乳幼児期における哺乳びんによる不適切な飲料の与え方、あるいは卒乳時期を逃した授乳、とくに夜間の授乳は、特有のむし歯の症状を引き起こすことがあります。乳歯が生え始め、離乳食が始まったら、哺乳びんを使って甘味飲料を与えることを避けるとともに、寝ながらの授乳は控えるようにしましょう。乳幼児期のむし歯の発症には多くの要因が関わっているため、卒乳に関する適切な対応とフッ化物の応用などを含むむし歯予防の実践が求められます。
哺乳びんの不適切な使用、あるいは夜間の授乳によるむし歯は、前歯を中心に、急速に、かつ広い範囲にわたってみられるのが特徴です。一般的に授乳のみではむし歯発生に対して大きなリスクはありませんが、離乳食が始まり、むし歯の原因となる砂糖を含む食品や果糖を含むフルーツジュースなどを取り始めると、授乳によるむし歯発生のリスクが高まります。とくにこの時期、就寝しながら授乳することはむし歯発生のリスクとなります。就寝中は、唾液の分泌が減少し、むし歯の原因菌にとっては好ましい環境状態が維持されるためです[1]。「授乳・離乳の支援ガイド」では、離乳の完成は生後12か月から18か月頃であり、母乳または育児用ミルクは、子どもの離乳の進行及び完了の状況に応じて与える[2]とされています。むし歯予防の観点からみた卒乳時期は、離乳の完成時期をめどにすることが望まれますが、子供の成長発達、離乳の進行の程度や家庭環境などを考慮しつつ、母親等の考えを尊重しながら判断すべきです。
卒乳の時期とむし歯の発生とを調べた日本における研究[3][4]によれば、卒乳の時期が遅くなるにつれて、むし歯の発生が多いことがわかっています。これらの調査では、卒乳が遅れているケースでは、砂糖を含んだ菓子や飲み物を与える回数が多いこと、あるいは授乳の時間が就寝前や夜中が多いことが示されており、卒乳の遅れがむし歯のリスクを高める生活習慣を併せ持っている可能性が指摘されています。卒乳時期が長引いているお母さん方は、授乳以外のおやつ習慣や口腔衛生習慣の乱れがないよう心掛けることが大切です。
哺乳びんの不適切な使用によって発生したむし歯は、いわゆる「哺乳びんう蝕」と言われています。哺乳びんやシッピーカップ(蓋と吸口が一体となった蓋付きカップ)を使って与えた飲料は、口の中で頻回かつ長い時間をかけて前歯に触れることになります。砂糖を含む甘味飲料、フルーツジュース、あるいはスポーツドリンクなどむし歯発生のリスクが高い飲料を哺乳びんで与えることは避けましょう。またシッピーカップも哺乳びんと同様の影響を与える可能性があるため、なるべく早い時期からコップによる飲水ができるよう練習させましょう。
むし歯の発症には、むし歯の原因菌と砂糖との関連、子どもを取り巻く社会や経済状況の格差、歯磨き習慣やかかりつけ歯科医での定期歯科健診など、さまざまな要因が関与しています。かかりつけ歯科医でのフッ化物の歯面塗布などの方法を上手に取り入れて、乳幼児のむし歯の発生予防を心がけましょう。
(最終更新日:2019年12月19日)