1.慢性疾患を有する人の身体活動のポイント
- シートの使用対象:医師及び患者や健診受診者などに運動や身体活動を推奨・指導する立場の人。
- 慢性疾患を有する人に対しても、個人の状態等に応じた身体活動を勧める。特に本ガイドは、高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、変形性膝関節症を有する人で、かつ状態が落ち着いている人が対象である。まずは、患者等が現状を知り、無理のない強度・頻度で始めて、徐々に増やしていくことが重要である。
- 身体活動によって悪化する可能性のある合併症・運動器の痛みや変形がある場合があるため、事前に医師等の専門家に相談する。
- 慢性疾患を有する人であっても、身体活動を制限する状態でなければ、強度が3メッツ以上の身体活動を週23 メッツ・時以上行うことを勧める。具体的には、歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上に相当)行うことを勧める。ただし、高齢者や体力レベルが低い人では合計して40分(1日約6,000歩以上に相当)行うことを勧める。
- 筋力トレーニングを週2~3日行うことを勧める。
- 高齢者には、筋力・バランス運動・柔軟性など多要素な運動を週3日以上行うことを勧める。
- 座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する。
- 健診機関や医療機関は、個人の準備状況に合った身体活動推進のメッセージを発信する。
2.慢性疾患を有する人の身体活動推奨の考え方
基本的には、成人または高齢者の推奨事項が活用できます。ただし、慢性疾患を有する人では、年齢よりむしろその人の健康状態、身体活動状況・体力レベルにより取り組む内容を選ぶのが現実的です。また、エビデンス(科学的根拠)からは、1日30分以上の中強度の身体活動(楽である~ややきつい程度の余暇身体活動[Leisure Time Physical Activity:LTPA])が勧められています。疾患の改善を目的とした中強度の余暇身体活動30分(意識して身体を動かす30分)に加えて、それ以外の生活活動30分を行うことで、成人の推奨値である1日60分(約8,000歩)となります。
- 筋力トレーニングを週2~3日、高齢者については、筋力・バランス運動・柔軟性など多要素な運動を実施します。糖尿病がある場合、インスリン抵抗性の改善を期待し、運動を行わない日が2日以上続かないようにします。高血圧がある場合、運動による急性効果(すぐに現れる効果)の持続時間はほぼ1日なので、なるべく毎日実施します。強度は普段の日常生活レベルから開始します。
- 身体活動量には個人差がありますので、個人の状況を確認して、無理のない強度・時間・頻度から始めることが重要です。現在の活動レベルが低い人、高齢の人では、高齢者の推奨値に合わせ、無理のない強度で始めて、1日合計40分を目標にするといいでしょう。
- 慢性疾患については、定期的な健康診断や医療機関の受診、必要な治療が行われていることが前提です。身体活動を勧められない理由がなければ、医療機関の管理のもと、身体活動が不足している人にはあらゆる機会で、今より少しでも活動量を増やすことを積極的に勧めるといいでしょう。運動実践が疾患のコントロールに影響することもあるので、定期的な医療機関受診・運動実施者・医療機関・運動施設間での情報共有が必要です。運動施設で新たに疾患が疑われた場合は、医療機関受診を推奨します。その際も、通常は日常生活レベルの身体活動の実施は可能であり、できることは行いつつ受診を勧めるとよいでしょう。座位時間が長い場合は、座位時間を他の活動におきかえる、例えば30分に1回短時間でもいいので中断(ブレイク)し、身体を動かすといったアプローチも効果的です。
(最終更新日:2024年03月19日)