妊娠中の母親の飲酒は、胎児・乳児に対し、低体重や、顔面を中心とする形態異常、脳障害などを引き起こす可能性があり、胎児性アルコール・スペクトラム障害といわれます。胎児性アルコール・スペクトラム障害には治療法はなく、唯一の対策は予防です。また少量の飲酒でも、妊娠のどの時期でも影響を及ぼす可能性があることから、妊娠中の女性は完全にお酒をやめるようにしましょう。
妊娠中のお母さんが飲酒すると、生まれてくる子どもに様々な影響を残すことがあり、胎児性アルコール・スペクトラム障害(Fetal Alcohol Spectrum Disorders, FASD)と呼ばれています。胎児性アルコール・スペクトラム障害は幅広い症状を含み、名称や診断基準も複数提案されています。
その中核ともいえる胎児性アルコール症候群(Fetal Alcohol Syndrome, FAS)については、1996年に出された診断基準では、①顔面の特異的顔貌(例:薄い上口唇、平坦な人中、平坦な顔面中央)、②発達遅滞(低体重、体重増加の遅れ)、③中枢神経系の障害(出生時の頭蓋の大きさの減小、小頭症・脳梁欠損などの脳の形態異常、感音性難聴、協調運動障害など)となっています[1]。特に知的能力障害について、非遺伝性疾患による知的能力障害ではアルコールが最多の原因とする意見もあるように[2]、大きな問題となっています。
出生数1,000名あたりの発生数は1.06~113.22と[3][4]、調査によって大きく異なりますが、これは調査手法の違いに加え、対象となる集団の飲酒状況の影響も大きいと考えられます。基本的に、胎児性アルコール症候群は、飲酒量に比例してリスクも増え、大量飲酒者である女性アルコール依存症者の子どもに対する調査では、妊娠中飲酒したケースの30%と報告されています[4]。一方で、ここまでなら大丈夫という飲酒量のしきい値はわかっていません。短期間であっても大量の飲酒はリスクが高く、また妊娠初期がよりリスクが高くなりますが[5]、基本的には妊娠全期間を通して何らかの影響が出る可能性があります。
また、特異的顔貌や低体重などは成長とともに次第に目立たたなくなってきますが、ADHDやうつ病、依存症などの精神科的問題が、後年明らかになってくることがあります。胎児性アルコール・スペクトラム障害には治療法はないため、唯一の対処法は妊娠中飲酒しないことです。幸いなことに日本では妊娠中の女性の飲酒率は18.1%(2000年)⇒8.7%(2010年)⇒4.3%(2013年)と減少傾向ですが、0%を目標とした取り組みが今後も必要です[6]。
(最終更新日:2021年10月25日)