たばこを吸うことは交感神経を刺激して血糖を上昇させるだけでなく、体内のインスリンの働きを妨げる作用があります。そのため糖尿病にかかりやすくなります。また、糖尿病にかかった人がたばこを吸い続けると、治療の妨げとなるほか、脳梗塞や心筋梗塞・糖尿病性腎症などの合併症のリスクが高まることがわかっています。
たばこを吸うと糖尿病にかかりやすいことが、国内外の多くの研究によって明らかにされています。わが国の7つの研究を含めた25の追跡調査を統合した研究によると、たばこを吸う人は、糖尿病に関係する他の要因(BMI・身体活動・飲酒など)を調整しても、2型糖尿病に1.4倍かかりやすいことが報告されています[2]。また喫煙本数が多いほど糖尿病になりやすく、禁煙した人ではリスクの低下がみられています。
喫煙すると糖尿病になりやすいのは、喫煙が「交感神経を刺激して血糖を上昇させる」ことと「体内のインスリンの働きを妨げる」という2つの作用が関係していると考えられています[3]。
禁煙すると、糖尿病の発症リスクは喫煙者に比べて低下しますが、禁煙に伴う体重増加によって血糖が上昇することが報告されています。しかし、禁煙による健康全般の改善効果は体重増加による血糖上昇の問題をはるかに上回ります[4]。また、体重増加によってリスクが上昇しやすい心血管疾患について、禁煙後に体重が5kg以上増加しても、虚血性心疾患、脳卒中のリスクが喫煙を続けた場合に比べて3割減ることが明らかになっています[5]。これらのことから、できるだけ早く禁煙しておくことが大切です。
糖尿病またはその悪化が心配な方は、禁煙にあたって禁煙外来を利用すること、禁煙後の体重増加の抑制効果が期待できるニコチン製剤などの禁煙補助薬を使うこと、体重マネジメントのための生活改善に取り組むこと、定期的に血糖検査を受けることがお勧めです。生活改善の中でも、運動には禁煙後のニコチン離脱症状をやわらげる効果があり、エネルギー消費量を増加させる効果と合わせて、体重マネジメントをしながら禁煙をより確実にすることが期待できます。
喫煙は、既に糖尿病にかかっている人においても悪影響を及ぼします。糖尿病の患者さんがたばこを吸い続けると、治療の妨げとなるほか、脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病性腎症など合併症のリスクが高まることがわかっています[3]。
治療の妨げとなる影響として、インスリン治療を行っている糖尿病患者さんは、喫煙の場合、非喫煙よりも多くのインスリンを必要とします(平均15~20%程度、ヘビースモーカーでは30%程度)[3]。また、喫煙はインスリンの皮下の吸収も遅らせます。一方で禁煙すると、体重増加がみられてもインスリン抵抗性が改善します。インスリン治療中の患者さんでは、治療に必要なインスリン量が禁煙によって減少するという報告もあります。
さらに、糖尿病患者さんが喫煙すると、脳梗塞や心筋梗塞・糖尿病性腎症などの糖尿病合併症のリスクが高まり、その結果として死亡全体のリスクが上昇することがわかっています[3]。つまり、いくら血糖のコントロールを心がけても喫煙していると命とりになるのです。禁煙すればこれらのリスクは改善しますが、糖尿病の患者さんの禁煙後はリスクがゆっくり低下するため、できるだけ早期に禁煙することが重要です。
喫煙と腎臓の関係についてはあまり知られていませんが、喫煙は糖尿病の有無に関わらず、CKD(慢性腎臓病)のリスクを高めることが報告されています。日本腎臓学会の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、「CKD進行やCVD(心血管疾患)発症および死亡リスクを抑制するためにCKD患者に禁煙は推奨される」[6]とされています。
(最終更新日:2024年03月18日)