骨粗鬆症が原因で起こる高齢者の骨折は、生活の質(QOL)を大きく損なうため、骨粗鬆症の予防が重要です。ここでは、骨粗鬆症の予防におけるカルシウム摂取の重要性と望ましい食生活のポイントを中心に示します。
骨粗鬆症とは、骨強度(骨の強さ)が低下して、骨折しやすい状態になることです。骨強度は、骨量の指標となる「骨密度」と骨の構造など「骨質」の2つの要因によって決まります。
骨量は成長期に増加し、20歳頃に最大骨量に達します。その後比較的安定に推移した後、加齢に伴い減少します。特に女性においては、閉経に伴い骨量が減少しやすくなります。
骨粗鬆症の危険因子には、加齢などの除去できないものと食事や運動などの生活習慣に関わる要因で除去できるものがあります。【表1】
生涯を通じての骨粗鬆症の予防は、獲得する最大骨量を大きくすることと、骨量減少を最小限に留めることを基本とし、除去可能な危険因子を早期に取り除くことです。
除去できない危険因子 | 除去できる危険因子 |
---|---|
加齢 性(女性) 人種 家族歴 遅い初潮 早期閉経 過去の骨折 |
カルシウム不足 ビタミンD不足 ビタミンK不足 リンの過剰摂取 食塩の過剰摂取 極端な食事制限(ダイエット) 運動不足 日照不足 喫煙 過度の飲酒 多量のコーヒー |
カルシウムは骨の重要な構成成分です。カルシウムが骨に取り込まれることにより、新しい骨が作られます。一方、古くなった骨は壊され、カルシウムが骨から溶け出します。このような流れが常に繰り返され、骨が新しく置きかわることにより、骨の強さが保たれています。
また、カルシウムは血液中にも存在し、血液中のカルシウムの濃度は一定の範囲内に維持され、生命の維持に必要な多くの生理作用に関与しています。
慢性的にカルシウムの摂取量が不足すると、カルシウムが骨から取り出される量が多くなることにより、骨量が減少し、骨粗鬆症になる可能性が高くなります。骨の健康のためには、十分な量のカルシウムを摂取することが必要です。
日本人の食事摂取基準は、健康な人を対象として、健康の保持・増進、生活習慣病予防のためのエネルギー及び栄養素の摂取量の基準を示したものであり、科学的根拠に基づくことを基本として策定されています。
カルシウムの食事摂取基準は、カルシウムの体内蓄積量や吸収率などに関わるデータを基に算定されています。【表2】は1歳以上の推奨量及び耐容上限量の値を抜粋したものです。推奨量は、不足しないために摂取することが望ましい量を示しています。耐容上限量はこの値以上の量を摂取すると、過剰摂取による潜在的な健康障害のリスクが存在することを示しています。日本人の通常の食品からの摂取で耐容上限量を超えることは非常に少ないと考えられますが、サプリメントなどを利用する場合には注意が必要です。
年齢区分 | 男性 | 女性 | ||
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推奨量 | 耐容上限量* | 推奨量 | 耐容上限量 | |
1~2歳 | 450 | ― | 400 | ― |
3~5歳 | 600 | ― | 550 | ― |
6~7歳 | 600 | ― | 550 | ― |
8~9歳 | 650 | ― | 750 | ― |
10~11歳 | 700 | ― | 750 | ― |
12~14歳 | 1,000 | ― | 800 | ― |
15~17歳 | 800 | ― | 650 | ― |
18~29歳 | 800 | 2,500 | 650 | 2,500 |
30~49歳 | 750 | 2,500 | 650 | 2,500 |
50~64歳 | 750 | 2,500 | 650 | 2,500 |
65~74歳 | 750 | 2,500 | 650 | 2,500 |
75歳以上 | 700 | 2,500 | 600 | 2,500 |
*17歳以下については耐容上限量が設定されていません。この年齢区分において耐容上限量を設定するための科学的根拠が十分でないためです。耐容上限量が設定されていないことは、多量摂取を勧めるものでも多量摂取の安全性を保証するものでもありません。
骨の健康のためにはカルシウムの摂取が重要ですが、それだけではありません。カルシウムの吸収を促進するビタミンD、骨へのカルシウムの取り込みを助けるビタミンKなど、様々な栄養素も必要です。エネルギーと栄養素を過不足なく摂取することが大切です。
欠食すると、必要なエネルギー及び栄養素が不足する可能性が高くなります。
バランスのとれた食事とは
主食(ごはん・パン・麺)、
副菜(野菜・きのこ・いも・海藻料理)、
主菜(肉・魚・卵・大豆料理)
のそろった食事のことです。
また、毎日の食事での食品はできるだけ偏らないようにすると、それぞれの食品に含まれる様々な栄養素を摂取することができます。
特に、カルシウムの摂取量を増やす工夫として、小松菜などの緑黄色野菜、ひじきなどの海藻、豆腐などの大豆製品を取り入れることが挙げられます。
<代表的な食品の1回に摂取する量の目安とカルシウム量*1>
*1 カルシウム量は日本食品標準成分表2020年版(八訂)の成分値を用い、小数第一位で四捨五入して算出しています。
*2 調理前の重量を同資料の重量変化率を用い、小数第一位で四捨五入して算出すると、小松菜68g、春菊76g、チンゲンサイ85g、水菜72g、ひじき6gとなります。
牛乳・乳製品は、カルシウムの供給源としてその含有量だけでなく、吸収率においてすぐれた食品です。
「食事バランスガイド」では、1日に摂取する目安となる量が示されています【図1、表3】
数え方は牛乳・乳製品に含まれるカルシウムの量が基準となっており、1つ分にカルシウムが約100㎎、2つ分にカルシウム約200mgが含まれています。
年齢区分 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
6~9歳 | 2つ | 2つ |
10~11歳 | 2つ | 2つ |
12~69歳 | 2つ*/2~3つ* | 2つ |
70歳以上 | 2つ | 2つ |
*身体活動レベルが「低い」(生活の大部分が座位の場合)で2つ、「ふつう以上」(座位中心だが、仕事・家事・通勤・余暇での歩行や立位作業を含む場合、または歩行や立位作業が多い場合や活発な運動習慣を持っている場合)で2~3つ。
(最終更新日:2021年10月27日)