たばこを吸うと、基礎的疾患がない場合でも、呼吸器疾患を引き起こす原因となります。喫煙は、さまざまな呼吸器症状を引き起こし、喘息のリスクを高めます。また慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発生と、それによる死亡を引き起こす可能性があります。
それだけでなく、肺機能の発達障害や、呼吸機能の早期の低下にもつながります。さらに、新型コロナウイルスに感染したとき、喫煙者は非喫煙者と比較して、重症となる可能性が高いことが報告されています。
たばこの煙には多数の有害化学物質が含まれており、喫煙は全身の諸器官に悪影響をもたらします。その中でも特に影響を受けやすいのが、直接たばこ煙にさらされることになる呼吸器系です。
たばこの煙は、主に活性酸素やフリーラジカルなどを過剰に産生するため、酸化ストレスの増大や炎症などを引き起こします。それらが呼吸器系に与える影響は次のとおりです。
このように、喫煙は呼吸器系の形態的・機能的変化をきたし、様々な症状や疾患を引き起こします。喫煙者は非喫煙者に比べて、咳(せき)・痰・喘鳴(ぜんめい:気道が狭くなっているため、呼吸時にゼーゼーという異常音が連続的に発生する状態)・息切れなどの症状が多く見られます。また、喫煙は気管支喘息のリスク因子とされています。特に、受動喫煙と小児の喘息には関連性があることが認められています。
喫煙は、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)の原因になることが明らかになっています。COPDは臨床的診断名で、「たばこ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生ずる肺疾患であり、呼吸機能検査で気流閉塞を示す」と定義されています[1]。COPDは肺気腫と慢性気管支炎を含んでおり、2つの病名を用いて定義していた従来の考え方を改めたものとなっています。
喫煙はCOPDのリスクの9割を占めるとされています。世界保健機構(WHO)の報告によると、COPDは世界の疾患別の死亡順位が第3位となっており、2019年の1年間におよそ300万人(全死亡者数に占める割合は6%)がCOPDで亡くなっていると推計されています[2]。
COPDは予防可能な疾患として、世界の公衆衛生上の重要な課題となっています。わが国では、COPDでありながら未受診の方が500万人以上いると推定され、COPDによる死亡者数は年間約18,000人と報告されています[3]。
他にも喫煙は、呼吸機能の低下、結核による死亡との関連も因果関係を推定するのに十分な証拠がある(レベル1)と判断されています。気管支喘息の発症および増悪、結核発症、結核再発、および突発性肺線維症との関連については、因果関係を示唆しているが十分でない(レベル2)と判定されています[4]。
喫煙は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク要因となります。喫煙者あるいは過去に喫煙していた人は、非喫煙者に比べ、新型コロナウイルスに感染した場合の重症化リスクや死亡リスクが高まることがわかってきました[6]。
WHOの声明でも、高齢者や、心血管疾患・がん・呼吸器疾患・糖尿病など基礎疾患(持病)のある人、肥満者などとともに、喫煙(たばこ)も新型コロナウイルス感染症の重症化要因であると述べています[7]。新型コロナウイルスの感染を完全に防ぐのはなかなか難しいため、重症化を防ぐこと、死亡者を出さないことが重要となります。禁煙の推進は、新型コロナウイルス対策にもなるのです。
新型コロナウイルスは、主に肺を攻撃する感染症です。下のWHOが作成したポスターでは、たばこ産業が販売するたばこによって肺が脆弱な状態になっているところに、新型コロナウイルス感染を生じれば、肺がまさに狙い撃ちされることになると警告しています。 喫煙者が非喫煙者と比較して新型コロナウイルス感染症が重症化する可能性が高いという証拠が発表されたとき、何百万人もの喫煙者がたばこをやめたいと思うようになったといわれています[8]。
(最終更新日:2021年12月28日)