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喫煙と呼吸器疾患

たばこを吸うと、基礎的疾患がない場合でも、呼吸器疾患を引き起こす原因となります。喫煙は、さまざまな呼吸器症状を引き起こし、喘息のリスクを高めます。また慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発生と、それによる死亡を引き起こす可能性があります。
それだけでなく、肺機能の発達障害や、呼吸機能の早期の低下にもつながります。さらに、新型コロナウイルスに感染したとき、喫煙者は非喫煙者と比較して、重症となる可能性が高いことが報告されています。

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たばこの煙の呼吸器系への影響

たばこの煙には多数の有害化学物質が含まれており、喫煙は全身の諸器官に悪影響をもたらします。その中でも特に影響を受けやすいのが、直接たばこ煙にさらされることになる呼吸器系です。
たばこの煙は、主に活性酸素フリーラジカルなどを過剰に産生するため、酸化ストレスの増大や炎症などを引き起こします。それらが呼吸器系に与える影響は次のとおりです。

中枢気道における変化

  • 線毛(繊毛)の消失……気管などに侵入する異物を除去する働きが鈍くなる
  • 粘膜腺の肥大……気道内の粘液分泌である痰(たん)が増える
  • 杯細胞(さかずきさいぼう)数の増加……粘膜細胞である杯細胞の過形成・過分泌により、痰が増える
  • 気管支粘膜上皮の組織学的変化……細胞の分化形質において異常が起こり(化生)、がんに発展するなどの変化が起こる

末梢気道における変化

  • 炎症や萎縮
  • 杯細胞や扁平上皮(へんぺいじょうひ:内部が空洞になっている臓器の粘膜組織)の化生
  • 粘膜栓や粘液の過剰な産生……気道にゼリー状の粘膜のかたまりや粘液分泌が増える
  • 平滑筋の肥大や萎縮……平滑筋が気道内で肥大・収縮すると、気道が狭くなり呼吸がしにくくなる
  • 細気管支周囲が線維化……細気管支にある肺胞が線維化して硬くなり、呼吸がしにくくなる

肺における変化

  • 肺胞の破壊
  • 小動脈数の減少……血流量の調節機能が低下し、血圧の上昇や動脈硬化などを引き起こす

このように、喫煙は呼吸器系の形態的・機能的変化をきたし、様々な症状や疾患を引き起こします。喫煙者は非喫煙者に比べて、咳(せき)・痰・喘鳴(ぜんめい:気道が狭くなっているため、呼吸時にゼーゼーという異常音が連続的に発生する状態)・息切れなどの症状が多く見られます。また、喫煙は気管支喘息のリスク因子とされています。特に、受動喫煙と小児の喘息には関連性があることが認められています。

喫煙とCOPDとの関連

喫煙は、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)の原因になることが明らかになっています。COPDは臨床的診断名で、「たばこ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生ずる肺疾患であり、呼吸機能検査で気流閉塞を示す」と定義されています[1]。COPDは肺気腫と慢性気管支炎を含んでおり、2つの病名を用いて定義していた従来の考え方を改めたものとなっています。

喫煙はCOPDのリスクの9割を占めるとされています。世界保健機構(WHO)の報告によると、COPDは世界の疾患別の死亡順位が第3位となっており、2019年の1年間におよそ300万人(全死亡者数に占める割合は6%)がCOPDで亡くなっていると推計されています[2]
COPDは予防可能な疾患として、世界の公衆衛生上の重要な課題となっています。わが国では、COPDでありながら未受診の方が500万人以上いると推定され、COPDによる死亡者数は年間約18,000人と報告されています[3]

他にも喫煙は、呼吸機能の低下、結核による死亡との関連も因果関係を推定するのに十分な証拠がある(レベル1)と判断されています。気管支喘息の発症および増悪、結核発症、結核再発、および突発性肺線維症との関連については、因果関係を示唆しているが十分でない(レベル2)と判定されています[4]

喫煙と新型コロナウイルスとの関連

喫煙は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク要因となります。喫煙者あるいは過去に喫煙していた人は、非喫煙者に比べ、新型コロナウイルスに感染した場合の重症化リスクや死亡リスクが高まることがわかってきました[6]
WHOの声明でも、高齢者や、心血管疾患・がん・呼吸器疾患・糖尿病など基礎疾患(持病)のある人、肥満者などとともに、喫煙(たばこ)も新型コロナウイルス感染症の重症化要因であると述べています[7]。新型コロナウイルスの感染を完全に防ぐのはなかなか難しいため、重症化を防ぐこと、死亡者を出さないことが重要となります。禁煙の推進は、新型コロナウイルス対策にもなるのです。

新型コロナウイルスは、主に肺を攻撃する感染症です。下のWHOが作成したポスターでは、たばこ産業が販売するたばこによって肺が脆弱な状態になっているところに、新型コロナウイルス感染を生じれば、肺がまさに狙い撃ちされることになると警告しています。 喫煙者が非喫煙者と比較して新型コロナウイルス感染症が重症化する可能性が高いという証拠が発表されたとき、何百万人もの喫煙者がたばこをやめたいと思うようになったといわれています[8]

図. 2020年世界禁煙デーのWHOポスター[8]より転載

2020年世界禁煙デーのWHOポスター

(最終更新日:2021年12月28日)

平野 公康

平野 公康 ひらの ともやす

国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 がん情報提供部 たばこ政策情報室長

1994年東京大学理学部生物学科卒業。専門はたばこ政策。研究テーマはたばこ煙の健康影響評価、喫煙室・喫煙所からの煙流出の評価、たばこの広告・販促・後援活動の影響。厚生労働省健康局健康課たばこ対策専門官、健康局参与(たばこ対策)として、健康増進法改正やたばこ規制枠組条約の日本国政府窓口業務に従事。望まない受動喫煙を防ぐ法律の施行やたばこ規制枠組条約の履行推進等の政策実現に貢献。

中村 正和

中村 正和 なかむら まさかず

公益社団法人 地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター センター長

1980年自治医科大学卒業。労働衛生コンサルタント、日本公衆衛生学会認定専門家、社会医学系指導医・専門医。専門は予防医学、ヘルスプロモーション、公衆衛生学。研究テーマはたばこ対策とNCD(生活習慣病)対策。厚労科研研究班代表者(2007-21年度)として、たばこ政策研究に従事。研究成果をもとに禁煙治療の保険適用、たばこ価格政策、健康日本21における喫煙の数値目標の設定、特定健診における禁煙支援の強化等の政策実現に貢献。

参考文献

  1. 日本呼吸器学会
    COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン[第5版]
    メディカルレビュー社
    2018.
  2. WHO
    The top 10 causes of death; 9 December 2020
    https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/the-top-10-causes-of-death
  3. 一般社団法人日本GOLD委員会
    COPD情報サイト:COPDに関する統計資料
    http://www.gold-jac.jp/copd_facts_in_japan/
  4. 厚生労働省
    喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書
    2016.
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000135586.html
  5. 厚生労働省
    喫煙と健康 喫煙と健康影響に関する検討会報告書
    保健同人社
    2002.
  6. 一般社団法人日本呼吸器学会
    新型コロナウイルス感染症とタバコについて
    https://www.jrs.or.jp/covid19/general/20200420155511.html
    2020.
  7. WHO
    WHO statement: Tobacco use and COVID-19 11 May 2020
    https://www.who.int/news/item/11-05-2020-who-statement-tobacco-use-and-covid-19
  8. WHO
    More than 100 reasons to quit tobacco; 8 December 2020
    https://www.who.int/news-room/spotlight/more-than-100-reasons-to-quit-tobacco