「健康日本21(第二次)」とは、2013(平成25)年から行われている国民健康づくり運動のことです[1]。基本方針に基づいて設定された53項目の目標の中で、飲酒(アルコール)に関して3つの目標が設定されています。2022年10月の最終評価では、改善がみられなかった項目もあり、アルコール健康障害対策のさらなる推進が重要視されています。
飲酒は、生活習慣病をはじめとする様々な身体疾患やうつ病等の健康障害のリスク要因となっており、2018年世界保健機関(WHO:World Health Organization)が発表した「Global status report on alcohol and health 2018」によると、2016年の試算で、年間 300万人がアルコールの有害な使用のために死亡し、全死亡に占める割合は 5.3%とされています[2]。また、未成年者の飲酒や飲酒運転事故等の社会的な問題の要因となり得ます。そこで、国は「健康日本21(第二次)」において次のような飲酒(アルコール)の目標を定め、目標達成に向けて、飲酒に関する正しい知識の普及啓発や、未成年者の飲酒防止対策等に取り組みました[3]。
目標設定後10年を目途に最終評価を行うこととされていることを踏まえ、2021(令和3)年6月から「健康日本21(第二次)」の最終評価を行い、A(目標値に達した)〜E(評価困難)の5段階で評価しました。
がん・高血圧・脳出血・脂質異常症などの飲酒に関連する多くの健康問題の危険性は、1日平均飲酒量とともにほぼ直線的に上昇することがわかっており[5]–[8]、生活習慣病を防ぐためには飲酒量は低ければ低いほどよいことになります。
一方で全ての要因による死亡率、脳梗塞及び虚血性心疾患については、飲酒量との関係がほぼ直線的に上昇するとは言えません。しかし、その場合でも男性では44g/日(日本酒2合/日)程度以上の飲酒(純アルコール摂取)[9]–[12]、女性では22g/日(日本酒1合/日)程度以上の飲酒[10][13]で、非飲酒者や機会飲酒者(たまにしか酒を飲まない者)に比べて危険性が高くなります。摂取量の目安としてのわかりやすさを考慮して、本指標が設定されました。
表1. 一日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上の者の割合[4]
策定時 (2010年) |
目標値 (2022年度) |
最終評価時 (2019年) | |
---|---|---|---|
男性 | 15.3% | 13%以下 | 14.9% 15.2%(年齢調整値) |
女性 | 7.5% | 6.4%以下 | 9.1% 9.6%(年齢調整値) |
評価:D(悪化している)
男性は有意な変化は認められない。女性は有意に増加(悪化)している。
要因分析:⽬標を達成しなかった要因としては、多量飲酒者に対するアルコール健康障害に関する正しい知識の普及が進んでいないこと、ブリーフインターベンション(減酒支援)普及の取り組みが開始されたばかりであり、⼗分に社会に浸透していないこと、⼥性の社会進出増加に伴う飲酒機会の増加等が考えられています。
民法の改正法施行に伴い、2022(令和4)年4月より、「未成年者」を「20歳未満の者」と呼ぶことになりました。20歳未満の者の飲酒は、体内に入ったアルコールが身体の発達に悪影響を及ぼし、健全な成長を妨げます。また、臓器の機能が未完成であるためにアルコールの分解能力が成人に比べて低くアルコールの影響を受けやすいことなどからも、好ましくありません。このような健康問題のみならず、20歳未満の者の飲酒は事件や事故に巻き込まれやすくなるなど、社会的な問題をも引き起こします。もちろん法的にも禁じられている行為です。
表2. 調査前30日間に1回でも飲酒した者の割合[4]
策定時 (2010年) |
目標値 (2022年度) |
最終評価時 (2017年) |
|
---|---|---|---|
中学3年生男子 | 10.5% | 0% | 3.8% |
中学3年生女子 | 11.7% | 0% | 2.7% |
高校3年生男子 | 21.6% | 0% | 10.7% |
高校3年生女子 | 19.9% | 0% | 8.1% |
評価:B(現時点で目標値に達していないが、改善傾向にある)
要因分析:改善傾向にある要因としては、飲酒が未成年者に及ぼす健康影響に関する啓発の効果、酒類提供業者に対する未成年者への酒類提供禁⽌の周知徹底の効果、未成年者の飲酒に対する意識の変化等が考えられますが、⽬標値が0%であり⽬標達成が難しい指標であったと考えられます。
妊娠中の飲酒は、胎児性アルコール・スペクトラム障害や発育障害を引き起こすため、妊娠中あるいは妊娠しようとしている女性はアルコールを断つことが求められます。
なお、授乳中も血中のアルコールが母乳にも移行するため飲酒を控えるべきです。
表3.妊娠中に飲酒した者[4]
策定時 (2010年) |
目標値 (2022年度) |
最終評価時 (2019年) |
---|---|---|
8.7% | 0% | 1.0% |
評価:B(現時点で目標値に達していないが、改善傾向にある)
要因分析:妊婦に対する飲酒が胎児・乳児に及ぼす健康影響についての普及啓発が奏功している可能性等が考えられます。
この結果を踏まえ、今後の課題や対策としての提言がなされています。詳細は「健康日本21(第二次)最終評価報告書」[4]を参照してください。
【今後の課題】
国では、健康日本21(第二次)の結果等を踏まえ、2024(令和6)年度より開始する次期国民健康づくり運動プランの検討[14]と、それぞれの状況に応じた適切な飲酒量・飲酒行動の判断に役立つ「飲酒ガイドライン」作成の検討[15]を開始しています。
飲酒は、飲酒者本人の健康問題だけでなく、家庭内暴力等の家族への影響、飲酒運転等の社会的問題など、幅広い問題につながる可能性があります。このような様々な問題にも目を配りながら、国民健康づくり対策を引き続き推進していくことが私たちに求められています。
(最終更新日:2023年02月03日)