口(舌・咽頭)から食道・胃・小腸・大腸・肛門まで、食べ物が消化・吸収・排泄される通り道が消化管です。アルコールも消化管を流れて吸収・代謝されるので、様々な影響があります。
「食前酒」という慣習は、消化管への正の影響です。アルコールは、消化酵素の分泌を増やしたり胃の血流を良くすることで胃の動きを活発にして消化運動を亢進させ、食欲増進にもつながります。
しかしお酒の濃度と量が適量を超えると、消化管に障害を起こします。口から摂取されたアルコールは食道を通り、胃で20%、小腸から残りの80%が吸収され体内(90%以上が肝臓で代謝されます)に入ります。アルコールは、消化管に直接障害を起こすほかに、粘膜の血流や消化液などに影響を与え、間接的にも障害を起こします。また消化管平滑筋内の蛋白質や神経を障害し、消化管の運動機能に影響を与えます。さらに発癌(がん)作用を有すると考えられています。
1. アルコールと消化管の癌
食道癌・咽頭癌・喉頭癌・大腸癌は、飲酒量に依存した危険率の上昇を認め、特に喫煙者では危険性が高まります。なお癌に関する詳細は、「アルコールと癌(がん)」の項を参照してください。
2. アルコールと食道
- 1. 胃食道逆流症(逆流性食道炎)
- アルコールは胃の内容物の食道への逆流を防ぐための下部食道括約筋(LES圧)を緩めたり、食道の蠕動運動を低下させて胃酸の逆流を引き起こします。胃酸に曝露された食道は、ただれて食道炎となります。検査で発見されることもあれば、胸やけとして感じることもあります。
- 2. マロリーワイス症候群
- 嘔吐を繰り返すことで食道に圧が加わり、食道下部から胃の入り口(噴門部)の血管が破れ出血することをいいます。アルコールはLES圧を緩めますから、容易に食道に圧が加わるため、飲酒後に起こることが多い疾患です。
- 3. 食道静脈瘤
- アルコール性肝硬変になると、肝臓に入れない血流が食道に流れ込み静脈瘤を形成します。時に破裂して大量の吐血や血便を認めます。
- 4. 食道カンジダ症
- アルコール依存症になると免疫力の低下から、カビ(カンジダ菌)が食道に生成して食道炎となることがあります。無症状のこともあれば、胸に違和感を感じることもあります。
3. アルコールと胃・十二指腸
- 1. 急性胃粘膜病変(AGML)
- 摂取するアルコールが大量・高濃度なると、胃酸による自己消化を防ぐ胃の粘膜防御機構が壊れ、また直接的に胃粘膜障害(血流障害)がおこるなどして、浅い潰瘍や出血性のただれ(びらん)が多発します。腹痛や吐血・血便・嘔吐などの症状が現れます。
- 2. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 急性胃粘膜病変と同様に飲酒者に発症しやすく、喫煙とともに、ピロリ菌感染とは独立した危険因子として知られています。
- 3. 門脈圧亢進性胃炎
- アルコール性肝硬変になって門脈圧が亢進すると胃が上部を中心にうっ血し、しばしば表面から出血をおこし貧血の原因となります。
4. アルコールと小腸、大腸
- 1. 下痢
- アルコールを大量に摂取すると、水分や電解質(ナトリウム・クロル)の腸から体への吸収が悪くなり、水分と電解質の排出量が増えます。さらに糖や脂肪の分解・吸収も低下し、下痢を起こしやすくなります。
- 2. 吸収障害
- アルコール依存者では食事の偏りに加え、ビタミン吸収障害がみられるため、ビタミン欠乏による脳症・貧血・末梢神経障害が起こります。
- 3. 大腸ポリープ
- アルコール長期大量摂取者は、大腸ポリープができやすいと言われています。食生活の偏りなどの関係が考えられています。
- 4. 痔核
- アルコール摂取により、血液のうっ滞がおこり悪化しやすくなります。これに下痢が加わると症状は強くなります。アルコール性肝硬変になると門脈圧亢進に伴い直腸に血管が生じ、痔核となります。