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「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント

働く人(座って仕事をする時間が長い人)が職場で活動的に過ごすために、対策を講じるうえで参考になる理論モデルを詳しく説明しています。また、具体的な研究事例を紹介しています。

※本シートは厚生労働省のホームページに掲載されています。

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1.働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント

  • 働く世代は運動習慣者が少ない傾向があり、特にオフィスワーカーのように座って仕事をする時間が長い職種では、歩数が少なく、身体活動レベルが低くなる可能性が高い。
  • 身体活動不足と長い座位時間は、2型糖尿病、運動器障害などの健康リスクを高めるとともに、腰痛や肩こり、頭痛につながりやすく、労働生産性にも影響する可能性がある。
  • 働く人が職場で活動的に過ごせるような取組は、働く人の健康を守るとともに、労働生産性を高める上でも重要である。

2.社会生態学モデル

働く人が職場で活動的に過ごすためには、個人がその重要性を認識し、意識的に取り組むことが重要です。しかしながら、余暇時間ではなく労働時間において、活動的に過ごすことを重要視するには、個人の努力だけでは難しい側面があります。職場で活動的に過ごすことの意義について共通認識がなければ、職場の同僚から、「仕事をさぼっている」と勘違いされてしまうかもしれません。長時間、座って仕事することを強要されるような職場環境では、個人の努力で活動的に過ごすことは困難です。

近年、図に示すような社会生態学モデルが注目されており、人の行動に影響する要因が多層的であることが示されています。すなわち、個人だけに働きかけるのではなく、組織レベル、地域レベル、政策レベルでの対策を講じることで、集団全体への効果が高まるのです。

図.社会生態学モデル[1]より転載

社会生態学モデル[


3.行動変容を促すモデルについて

働く人が職場で活動的に過ごすために、多層的な対策を講じる場合、具体的にどのような対策を講じればよいでしょうか。人の行動を科学する行動科学理論には、様々な理論がありますが、その1つにCOM-Bモデルという考え方があります。この理論は、「行動(Behaviour)は、それを行う能力 (Capability)、 機 会(Opportunity)、モチベーション(Motivation)が総合的に作用することで生じる」という考えに基づきます。

能力としては、身体的な能力と心理的な能力があります。機会には物理的な機会と社会文化的な機会があります。モチベーションには内発的モチベーションと外発的モチベーションがあります。

4.具体的な対策

上記の社会生態学モデルとCOM-Bモデルを組み合わせることで、働く人が職場で活動的に過ごすための具体的な対策を講じることができると考えられます。具体的な対策は、社会文化的対策と物理的対策に大別されます。

社会文化的対策には、政策、組織、社会文化、個人に働きかけるものがあり、例えば、組織のリーダーが率先して活動的に過ごすことで、組織全体に体を動かしやすい雰囲気が醸成されます。

物理的戦略には、自然環境、建造環境、建築設計、オフィス人間工学が含まれ、例えば、自転車置き場を設置することで、自転車での通勤を促すことができます。

これらは概念的な整理であり、費用面なども考慮すると、実現可能性が低い事例も含まれます。ここで示された対策を念頭に置きながら、費用対効果の視点も踏まえて、実際の取組を決定していきます。

上記の理論的な背景を踏まえ、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の本シートの事例集では、具体的な職場での取組事例をいくつか紹介しています。理論と事例を参考にしながら、働く人が自然と身体を動かせるような職場環境づくりに取り組んでください。

(最終更新日:2024年03月26日)

中田 由夫

中田 由夫 なかた よしお

筑波大学体育系 准教授

筑波大学大学院修了。博士(体育科学)。専門は、運動疫学、スポーツ医学。
健康・スポーツ科学分野における科学的知見の社会実装を目指して研究に取り組んでいる。

参考文献

  1. 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023.
    https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf