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アルコールとがん

世界保健機関(WHO)は、飲酒は頭頸部(口腔・咽頭・喉頭)がん・食道がん(扁平上皮がん)・肝臓がん・大腸がん・女性の乳がんの原因となると認定しています。アルコール飲料中のエタノールとその代謝産物のアセトアルデヒドの両者に発がん性があり、少量の飲酒で赤くなる体質の2型アルデヒド脱水素酵素の働きが弱い人では、アセトアルデヒドが食道と頭頸部のがんの原因となるとも結論づけています。

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アルコールの発がん性

アルコールはアルコール脱水素酵素(ADH)の作用でアセトアルデヒドに変わり、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)の作用で酢酸に変わります。これらの酵素の働き(活性)には遺伝で決まった強弱があります。ADH1B(旧名ADH2)の働きが特に弱い人は日本人の5~7%程度にみられ、アルコールが長時間残るためアルコール依存症になりやすく、依存症では30%前後がこの体質です。2型アルデヒド脱水素酵素 (ALDH2)の働きが弱い(低活性または非活性)人は日本人の40%程度にみられ、アセトアルデヒドの分解が遅いため飲酒で赤くなり二日酔いを起こしやすい体質です。依存症では15%程度がこの体質です。

アルコールとアセトアルデヒドには発がん性があり、このふたつの酵素の働きが弱い人が飲酒家になると頭頸部・食道の発がんリスクが特に高くなります。頭頸部・食道のがんは1人に複数発生する傾向がありますが、飲酒と喫煙とは相乗的に多発がんの危険性を高め、さらにALDH2の働きが弱いと特に多発がんが多くみられます。コップ1杯のビールで顔が赤くなる体質が、現在または飲酒を始めた最初の1~2年にあった人では、約9割の確率でALDH2の働きが弱いタイプと判定されます。飲酒に加え喫煙と野菜果物の摂取不足も同部位の発がんリスクを高めます。

飲酒量と発がんリスク

乳がんについては欧米の疫学研究が一貫して関連を支持し、58,000以上の症例を含む53の研究をまとめた解析では、エタノールで10g(5%ビールなら250mL)増加するごとに7.1%リスクが増加しました。日本では近年女性の飲酒が増加傾向にありますが、日本の研究においては飲酒と乳がんとの類似の結果が近年報告されてきています。

大腸がんはエタノール換算50gで1.4倍程度のリスクとなります。日本と欧米の疫学研究を比較すると、日本人は欧米人よりも同じ飲酒量でも大腸がんのリスク増加は若干多い傾向にあります。大腸がんは頻度が多いので飲酒量を減らすことによる予防効果は大きいと予想されます。

肝臓がんの最大の原因はC型・B型肝炎ウイルスへの感染と肝硬変ですが、飲酒も原因のひとつです。飲酒はB型とC型肝炎ウイルス感染者では肝硬変への進展を促進し発がん年齢を低下させます。

最近の研究では、多量飲酒が膵がんとALDH2の働きが弱い人の胃がんのリスクを高め、妊婦の飲酒が小児の骨髄性白血病のリスクとなる可能性が報告されてきています。また、飲酒が関連する発がんでは安全な飲酒量は示されていません。頭頸部がん、食道がん、肝臓がんでは禁酒により最初のがんや2つ目のがんの発生リスクが低下することが報告されており、禁煙・禁酒・野菜や果物の摂取に取り組めばさらにリスクは低下します。

(最終更新日:2022年12月26日)

横山 顕 よこやま あきら

独立行政法人 国立病院機構 久里浜医療センター 臨床研究部部長

静岡県出身。1985年慶応義塾大学医学部卒業、内科医、博士(医学)。30年以上アルコール離脱期病棟の担当医として勤務。2004年より現職。アルコール依存症の臨床と研究が専門。

参考文献

  1. International Agency for Research on Cancer.
    IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Vol. 96.
    Alcohol Beverage Consumption and Ethyl Carbamate (Urethane). Lyon: IARC, 2010.
  2. 横山 顕.
    お酒を飲んで、がんになる人、ならない人.
    星和書店, 東京, 2017.