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卒乳(断乳)時期とむし歯の関係

卒乳(断乳)の時期を逃したまま就寝時に母乳を与えること、ミルクや糖質を含む飲料を哺乳びんに入れて飲ませることは、特有のむし歯の症状を引き起こします。ただしむし歯の発症には多重の要因が関与しているため、卒乳(断乳)に関する適切な対応とむし歯予防の実践が求められます。

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哺乳によるむし歯について

哺乳によるむし歯(Nursing caries)あるいは哺乳びんによるむし歯(Nursing bottle caries)とは、幼児期において卒乳(断乳)の時期を逃したまま長期にわたって「1. 母乳を就寝時に与えること」「2. ミルクや糖質を含む飲料を哺乳びんに入れて飲ませること」あるいは「3. その両方」によって引き起こされる重度のむし歯を意味します。

哺乳によるむし歯の発症過程

哺乳によるむし歯の発症過程は、次のような段階として説明されます[1]

第一段階:ミュータンス菌が最初に口腔内に感染します。

第二段階:口の中でむし歯の原因となる砂糖を含むおやつや飲料にくり返し長期にさらされた結果、この菌がむし歯を引き起こすレベルにまで蓄積されます。

第三段階:急速な脱灰が進み、目に見えるむし歯ができて行き、結果的に広範なむし歯が発症してしまいます。

ミュータンス菌:生存するために糖分を分解し、その副産物として酸を産生しこの酸が歯質を溶かし、歯をむし歯にするといわれています。
脱灰:むし歯の発生過程において、口腔内の細菌が炭水化物を代謝することにより産生する酸によって、エナメル質からミネラルが溶出する事象のことです。

哺乳によるむし歯の実態

1970年代には、乳酸菌飲料を哺乳びんに入れて就寝時に与えたことによる重度のむし歯が発生するという問題が現れました。また90年代には、乳酸飲料に替わってスポーツドリンクによる同様の問題が見られました。

一方で哺乳びんを用いたことがない幼児にも同様の所見が認められることがあり、これは母乳が原因であることが示唆されています。母乳には、7パーセントほどの乳糖と呼ばれる糖分が含まれています。母乳を寝ながら与えたり夜間に与えたりするなどした場合、就寝時や夜間は唾液の分泌量が少なくなるために自浄作用の効率が悪くなり、むし歯の原因菌にとっては好ましい環境状態が維持されることになります[2]

むし歯と母乳の関係を調べた日本における研究[3]によれば、2歳の時点で母乳を長期間飲んでいた乳幼児群は断乳した群と比べて、むし歯になった子供も平均したむし歯の数も統計的に有意に多かったことが分かりました。一方でその生活習慣をみたとき、母乳群では「間食の時間が決まっていない」が統計的に有意に高かったそうです。このように母乳を与え続けた群では、むし歯の発症に影響を与える他の要因においても好ましくない傾向が見られています。このことはむし歯の発症には多重の要因が関与しており、母乳を止めることに限らず原則的なむし歯予防を同時に行う必要があるといえるでしょう。

哺乳によるむし歯への対策

卒乳(断乳)については、子どもの発達に応じてスキンシップを大切にするため、従来の1才をめどに「断乳」させるという考えから自然に「卒乳」させるという指導に変わってきています。

むし歯予防の観点からは、乳歯が多く萌出する前に早期に卒乳(断乳)してもらうことが望ましいことです。卒乳以前であっても就寝時および夜間の授乳を止めること、乳酸飲料やスポーツ飲料は適正に摂取すること、およびフッ化物歯面塗布を含むフッ化物の適正な利用を実施することなどが予防対策として勧められます。

一般に、断乳とは自立させる第一歩として子どもの意思に関係なくお乳をやめさせることであり、卒乳とは子ども自身が自然に哺乳をやめることという使い分けがされています。現在では断乳させるという考えから、自然に卒乳を待つという傾向に変わってきています。

新潟大学 歯学部 口腔生命福祉学科 口腔衛生支援学講座 八木 稔

参考文献

  1. Berkowitz, R.
    Etiology of nursing caries: a Microbiologic perspective
    J. Public Health Dent., 56(1); 51-54, 1996.
  2. 浜田茂幸, 大嶋 隆(編著)
    新・う蝕の科学
    6-8頁, 医歯薬出版, 2006年, 東京.
  3. 山本誠二, 新谷智佐子, 中村隆子, 竹本弘枝, 滝川雅之, 福田延枝, 仲井雪絵, 壺内智郎, 下野 勉
    長期の母乳授乳が乳幼児口腔内状態および生活習慣に及ぼす影響について.
    小児歯誌, 39(4); 884-889, 2001.