coronal caries incidence: the role of dental care and race.
    Caries Res. 2000;34:367-79.
  4. Burt BA, Eklund SA, Morgan KJ, et al.
    The effects of sugars intake and frequency of ingestion on dental caries increment in a three-year longitudinal study.
    J Dent Res. 1988 ;67:1422-9.
  5. Burt BA, Eklund SA.
    Dentistry, Dental Practice, and the Community, 6th ed.
    St. Louis: Elsevier Saunders. 2005.
  6. 相田潤, 安藤雄一, 青山旬, 丹後俊郎, 森田学.
    経験的ベイズ推定値を用いた市町村別3歳児う蝕有病者率の地域比較および歯科保健水準との関連.
    口腔衛生学会雑誌 54:566-576. 2004.
  7. Wilkinson R, Marmot M, eds.
    Social Determinants of Health, The Solid Facts.
    World Health Organization, Europe, 2nd edition, 2003.
  8. Daly B, Watt R, Paul B, Treasure E.
    Essential Dental Public Health.
    1st ed. New York, Oxford University Press, 2002.
  9. Watt RG.
    From victim blaming to upstream action: tackling the social determinants of oral health inequalities.
    Community Dent Oral Epidemiol. 2007;35:1-11.