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歯の神経の治療(根管治療)

歯の中には「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経や血管を含む組織があります。むし歯や外傷によって歯髄が感染したり壊死(えし)したりしてしまうと、歯髄を取り除く根管治療が必要になります。さらに一度根管治療を行ったにもかかわらず、再び根管が感染してしまったり感染が残っていたりする場合は、再根管治療が必要となります。

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いわゆる「神経を抜く」と言われる根管治療は、歯科治療の中では大きな割合を占める治療です。平成29年度患者調査[1]によれば、全体の約18%の方が根管治療を受けています。根管治療が必要となる病態には以下のようなものがあります。

歯髄炎

むし歯が進行し歯髄にまで達すると歯髄炎となります。歯髄炎は炎症が元の正常な状態に回復する場合(可逆性歯髄炎)は歯髄を除去する必要はありませんが、炎症が正常な状態に回復しない場合(不可逆性歯髄炎)は根管治療をする必要があり、抜髄と呼ばれます。症状は冷たいものや温かいものがしみる、じっとしていても鈍い痛みを感じることがあるなどです。

歯髄壊死

歯髄炎を放置しておくと歯髄壊死*となり、温度刺激による痛みは感じなくなります。外傷により脱臼した歯が歯髄壊死となることもあります。症状は歯の色が変わってくる、むし歯があって冷たいものがしみていた歯がしみなくなったなどです。

*壊死:組織や細胞が死ぬこと。歯髄壊死とは歯髄が死んでしまうこと。

根尖性歯周炎

骨の中まで炎症が進行すると根尖性歯周炎と呼ばれる状態になります。レントゲン上では、根尖部(根の先)にレントゲン透過像が認められるようになり、根尖病変と呼ばれます。

むし歯を治療せずに放置して根尖性歯周炎にまで進行することもありますが、一度根管治療を行った歯が根尖性歯周炎となっていることのほうが頻度としては多いことがわかっています。症状は「噛むと痛い」「歯茎から膿が出る」「たまに強い痛みを感じる」などです。

新潟市で行われた高齢者の追跡調査[2]においては、根管治療されている歯は全体の約3分の1程度、根管治療されている歯の中で根尖病変を有する歯は約4割と、比較的高い割合の歯が根管治療を必要とする状態となっています。

治療法の概要

根管治療で大切なことは、根管内にいる細菌をできるだけ消毒すること、新たに根管内に細菌を侵入させないことです。そのためには根の治療をする際に、ラバーダムと呼ばれるゴムのマスクを歯につけて治療する必要があります。ラバーダムをした状態で、根管の拡大・清掃・洗浄を行い、ガッタパーチャと呼ばれる材料で根管内をしっかりと封鎖し、細菌が再び侵入しないようにします。このような治療法を根管治療の無菌的治療法と呼ぶことがあります。

根管治療の成功率

根管治療の成功率は、術前の歯の状態に大きく影響されます。Sjogrenらによれば、成功率は以下のようになっています[3]

成功 総数 成功率
(1) 健康歯髄 69 72 96%
(2) 歯髄炎 188 195 96%
(2) 歯髄壊死 102 102 100%
(3) 根尖病変のある歯髄壊死 176 204 86%
(4) 再根管治療 169 173 98%
(5) 根尖病変のある再根管治療 58 94 62%
不明 9 9
総数 771 849 91%

この表からわかることは、病変のある歯「(3)、(5)」の根管治療の成功率は低くなるということです。さらに病変のある歯だけを見てみると、再根管治療の歯(5)の成功率は、初めて根管治療を行った歯(3)の成功率よりも低くなります。
この研究はスウェーデンで行われ、学生が専門医の指導の下で治療したものなので、そのまま日本の根管治療に当てはめることはできませんが、無菌的治療法を行えば根尖病変のある再根管治療以外の根管治療の成功率はかなり高いことが分かります。

根管治療の失敗

これまで述べてきた根管治療は、非外科的根管治療と呼ばれます。非外科的根管治療を行ったのに症状が再発した場合には、多くの場合に抜歯・歯根端切除などの外科的な処置が必要となります。通常、大臼歯部では抜歯となることが多く、前歯部では歯根端切除を行うことができますが、歯の状況によって選択できる治療法は異なります。

実体顕微鏡(マイクロスコープ)を用いた根管治療について

1990年代から実体顕微鏡を用いた根管治療が行われ、近年では多くの歯科医院に導入されています。実体顕微鏡を用いることで、拡大された明るい視野での治療が可能となりました。肉眼では発見することのできなかった根管が発見できるようになり、術者のストレス軽減や治療時間の短縮に役立っています。【根管治療の成功率】の項で述べた根管治療の成功率は、肉眼での成功率となっています。実体顕微鏡を用いて拡大された視野で治療することにより、感染源の除去がよりよく行えるため、実体顕微鏡を用いた根管治療の成功率は、肉眼のみで行った場合より、成功率が上がると考えられています。

(最終更新日:2019年12月18日)

今井 照雄 いまい てるお

日本歯内療法学会・専門医

1998年北海道大学歯学部卒業、2002年~2006年歯内療法専門医に師事、05年第1回スウェーデン王立イエテボリ大学歯内療法学教室サマーセミナー修了、14年日本歯内療法学会専門医取得、18年第3回スウェーデン王立イエテボリ大学歯内療法学教室サマーセミナー修了。首都圏(東京、茨城、栃木、岐阜)の歯科医院にて、歯内療法専門医として診療を行う。所属学会:日本歯内療法学会。

参考文献

  1. 厚生労働省.
    平成29年患者調査 上巻第50表 歯科診療所の推計患者数,年齢階級 × 性・歯科分類別.
  2. 樋浦健二, 葭原明弘, 宮崎秀夫.
    パノラマX線を用いた高齢者の辺縁部および根尖部の歯周組織健康状態に関する研究.
    口腔衛生会誌53:130-136,2003.
  3. Sjogren U, Hagglund B, Sundqvist G, Wing K.
    Factors affecting the long-term results of endodontic treatment.
    J Endod. 1990 Oct;16(10):498-504.