身体活動による疾患等の発症予防・改善のメカニズムのポイントについて紹介しています。具体的には、代謝性疾患、心血管疾患、運動器障害、精神・神経疾患、一部のがんについて、発症予防・改善のメカニズムを記載しています。
※本シートは厚生労働省のホームページに掲載されています。
生理学的観点から、身体活動は強度、代謝、動きなどの違いによって、歩行などの「有酸素性身体活動」と、短時間で大きなパワーを発揮する筋力トレーニングなどの「無酸素性身体活動」の大きく2つに分類できます。
有酸素性身体活動を適切な時間・強度・頻度・期間で実施すると、エネルギー消費量が増加し、体脂肪が減少します。肺の酸素の取り込み能、心臓・動脈の酸素運搬能、骨格筋の酸素利用能が改善し、全身持久力(最高酸素摂取能力)が改善します。さらに、血圧、血糖値、血中脂質を効果的に改善します。有酸素性身体活動の習慣的実施者で、死亡や疾患の発症のリスクが低いのは、様々な器官の適応が関連しています。
筋力トレーニングなどの無酸素性身体活動は、筋のクレアチンリン酸やグリコーゲンを、酸素なしで分解することで短時間にATPを合成し、一時的に大きな力を発揮する活動様式です。筋肥大や筋力増強などを通し、死亡や一部の疾患発症リスクの低下と関連すると考えられています。
疾患を(1)代謝性疾患(肥満症、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、脂質異常症)、(2)心血管疾患(高血圧、虚血性心疾患、心不全、脳卒中)、(3)運動器障害(関節痛、腰背部痛、骨粗鬆症、サルコペニア)、(4)精神・神経疾患(うつ病、不安、ストレス、認知症)、(5)一部のがん(大腸がん、子宮体がん、乳がん、他)の5つの疾患群に分類し、疾患群別に身体活動が関連する部位・器官に及ぼす適応のメカニズムを整理しました。
脂肪組織、骨格筋、肝臓などの機能不全が疾患の主な要因です。身体活動は、脂肪細胞に蓄積された脂肪をエネルギー源として利用することで肥満の予防・改善に寄与します。また、身体活動に伴う筋収縮は、骨格筋の糖取り込み促進とミトコンドリアの代謝活性の向上を通してインスリン感受性を改善し、血糖値の上昇を抑えます。筋血流増加による血管内皮細胞のリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性向上は、血中中性脂肪の筋への取り込みを促進し、脂質異常症の予防・改善に寄与します。
心臓、血管、自律神経系などの機能不全が疾患の主な要因です。特に有酸素性身体活動により、交感神経活動、動脈硬化度、心拍数、末梢血管抵抗の低下が誘発され、高血圧が予防・改善されます。加えて、動脈のプラーク形成、血栓形成の抑制が生じ、冠動脈性心疾患や脳卒中などの発症リスクが低下します。
骨、筋肉、関節などの変形や萎縮・炎症が疾患の主な要因です。身体活動は慢性炎症を抑制し、関節の痛みを予防・改善します。骨の形成、筋でのタンパク質同化を促進することで、骨粗鬆症やサルコペニアの予防・改善に寄与します。
身体活動により、神経の成長因子や伝達物質の増加や、海馬の萎縮の抑制が報告されています。
身体活動による免疫機能の改善などを介して、腫瘍の成長を低下させる可能性が推察されています。
身体活動によるこれらの5つの疾患群の発症・予防のメカニズムについて、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」には、身体活動による疾病等の発症予防・改善のメカニズムを図示していますので参考してください[1]。
(最終更新日:2024年03月26日)