「健康日本21(第三次)」とは、2024(令和6)年から2035(令和17)年にかけて実施される国民健康づくり運動のことです[1]。「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」というビジョンのもと、51項目の目標が設定されています。このうちの3項目が身体活動・運動に関する目標です(表1)。
個人の行動と健康状態の改善 |
---|
日常生活における歩数の増加 |
運動習慣者の増加 |
運動やスポーツを習慣的に行っていないこどもの減少 |
健康日本21(第三次)の概念図[1]には、ビジョンの実現に向けた4つの基本的な方向として、①健康寿命の延伸・健康格差の縮小、②個人の行動と健康状態の改善、③社会環境の質の向上、④ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり、とそれら相互の関係が図示されています。そして、それぞれの方向のもとに、関連する具体的な目標項目が設定されています。
身体活動・運動の3つの目標は、②個人の行動と健康状態の改善に関連するものです。また、3つめの「こどもの運動・スポーツ」に関する目標は、④ライフコースアプローチを踏まえた健康づくりとも関連しています。さらに、③社会環境の質の向上に関連した目標である「自然に健康になれる環境づくり」の目標項目の一つとして「『居心地が良く歩きたくなる』まちなかづくりに取り組む市町村数の増加」が設定されています。
以下に、3つの目標について解説します。
身体活動は生活活動と運動に分けることができます。運動だけではなく、生活活動も含めた身体活動全般を反映した指標として歩数の目標が設定されています。目標は性・年代別の目標値(20~64歳の男女各8,000歩/日、65歳以上の男女各6,000歩/日)から算出した、全体の指標(20歳以上の全国民の平均歩数:7,100歩/日)も示されています。
目標値の設定にあたっては、当初は、過去10年間の歩数の動向をもとにした将来予測値を1.1倍した値が検討されました。しかし、この数値が現状値を下回る性・年齢区分が認められたため、予測値ではなく、現状値に基づいた目標が設定されました。具体的には現状値(2019[令和元]年)の1.1倍が目安となりました。
歩数の調査は「国民健康・栄養調査」で行われます。対象者は指定された1週間の中から平均的な1日を選び歩数計を装着します。
成人男女各8,000歩/日、高齢者男女各6,000歩/日という目標は、国民全体の平均値として設定されている目標ですが、これは「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」で示されている個人に対する歩数の推奨値とも一致しています[2]。覚えやすい数値であることで、目標値やガイドラインの周知がしやすくなるのではないかと期待されています。
指標 | 1日の歩数の平均値(年齢調整値) |
---|---|
データソース | 国民健康・栄養調査 |
現状値 | 総計値 6,278歩(令和元年度) 20~64歳:男性7,864歩、女性6,685歩 65歳以上:男性5,396歩、女性4,656歩 |
ベースライン値 | 令和6年「国民健康・栄養調査」により評価する予定 |
目標値 | 総計値 7,100歩(令和14年度) 20~64歳:男性8,000歩、女性8,000歩 65歳以上:男性6,000歩、女性6,000歩 |
運動習慣者の割合は20~64歳の男女各30%、64歳以上の男女各50%、全体では40%が目標となりました。運動習慣は「国民健康・栄養調査」で問診形式で調査し、評価が行われます。運動習慣ありの定義は「運動の実施頻度として、週2日以上」「運動を行う日の平均運動時間として、30分以上」「運動の継続期間として、1年以上」のすべてを満たすことです。
目標値の設定にあたっては、当初は、過去10年間の運動習慣の動向をもとにした将来予測値+10%ポイントの値が検討されました。しかし、この数値が現状値を下回る性・年齢区分が認められたため、予測値ではなく、現状値に基づいた目標が設定されました。具体的には現状値(2019[令和元]年)+10%ポイントが目安となりました。
指標 | 運動習慣者の割合(年齢調整値) |
---|---|
データソース | 国民健康・栄養調査 1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者の割合 |
現状値 | 総計値 28.7%(令和元年度) 20~64歳:男性23.5%、女性16.9% 65歳以上:男性41.9%、女性33.9% |
ベースライン値 | 令和6年「国民健康・栄養調査」により評価する予定 |
目標値 | 総計値 40.0%(令和14年度) 20~64歳:男性30.0%、女性30.0% 65歳以上:男性50.0%、女性50.0% |
この目標は第2次成育医療等基本方針の目標値に合わせて設定される予定です。スポーツ庁の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」[3]の「1週間の総運動時間(体育授業を除く)が60分未満の児童の割合」が指標となります。成育医療等基本方針では4つの指標(小学5年生男子・女子、中学2年生男子・女子)が用いられる予定です。「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」では男女総計の値は集計されていないことから、評価のための代表指標として、割合が高く改善余地が大きい小学5年生女子を用いる予定となっています。ベースライン値は2024(令和6)年度調査で評価され、具体的な目標値は成育医療等基本方針に合わせて適宜更新される予定です。
指標 | 1週間の総運動時間(体育授業を除く)が60分未満の児童の割合 |
---|---|
データソース | スポーツ庁「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」 |
現状値 | 小学5年生女子:14.4%(令和3年度) 参考:小学5年生男子8.8% |
ベースライン値 | 「令和6年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」により評価する予定 |
目標値 | 第2次成育医療等基本方針に合わせて設定 成育医療等基本方針の見直し等を踏まえて更新予定 |
近年、地域環境が身体活動に影響することを示す研究が増加しており[4][5]、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」[2]や WHOの「身体活動に関する世界行動計画2018-2030(GAPPA)」[6]でも、身体活動を支援する環境整備の重要性が指摘されています。
そこで、「自然に健康になれる環境づくり」の取り組みのひとつとして、「『居心地が良く歩きたくなる』まちなかづくりに取り組む市区町村数の増加」が目標として掲げられています。これは国土交通省の調査に基づき、「滞在快適性向上区域(通称:まちなかウォーカブル区域)」[7][8]を設定している市町村数が指標となっています。
詳細は、「健康日本21(第三次)」の説明資料[1]を参照してください。
健康日本21(第三次)を推進するために「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が公表されました。身体活動には生活習慣病の予防、身体機能・認知機能の維持向上といった、少子高齢化社会の諸問題を解決する様々な効果が期待できます。国民の身体活動の促進に向けて、個人に対する働きかけだけではなく、社会全体での多様な取り組みの推進が期待されます。
(最終更新日:2024年5月23日)