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歯周病と全身の状態 糖尿病と歯周病の双方向性

糖尿病と歯周病は共に代表的な生活習慣病で、生活習慣要因として食生活や喫煙に関与します。糖尿病は喫煙と並んで歯周病の二大危険因子であり、一方歯周病は三大合併症といわれる腎症・網膜症・神経症に次いで第6番目の糖尿病合併症でもあり、両者は密接な相互関係にあります。しかし慢性炎症としての歯周炎をコントロールすることで、糖尿病のコントロール状態が改善する可能性が示唆されています。

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糖尿病が及ぼす歯周病への影響 – 糖尿病の人は、歯周病になりやすい。

歯周炎は、歯肉の境目のポケット(歯周ポケット)に入り込んで繁殖した嫌気性細菌(歯周病関連細菌)の感染による慢性の炎症性疾患です。そのでき方(発症)や進み方(進行)には、遺伝的因子や環境的因子など加えて、からだの抵抗性が大きく関与しています。

したがって糖尿病により、からだを守るマクロファージの機能低下・結合組織コラーゲン代謝異常・血管壁の変化や脆弱化(細小血管障害)・創傷治癒の遅延などが起こり、歯周病の発症・進行に影響を与えます。その結果、糖尿病があると歯周病関連細菌により感染しやすくなり、炎症により歯周組織が急激に破壊され、歯周炎が重症化していきます。

症例A. 糖尿病に起因する歯肉異常

糖尿病に起因する歯肉異常

写真の【症例A】は、52歳男性、左側が初診時の口腔内写真とデンタルX線写真(1993年4月)です。上顎左側臼歯部の歯肉腫脹を主訴に来科し、慢性歯周炎の診断のもと歯周病治療を開始しました。

初診から2年後の歯周基本治療時、歯肉に異常所見を認めました。すなわちプラークに起因した歯肉炎とは異なり、プラークに関与せず辺縁歯肉から歯肉歯槽粘膜にかけて、急性炎症のような発赤を呈していました。全身の異常を疑い、血液検査を行いました。血糖値186mg/dl、HbA1c7.8%(NGSP値)を示し、糖尿病を発症していたことが判明しました。2型糖尿病の診断下、投薬治療(血糖降下剤)が開始されました(1995年1月)。

2006年の日本歯周病学会の分類では、全身疾患に関連した歯肉疾患として糖尿病歯肉炎(diabetes-associated gingivitis)、歯周炎に進行した病態は糖尿病を伴った慢性歯周炎(chronic periodontitis associated with diabetes)と診断されます。

歯周病が及ぼす糖尿病への影響

歯周病関連細菌から出される内毒素が歯肉から血管内に入り込み、マクロファージからの腫瘍壊死因子α(TNF-α: tumor necrosis factor-α)の産生を促進します。その結果TNF-αの亢進が血糖値を下げる働きをもつホルモンであるインスリンをつくりにくくする(インスリン抵抗性)ことがわかっています。すなわち慢性炎症としての歯周炎の存在により血糖値は上昇し、糖尿病のコントロールをますます困難にし、同時に歯周炎も進行していくという悪循環に陥ります。インスリン抵抗性に対して、からだはなんとかしようとして、より多くのインスリンを産生しようとします(高インスリン血症)。しかし高インスリン血症が長く続くと、インスリン産生細胞である膵β細胞が疲労困憊し、末期の糖尿病となります。

歯周病治療による糖尿病への影響

慢性炎症としての歯周炎に対する適切な治療により、糖尿病のコントロール状態をあらわず糖化ヘモグロビン(HbA1C)の改善がみられることが明らかになってきました。

その機序として、歯周病治療によって歯周炎に起因するTNF-α産生量が低下するため、インスリン抵抗性が改善し血糖コントロールが好転すると考えられています。Iwamotoらは、歯周ポケットへの積極的な歯周病治療により、1か月後でHbA1C・インスリン抵抗性・血中TNF-αや歯周ポケット内の総細菌数の有意な改善が認められたと報告しています。

症例B

糖尿病に起因する歯肉異常

【症例B】の写真左側は2009年2月時の口腔内写真です。(血糖値141mg/dl,HbA1c7.4%(NGSP値)) 糖尿病のコントロール状態はやや改善傾向にあり、歯周組織の局所的な軽度の炎症がみられました。

現在、スルフォニル尿素薬(ダオニール®)・α-グルコシダーゼ阻害剤(グルコバイ®)・ビグアナイド薬(メルビン®)およびチアゾリジン薬(アクトス®)を服用中です。

歯周組織が改善し、糖尿病のコントロール状態がさらに良好(HbA1c6.8%(NGSP値))となりました(2010年5月)。

症例C

糖尿病に起因する歯肉異常

【症例C】は、72歳男性、上顎左側臼歯部の歯肉疼痛を主訴に来科しました。狭心症・高血圧症・2型糖尿病のため通院加療中でした。写真左側は初診時の口腔内写真(2003年4月)です。2型糖尿病(血糖値175mg/dl、HbA1c7.9%(NGSP値))を伴う慢性歯周炎の診断のもと、歯周病治療を開始しました。

歯周組織の炎症はコントロールされ、辺縁歯肉の腫脹や急性炎症は消失しました(写真右側 7年後 2010年3月)。

初診時、α-グルコシダーゼ阻害剤(ベイスン®)を服用中で、現在も同薬剤を服用中ですが、2007年8月から、HbA1c6.4%(NGSP値)前後で現在(80歳)まで推移してきています。

また歯周病治療による糖尿病への影響を評価したメタアナリシスによると、歯周治療に伴うHbA1cの改善は統計学的には有意ではあるものの、10%-7%と血糖コントロール状態にばらつきがみられ、肥満因子を除外した評価を考慮する必要があり、血糖コントロールの長期的な安定への歯周治療の効果の持続性など、今後解決するべき問題点があります。したがって糖尿病患者で歯周炎を伴っている場合は、医科歯科連携を計り、早期に歯周炎の改善を図る必要があります。【図】

図: 糖尿病と歯周病の医科歯科連携

糖尿病と歯周病の医科歯科連携

愛知学院大学 短期大学部 歯科衛生学科 稲垣 幸司

参考文献

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