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アルコールとうつ、自殺

アルコール依存症とうつ病の合併は頻度が高く、アルコール依存症にうつ症状が見られる場合やうつ病が先で後から依存症になる場合などいくつかのパターンに分かれます。アルコールと自殺も強い関係があり、自殺した人のうち1/3の割合で直前の飲酒が認められます。

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1. アルコールとうつ病

1: うつ病にアルコール依存症が合併する割合

うつ病の人とうつ病ではない人のアルコール依存症合併率を比較した研究結果を表1に示します。表のようにうつ病はアルコール依存症を合併する率が高いことがわかります。

表1:うつ病の人とうつ病ではない人がアルコール依存症を合併する割合の比較(1)
参考文献[1]
うつ病患者 非うつ病
高血圧患者 糖尿病患者
現在依存症をもっている人の割合(%) 19% 4% 16%
過去に依存症になったことのある人の割合(%) 6% 3% 14%
表1:うつ病の人とうつ病ではない人がアルコール依存症を合併する割合の比較(2)
参考文献[2] 参考文献[3]
うつ病患者 非うつ病 うつ病患者 非うつ病
一般住民 一般住民
現在依存症をもっている人の割合(%) 21% 7%
過去に依存症になったことのある人の割合(%) 40% 16% 16% 13%

2: アルコール依存症にうつ病が合併する割合

米国における一般住民を対象とした大規模調査で現在または過去にアルコール依存症と診断された人の調査によると、依存症の人には調査前1年間に限ってもうつ病が27.9%にみられて依存症ではない人と比べてうつ病になる危険性(オッズ比)は3.9倍、躁うつ病は1.9%にみられてオッズ比は6.3倍といずれも高い頻度で合併することが示されました[4]

3: うつ病とアルコール依存症が合併するパターン

うつ病とアルコール依存症の合併には4つのパターンが考えられます。

  • a. 単なる合併または共通の原因(ストレス・性格・遺伝因子など)による場合。
  • b. 長期の大量飲酒がうつ病を引き起こした場合。
  • c. うつ病の症状である憂うつ気分や不眠を緩和しようとして飲酒した結果、依存症になった場合。
  • b. アルコール依存症の人が飲酒をやめることによって生じる離脱症状のひとつとしてうつ状態がみられる場合。

また、うつ病とアルコール依存症の時間的な関係から、うつ病が先行してアルコール依存症が合併する場合は一次性うつ病、アルコール依存症が先行してうつ病を合併する場合は二次性うつ病と呼ぶこともあります。

4: うつ病の経過に及ぼすアルコールの影響

うつ病の人の飲酒がうつ病の経過に影響するかしないかという点については意見が分かれています。飲酒の問題によってうつ病の改善率が低下するという意見と飲酒とうつ病の再発には関連がないという意見があって見解が分かれています。

一方、うつ病では自殺の危険性を常に念頭に置かなければなりませんが、アルコール依存症の合併や飲酒問題はうつ病の自殺の危険性を高めるとされています。

5: アルコール問題とうつ状態が合併した場合の対処

二次性うつ病の場合、すなわちアルコール依存症にうつ状態が合併した場合は、まず断酒から始めることは当然です。一次性うつ病の場合でも一定期間(最低数ヶ月程度)断酒してみると良いでしょう。うつ症状をアルコールが修飾している可能性も考えられ、うつ状態の改善も期待できます。また、抗うつ薬や抗不安薬といった薬物療法を行なう上でも飲酒は避けることが必要です。

2. 飲酒と自殺

飲酒と自殺の関係について、飲酒した後の自殺行動・慢性的な飲酒と自殺の関係・飲酒の問題と自殺の3つについて説明します。

1: 飲酒直後の自殺

自殺した人からアルコールが検出されることは珍しいことではありません。日本の調査でも自殺例全体のアルコール検出率は32.8%で毒物死・焼死・轢死・墜落死で高濃度のアルコールが検出されています[5]。この割合を海外の調査結果と比較すると、自殺した人からは平均で37%からアルコールが検出され、自殺未遂で救急病院を受診した人からは平均で40%の人からアルコールが検出されています[6]。このように自殺の直前に飲酒する割合は高いことが知られていますが、その理由としては下記のような心理的変化が提唱されています[6]

