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喫煙と循環器疾患

たばこを吸うと、動脈硬化や血栓の形成が進むことから、虚血性心疾患を引き起こす原因となります。また、脳卒中(脳出血、くも膜出血、脳梗塞)のリスクを高めます。それだけでなく、喫煙は動脈硬化性疾患の早期発症や重症化にもつながることが報告されています。

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たばこの煙の血管系への影響

たばこの煙の中には、ニコチン、一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、シアン化水素(HCN)、活性酸素(O2)などの有害化学物質が含まれます。

ニコチンは交感神経を刺激して、心拍数の増加、血圧上昇、心筋の収縮および酸素需要の増加を引き起こします。同時に、血管の収縮による血流量の低下、酸素や栄養の供給低下を招きます。一酸化炭素は、酸素供給能力の低下を引き起こすとともに、血管内皮の組織障害や血栓形成の要因にもなります。活性酸素は炎症反応を誘発し、血管内皮の組織障害、脂質過酸化、インスリン抵抗性、血小板凝集などを通じて、動脈硬化や血栓の形成を引き起こします[1][2]

虚血性心疾患
虚血性心疾患は、心筋に酸素を供給している冠動脈がすぼまって狭くなることによって生じる病気の総称です。動脈硬化は血栓の形成が主な原因です[1][2]
喫煙によって動脈の炎症や収縮が引き起こされ、動脈硬化や血栓の形成が進みます。また、血小板の凝集も血栓の形成につながります。これらの機序(メカニズム)が相互に関連しあって、虚血性心疾患の発症につながります[1][2]。下図のポスターにあるように、たばこと心臓病はつながっていて、まさに「心臓やぶり」なのです[5]
国内外の研究から、喫煙が虚血性心疾患の発症、および死亡リスクを増加させることは明らかになっています[2]。また、米国の報告書から、喫煙本数を減らす、あるいは低タール・低ニコチンたばこに切り替えることは、虚血性心疾患のリスク低下にはつながらないとの結論が示されています[3]

図. 2018年世界禁煙デーのWHOポスター[5]より転載

2018年世界禁煙デーのWHOポスター

 

脳卒中
脳卒中は、脳の血管の血流障害によって、血管周囲や血管が栄養する脳の領域の神経細胞が死滅することで発症する病気です。急に手足がしびれたり動かなくなったり、言葉が話せなくなったり、あるいは意識がなくなったりする発作を引き起こすこともあります。脳卒中は病態の違いから、脳の血管が破れるタイプ(くも膜下出血、脳出血)、脳の血管が詰まるタイプ(脳梗塞など)に分けられます[1][2]
喫煙による脳の動脈の動脈硬化や血栓の形成、炎症反応により、脳梗塞やくも膜下出血の発症、および死亡のリスクが高まります[1]

 

その他喫煙によって引き起こされる循環器疾患

喫煙によって、末梢の動脈硬化症、主に閉塞性動脈硬化症や頸動脈硬化症のリスクが高まります。さらに、腹部大動脈瘤の破裂にも影響していることが明らかになっています[1]

 

受動喫煙と循環器疾患

ニコチン、一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、シアン化水素(HCN)、活性酸素(O2)などのたばこの有害化学物質は、副流煙と喫煙者が吐き出した呼出煙とが混じりあった「環境たばこ煙」の中にも含まれます[1][2]。そのため、喫煙者本人だけでなく、周りの人の健康へも悪影響を及ぼします。たばこ煙にさらされた非喫煙者も、喫煙者本人と同様の機序で虚血性心疾患、脳卒中などのリスクが高まります。受動喫煙と、虚血性心疾患や脳卒中との関連については、因果関係を推定するのに十分な証拠がある(レベル1)と判断されています[1]

 

加熱式たばこと循環器疾患

加熱式たばこには、紙巻たばこと同等程度のニコチン量を含むものもあります[6]。一酸化炭素など他の有害化学物質については紙巻たばこよりも少ないという報告はあるものの、その一方で、紙巻たばこには含まれない有害化学物質や、紙巻たばこよりも多く含む物質があるという指摘もあります[4]

世界保健機構(WHO)の報告によると、加熱式たばこが紙巻たばこと類似した心血管毒性を有することが示唆されています。紙巻たばこから加熱式たばこに切り替えたとしても、いくつかの心血管疾患の指標に改善が見られないため、加熱式たばこは慢性疾患の減少に有効でない可能性があると述べられています[4]

加熱式たばこの受動喫煙による影響についての研究はさらに限られており、健康への影響は明らかになっていません[4]

(最終更新日:2022年12月13日)

平野 公康

平野 公康 ひらの ともやす

国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 がん情報提供部 たばこ政策情報室長

1994年東京大学理学部生物学科卒業。専門はたばこ政策。研究テーマはたばこ煙の健康影響評価、喫煙室・喫煙所からの煙流出の評価、たばこの広告・販促・後援活動の影響。厚生労働省健康局健康課たばこ対策専門官、健康局参与(たばこ対策)として、健康増進法改正やたばこ規制枠組条約の日本国政府窓口業務に従事。望まない受動喫煙を防ぐ法律の施行やたばこ規制枠組条約の履行推進等の政策実現に貢献。

中村 正和

中村 正和 なかむら まさかず

公益社団法人 地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター センター長

1980年自治医科大学卒業。労働衛生コンサルタント、日本公衆衛生学会認定専門家、厚生科学審議会専門委員。専門は予防医学、ヘルスプロモーション、公衆衛生学。研究テーマはたばこ対策とNCD(生活習慣病)対策。厚労科研研究班代表者(2007-21年度)として、たばこ政策研究に従事。研究成果をもとに禁煙治療の保険適用、たばこ価格政策、健康日本21における喫煙の数値目標の設定、特定健診における禁煙支援の強化等の政策実現に貢献。

参考文献

  1. 厚生労働省.
    喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書.
    2016.
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000135586.html
  2. 厚生労働省.
    喫煙と健康 喫煙と健康影響に関する検討会報告書.
    保健同人社.
    2002.
  3. U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service Office of the Surgeon General. 2014 Surgeon General’s Report: The health consequences of smoking – 50 years of progress.
  4. WHO. Comprehensive report on research and evidence on novel and emerging tobacco products, in particular heated tobacco products, in response to paragraph 2(a)-(d) of decision FCTC/COP8(22). FCTC/COP/9/9. 23 July 2021.
  5. WHO神戸センター. 世界禁煙デー2018:タバコは「心臓やぶり」
    https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/news/wntd2018
  6. 厚生労働省. 受動喫煙対策.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/AA10K-0000189195.html