喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病にかかりやすく、悪化しやすいことがわかっています。喫煙者への歯周病の治療効果は低く、治療後の治りが悪いです。禁煙をすると歯を支える組織の状態が良くなるため、歯周病のリスクが下がり、治療効果が上がります。禁煙は生活習慣病の共通した予防法であり、多分野とともに歯科でたばこ対策をすすめることは、歯周病と生活習慣病の予防に有効です。
口は、体の中で最初に喫煙の影響を受ける部分です。たばこの煙や成分は、口の中に入ると粘膜や歯ぐきから吸収されます。吸収されたたばこの有害物質は、血管を収縮し、歯ぐきの血流量を減少させます。血液循環が悪化して歯ぐきに十分な酸素がいきわたらなくなると、歯周ポケットの中で歯周病の原因となる細菌が繁殖しやすくなります。細菌が産生する毒素は歯周ポケットをさらに深めるとともに歯を支える骨を溶かし、進行すると歯がぐらぐらするようになり、さらに進むと歯が失われます。歯ぐきからの出血は、炎症という正常な生体防御反応のサインですが、喫煙者では血管収縮による血行不良により炎症が抑えられるため、歯ぐきの出血や腫れが現れにくいことが特徴です。以上が、喫煙が歯周病に及ぼす悪影響のメカニズムとして考えられている内容です[1]。喫煙者が歯周病にかかりやすく、歯の本数の低下につながることは多くの調査から報告されています。米国国民健康栄養調査[2]や平成16年の国民健康・ 栄養調査[3]がその代表例です。
喫煙者は非喫煙者に比べて、歯周病の治療の効果が低いことも問題です[1]。喫煙者は非喫煙者に比べて処置後の治りが良くないといわれています。歯みがきと歯石除去は歯周病の基本治療とされていますが、喫煙者には十分な効果が期待できません。外科的な処置によって骨の形を良くしたり、歯周ポケットを減らした場合の治療効果も同様です。日本歯周病学会では、喫煙は歯周病を予防や治療をさまたげる原因であるという認識に基づき、歯みがきと歯石除去を基本に、喫煙者の歯周治療には禁煙が必要であるとしています[4]。禁煙すると歯ぐきの状態が回復し、免疫や細胞のはたらきが高まるため、歯周病のリスクが低下し治療効果が上がることが明らかになっています。ある程度進行した歯周病であっても禁煙は有効であるといわれていますので、禁煙の実行に遅いことはありません。
多くの専門職がたばこ対策をすすめているなか、歯科専門職による禁煙支援の効果が報告され[5]、歯科医院などで広まりつつあります。次に示すように、歯科は幅広い年代の受診者に対して継続的に関わり、視覚的に把握できる歯や口を対象としていることから、禁煙支援に適しているといえます。
歯科における禁煙治療の特徴[6]
口腔疾患の罹患率・有病率が高いため、男女様々な年齢層の人々に繰り返し接する機会が多い
定期歯科健診等の際に繰り返し支援、指導を行うことができる
歯科医師および歯科衛生士による口腔保健指導の中に禁煙支援を組み入れやすい
口腔は患者が自分自身で直接観察することができるので、動機付けを行いやすい
喫煙による全身疾患の症状がまだ現われていない段階で、禁煙教育を行うことができる
例えば、歯科医師・歯科衛生士が口の中を見て、喫煙の影響がわかった時は禁煙の動機付けにつなげやすいです。禁煙による歯や口の変化を示すことは、再喫煙の防止に役立つでしょう。喫煙経験のない受診者へ、生涯において喫煙者とならないことがいかに大切かという観点で関与できることも重要な役割です。喫煙は生活習慣病の共通要因であることが知られ、多分野協働ですすめられていますが、上述した歯科の特色を活かしながら、歯周病対策の一つの柱としてすすめていく必要があります。
(最終更新日:2020年1月6日)