  • a. 飲酒が絶望感・孤独感・憂うつ気分といった心理的苦痛を増強する
  • b. 飲酒が自分に対する攻撃性を高める
  • c. 飲酒は人の予想に変化をもたらして死にたい気持ちを行動に移すきっかけとなる
  • d. 視野を狭めて自殺を予防するために有効な対処手段を講じられなくなる

2: 慢性的な飲酒と自殺

習慣的な大量飲酒も自殺の危険性を高めます。わが国の調査によると、中年男性を7年以上追跡した調査では月に1-3日程度飲酒する人が自殺で死亡する危険度を1とした場合、非飲酒者および週に414グラム(日本酒約18合に相当)以上の大量飲酒者で自殺による死亡の相対危険度が2.3と危険性が高くなり、少量ないし中等量の飲酒では自殺による死亡の危険度は低くなるという結果でした[7]。国内のもう一つの男性の調査では上述の調査とは結果がやや異なっており、飲酒量に比例して自殺で死亡する危険度が高くなるという結果でした[8]。このふたつの調査では大量飲酒が自殺の危険を高めることは共通していますが、非飲酒または少量の飲酒が自殺の危険性を高めるか関係しないかという点については結果が分かれていました。

3: アルコール使用障害と自殺

アルコール依存症の人は依存症ではない人と比較して自殺の危険性が約6倍高いとされています。特にうつ病の合併・離婚や別離といった対人関係のストレス・社会的サポートの欠如・非雇用・重篤な身体疾患・単身生活といったことが自殺の危険性を高めるとされます。また、アルコールの乱用そのものも自殺の危険性を高めます[9]
一方、自殺者にうつ病が多いことは有名ですが、うつ病以外では依存症が最も頻度が高く、自殺者全体の15-56%にアルコール乱用または依存がみられたと報告されています[10]

松下 幸生

松下 幸生 まつした さちお

独立行政法人 国立病院機構 久里浜医療センター 院長

1987年慶応義塾大学卒業、同年同大学精神神経科学教室入局。88年より国立療養所久里浜病院(現・久里浜医療センター)勤務。2011年より副院長、13年より同センター認知症疾患医療センター長、2022年より現職。専門は、アルコール依存症、ギャンブル依存症、認知症など。

参考文献

  1. Sherbourne, CD, Hays, RD, Wells, KB et al.
    Prevalence of comorbid alcohol disorder and consumption in medically ill and depressed patients.
    Arch Fam Med 2: 1142-1150, 1993.
  2. Grant BF, Harford TC.
    Comorbidity between DSM-IV alcohol use disorders and major depression: results of a national survey.
    Drug Alcohol Depend 39: 197-206, 1995.
  3. Regier DA, Farmer ME, Rae DS et al.
    Comorbidity of mental disorders with alcohol and other drug abuse. Results from the Epidemiologic Catchment Area (ECA) Study.
    JAMA 264: 2511-2518, 1990
  4. 松下幸生, 樋口 進.
    飲酒とうつ状態の早期発見.
    こころの科学 125: 43-48, 2006.
  5. 伊藤敦子, 伊藤順通.
    外因死ならびに災害死の社会病理学的検索 (4) 飲酒の関与度.
    東邦医会誌 35: 194-199, 1988.
  6. Cherpitel CJ, Borges GL, Wilcox HC.
    Acute alcohol use and suicidal behavior: A review of the literature.
    Alcohol Clin Exp Res 28 (5 Suppl): 18S-28S, 2004.
  7. Akechi T, Iwasaki M, Uchitomi Y, et al.
    Alcohol consumption and suicide among middle-aged men in Japan.
    Br. J. Psychiatry 188:231-236, 2006.
  8. Nakaya N, Kikuchi N, Shimazu T et al.
    Alcohol consumption and suicide mortality among Japanese men: the Ohsaki Study.
    Alcohol 41: 503-510, 2007.
  9. 松下幸生, 樋口 進.
    アルコール依存における自殺防止.
    臨床精神薬理 9: 1569-1576, 2006.
  10. Pirkola SP, Suominen K,
    Isometsa ET: Suicide in alcohol-dependent individuals.
    CNS Drugs 18: 423-436, 2004.