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アルコールと循環器疾患

適量の飲酒は循環器疾患に保護的に働くといわれています。過度の飲酒は逆に循環器疾患のリスク因子になります。「節度ある適度な飲酒」を守ることが肝要です。また、循環器疾患以外のリスクや持病・体質等も考えると、現在飲酒していない人や飲めない人に対して飲酒を強要しないことも重要です。

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1. 飲酒量と循環器疾患との関係

適量の酒は体によいといわれており、こと循環器疾患に限っていえば、この法則が当てはまるようにみえます(飲酒とJカーブの項目を参照)。

以下に個々の循環器疾患と飲酒との関係を羅列します。

冠血管疾患
男性で約2ドリンク、女性で約1ドリンク(飲酒量の単位の項目を参照)の飲酒なら心臓関連死のリスクが20%減る[1]
心不全
約1~2ドリンクの飲酒なら保護的に働く[2][3][4]が、それ以上の飲酒は心不全発症率を上昇させる。なお、多量飲酒によってアルコール心筋症を呈していた場合、断酒が不可欠である。
高血圧
少量のアルコールは血圧を一時的に低下させるが、長期間の飲酒は血圧を上昇させ、高血圧の原因になりうる。
脳梗塞・脳出血
脳梗塞は約2ドリンクの飲酒は保護的に働く。脳出血はアルコール摂取量が増えると直線的にリスクは増加する。
不整脈
飲酒は心房細動を誘発する。平均2合(約4ドリンク)以上の飲酒をすると、心房細動の罹患リスクが約2倍になると報告[5]されている。

循環器疾患では出血性疾患と不整脈疾患を除けば少量の飲酒はよい方向に働いているように見えます。このメカニズムにはアルコールの抗凝固作用・抗酸化作用などの関与が指摘されています。

2. 過度の飲酒と循環器疾患

一方でアルコールは心臓によいことばかりというわけではありません。過度の飲酒は循環器疾患関連死を増大させ、乳がんや肝硬変その他あらゆる疾患のリスク因子となります。ほかにも、いわゆる一気飲みは急性アルコール中毒による突然死のリスクを高めます。

3. 循環器疾患にとっての適量とは

前述の1.に出てきたドリンクとは「1ドリンク=10gのアルコール量」を指し、ビール中ビン0.5本、日本酒0.5合に相当します。しかしこれは、あくまでも全体としての平均値の酒量であって体質や体格によって個々人の許容量は異なりますので注意が必要です。[6]飲酒のガイドラインの項目を参照)

また、ここ最近では、少量の飲酒により、心筋梗塞などの循環器疾患の発症リスクは下がるものの、結核や乳がんなどの他の疾患リスクが上昇するため、飲酒とJカーブを否定し得る報告[7]もあり、注意が必要です。
特に、生まれつきお酒を飲めない人や、お酒を飲む習慣がない人に、飲酒を強要しないことも重要です。お酒に対する強さの体質は、アルデヒド分解に関わる遺伝子(ALDH2)が大きく影響することがわかっています。この遺伝子の活性が弱い人は、ごく少量の飲酒でも顔面紅潮や動悸、嘔気、頭痛などの不快な反応を起こします。飲酒の許容量は各々異なることを踏まえ、循環器疾患への影響だけで少量の飲酒を勧めるのではなく、体質的にお酒が飲めない人や、様々な理由によりお酒を飲む習慣がない人に無理に飲酒させることがないよう心がけることが求められます。

4. 他の循環器疾患のリスク因子と飲酒

2ドリンク程度のアルコールに循環器疾患の保護作用があるといっても、循環器疾患には多くのリスク因子が指摘されており、アルコール以外の要素も考慮する必要があります。リスク因子として確立しているものとしては、高血圧・脂質異常症糖尿病・肥満・喫煙などがあり、保護的に働くものは、適度な運動・果物や野菜を取り入れた食事・ビタミンB12や葉酸などのビタミン類です。たとえば喫煙の循環器疾患に対するリスクは約2倍といわれています。アルコールだけでなく、そのほかのリスク因子に対しても注意する必要があります。

5. 循環器疾患の薬とアルコール

なお、既に循環器疾患にかかっている方は、血液をさらさらにする薬や不整脈の薬を内服している場合があります。こういった薬の一部は肝臓で代謝されるため、肝臓の機能に悪影響を及ぼし得るアルコール摂取は避けるべきと考えられます。さらに、アルコールにより肝臓の機能が極端に低下している方は、断酒をする必要があります。

循環器疾患の薬を内服している方は、自己判断せずに、主治医に飲酒してよいか、それとも断酒をすべきか相談していただくことが重要です。

6. 循環器疾患と酒との上手な付き合い方

アルコールは生活に豊かさと潤いを与える一方で、過剰な飲酒は、循環器疾患も含めそのリスクを増大させます。さらに、生まれつきお酒を飲めない人や、お酒を飲む習慣がない人に、飲酒を強要しないことも重要です。
そのうえで適量の酒とは、酒によって健康になるという性質のものではなく、各々の体質も勘案しつつ、適量のお酒を飲んでもよい環境、すなわち適度な運動をし、バランスの取れた食事をし、生き生きとした健康的な生活の結果として許される「節度ある適度な飲酒」(飲酒のガイドラインの項目を参照)のことを指すと言えるでしょう[8]

(最終更新日:2021年8月30日)

伊東 寛哲 いとうひろあき

独立行政法人 国立病院機構 久里浜医療センター 精神科 医師

東京都出身。2012年国立大学法人群馬大学医学部医学科卒業。医師、精神科専門医・指導医、精神保健指定医。2015年より久里浜医療センター勤務。2020年厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課 依存症対策専門官。2021年より再度久里浜医療センターにて勤務。現在はアルコール依存症ならびに医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律)病棟での診療を担当。

参考文献

  1. Thun MJ et al. Alcohol consumption and mortality among middle-aged and elderly U.S. adults. N Engl J Med 337: 1705-14, 1997.
  2. Dorans KS, Mostofsky E, Levitan EB, et al. Alcohol and incident heart failure among middle-aged and elderly men: cohort of Swedish men. Circ Heart Fail 2015; 8: 422-427.
  3. Gémes K, Janszky I, Ahnve S, et al. Light-to-moderate drinking and incident heart failure--the Norwegian HUNT study. Int J Cardiol 2016; 203: 553-560.
  4. Gonçalves A, Claggett B, Jhund PS, et al. Alcohol consumption and risk of heart failure: the Atherosclerosis Risk in Communities Study. Eur Heart J 2015; 36: 939-945.
  5. Kokubo, Y, et al, Development of a Basic Risk Score for Incident Atrial Fibrillation in a Japanese General Population- The Suita Study. Circ J, 2017. 81(11): p. 1580-1588.
  6. Kloner RA, Rezkalla SH. To drink or not to drink? That is the question. Circulation, 116: 1306, 2007
  7. Lancet.2018;392:1015-35 Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016 GBD 2016 Alcohol Collaborators
  8. Fillmore KM et al. Alcohol consumption and mortality. I. Characteristics of drinking groups. Addiction 93: 183-203, 1998.