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歯周疾患の有病状況

歯周ポケット保有者の割合は年齢が増すにつれて高い傾向を示し、45歳以上では過半数を占めます。また全年齢層の約4割の人に歯肉出血が認められます。近年、歯の保有状況が良好になってきたことから、歯周病に罹るリスクを有する歯が増えています。

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歯周疾患を測る指標には様々なものがありますが、ここでは世界で広く用いられている地域歯周疾患指数(CPI: Community Periodontal Index)[1] [2]によって評価されたデータと、歯周疾患に関連する自覚症状の保有状況について解説します。

日本人の歯周疾患の実態(「8割が歯周病」とは?)

歯周ポケット(4mm以上)保有者と歯肉出血「あり」の割合

図1: 歯周ポケット(4mm以上)保有者と歯肉出血「あり」の割合

CPIの改定法[1][2]では歯周疾患の有病状況を歯周ポケットと歯肉出血の2つの面から評価し、わが国の全国調査である歯科疾患実態調査[3]でも用いられています。その有病状態は【図1】に示すとおりで、歯周ポケット(4mm以上)の保有者の割合は高齢者層で高値を示し、45歳以上で過半数を占めています。一方、歯肉出血がある人の割合はどの年齢階級も4割前後と概ね一定した値を示しています。

歯周関連の自覚症状(歯ぐきが痛い、はれている、出血がある)「あり」の割合

図2: 歯周関連の自覚症状(歯ぐきが痛い、はれている、出血がある)「あり」の割合

歯科疾患実態調査では歯周関連の自覚症状として「歯ぐきが痛い、はれている、出血がある」を有する人の割合が調査されています【図2】。65歳未満の成人では概ね15%前後、65歳以上の高齢者では10%強の人が歯周関連の自覚症状を有しています。歯周病はよく「無自覚のまま進行する」といわれますが、歯周病に関連する自覚症状を感じている人は、決して少なくないことがわかります。

なお「国民の8割が歯周病」といった謳(うた)い文句を耳にすることがありますが、これは以前の歯科疾患実態調査[3](2005・2011年)に用いられていたCPIの改定前の方式で何らかの所見が認められた人が約8割だったことに由来しています。ここで言う所見とは、歯肉出血・歯石・歯周ポケットのいずれかが認められた場合を指しますので、少しでも歯石がついている場合も「所見あり」と評価されます。したがって「8割が歯周病」というのは、ウソではないものの、大げさな捉え方といえます。

歯周病は増えているのか?

歯周ポケット(4mm以上)保有者の割合の推移

図3: 歯周ポケット(4mm以上)保有者の割合の推移

歯科疾患実態調査における歯周ポケット(4mm以上)保有者の割合は2005年から2011年にかけてやや減少しましたが、2016年は増加傾向が顕著です【図3】。そのため健康日本21(第二次)の中間評価[4]では、歯周病の有病状況が悪化していると評価されています。しかしながら、2016年の調査で用いた調査方法は、診査方法が以前と同様であるものの、記録方法が異なることから、これが結果に影響した可能性も指摘されています[4][5]

以上のように歯周病の増減傾向には不確かな面があると言わざるを得ない状況にあります。しかしながら見方を変えて、近年「歯の喪失防止」が進んで歯の数が増えてきたという事実を踏まえますと、今までよりも歯周病に罹る歯の数も増えていることになります。このように割合だけでなく量的な面も加味しますと、歯周病が増加傾向にあるのは間違いないと考えられます。

世界に比べると?

CPIの国際比較(35~44歳の各調査における個人最大コードの割合のWHO地域別平均値)

図4: CPIの国際比較(35~44歳の各調査における個人最大コードの割合のWHO地域別平均値)[6]

WHOではCPIに関する情報を各国から収集し、各調査における個人最大コードの割合の平均値が地区別に集約されています[6]【図4】。この図における歯周ポケットを有する割合は4~6割程度であり、日本の状況は、世界の一般的な状況に比べると、比較的良好といえます。

(最終更新日:2020年7月28日)

安藤 雄一

安藤 雄一 あんどう ゆういち

国立保健医療科学院 生涯健康研究部 主任研究官

1983年新潟大学歯学部卒業。新潟大学歯学部予防歯科学講座医員、同助手、新潟大学歯学部附属病院講師、国立感染症研究所口腔科学部歯周病室長、国立保健医療科学院口腔保健部口腔保健情報室長、同生涯健康研究部上席主任研究官、同統括研究官を経て、2019年より現職。歯科口腔保健に関わる研究、人材育成、情報発信に努めている。

参考文献

  1. WHO,小川祐司(監訳),眞木吉信・宮﨑秀夫・山本龍生(訳).
    口腔診査法 第5版.
    口腔保健協会,東京,2016.
  2. 厚生労働省.
    歯周病検診マニュアル 2015.
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/manual2015.pdf
  3. 厚生労働省.
    歯科疾患実態調査.
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-17.html
  4. 厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会.
    「健康日本21(第二次)」中間評価報告書 平成30年9月.
    https://www.mhlw.go.jp/content/000378318.pdf
  5. 日本口腔衛生学会歯科疾患実態調査解析評価委員会.
    平成28年歯科疾患実態調査の解析作業報告および今後に向けた提言.
    口腔衛生会誌 2018; 68(2):106-113.
  6. Petersen PE et al.
    The global burden of oral diseases and risks to oral health.
    Bull World Health Organ. 2005;83(9):661-9.
    https://www.who.int/bulletin/volumes/83/9/661.pdf