適量の飲酒は循環器疾患に保護的に働くといわれています。過度の飲酒は逆に循環器疾患のリスク因子になります。「節度ある適度な飲酒」を守ることが肝要です。また、循環器疾患以外のリスクや持病・体質等も考えると、現在飲酒していない人や飲めない人に対して飲酒を強要しないことも重要です。
適量の酒は体によいといわれており、こと循環器疾患に限っていえば、この法則が当てはまるようにみえます。
以下に個々の循環器疾患と飲酒との関係を羅列します。
循環器疾患では出血性疾患と不整脈疾患を除けば少量の飲酒はよい方向に働いているように見えます。このメカニズムにはアルコールの抗凝固作用・抗酸化作用などの関与が指摘されています。
一方でアルコールは心臓によいことばかりというわけではありません。過度の飲酒は循環器疾患関連死を増大させ、乳がんや肝硬変その他あらゆる疾患のリスク因子となります。ほかにも、いわゆる一気飲みは急性アルコール中毒による突然死のリスクを高めます。
前述の1.に出てきたドリンクとは「1ドリンク=10gのアルコール量」を指し、ビール中ビン0.5本、日本酒0.5合に相当します。しかしこれは、あくまでも全体としての平均値の酒量であって体質や体格によって個々人の許容量は異なりますので注意が必要です。[6]
また、ここ最近では、少量の飲酒により、心筋梗塞などの循環器疾患の発症リスクは下がるものの、結核や乳がんなどの他の疾患リスクが上昇するため、飲酒とJカーブを否定し得る報告[7]もあり、注意が必要です。
特に、生まれつきお酒を飲めない人や、お酒を飲む習慣がない人に、飲酒を強要しないことも重要です。お酒に対する強さの体質は、アルデヒド分解に関わる遺伝子(ALDH2)が大きく影響することがわかっています。この遺伝子の活性が弱い人は、ごく少量の飲酒でも顔面紅潮や動悸、嘔気、頭痛などの不快な反応を起こします。飲酒の許容量は各々異なることを踏まえ、循環器疾患への影響だけで少量の飲酒を勧めるのではなく、体質的にお酒が飲めない人や、様々な理由によりお酒を飲む習慣がない人に無理に飲酒させることがないよう心がけることが求められます。
2ドリンク程度のアルコールに循環器疾患の保護作用があるといっても、循環器疾患には多くのリスク因子が指摘されており、アルコール以外の要素も考慮する必要があります。リスク因子として確立しているものとしては、高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満・喫煙などがあり、保護的に働くものは、適度な運動・果物や野菜を取り入れた食事・ビタミンB12や葉酸などのビタミン類です。たとえば喫煙の循環器疾患に対するリスクは約2倍といわれています。アルコールだけでなく、そのほかのリスク因子に対しても注意する必要があります。
なお、既に循環器疾患にかかっている方は、血液をさらさらにする薬や不整脈の薬を内服している場合があります。こういった薬の一部は肝臓で代謝されるため、肝臓の機能に悪影響を及ぼし得るアルコール摂取は避けるべきと考えられます。さらに、アルコールにより肝臓の機能が極端に低下している方は、断酒をする必要があります。
循環器疾患の薬を内服している方は、自己判断せずに、主治医に飲酒してよいか、それとも断酒をすべきか相談していただくことが重要です。
アルコールは生活に豊かさと潤いを与える一方で、過剰な飲酒は、循環器疾患も含めそのリスクを増大させます。さらに、生まれつきお酒を飲めない人や、お酒を飲む習慣がない人に、飲酒を強要しないことも重要です。
そのうえで適量の酒とは、酒によって健康になるという性質のものではなく、各々の体質も勘案しつつ、適量のお酒を飲んでもよい環境、すなわち適度な運動をし、バランスの取れた食事をし、生き生きとした健康的な生活の結果として許される「節度ある適度な飲酒」のことを指すと言えるでしょう[8]。
(最終更新日:2022年12月21日)