日本では、戦後の経済成長もあり近年まで飲酒量が増加し、それに伴い様々な飲酒問題が生じてきました。男性は高齢化もあり近年、飲酒量は減ってきましたが、その一方で、女性はリスクのある飲酒者の増加、専門医療を受療する問題飲酒者の割合の少なさ、内科等に潜在する問題飲酒者等の問題があり、今後の課題となっています。
お酒は、食品の一種であると同時に、冠婚葬祭やお祭りでの飲酒や、お神酒など社会的役割も担っています。一方で、不適切な飲み方は、健康を害するだけでなく、飲酒運転など社会的問題を引き起こすこともあり、飲酒は社会と密接な関わりがあります。
飲酒に影響を与える要素としては都市化や第二次、第三次産業就業者割合などの社会指標や、GNP、国民一人当たり所得などの経済指標があります。日本でも、戦後の経済発展もあり90年代後半まで飲酒量は増大してきましたが、近年は高齢化の進展もあり頭打ちあるいは低下傾向となっており、成人一人当たりのアルコール消費量でみると平成4年度の101.8ℓをピークに78.2ℓ(2019年度)まで減少してきています。また酒類販売の内訳をみても、(1)第3のビール等の低価格(≒低課税額)酒類の増加、(2)低アルコール飲料の増大とウィスキー、清酒等の高アルコール飲料の大幅な減少がみられています(図1)[1]。一方で、この統計には表れていませんが、アルコール度数9%の缶チューハイのヒット、価格の高いクラフトビール人気などの減少といった逆の動きもみられ、二極分化が進んでいることを示唆しています。
また他の変化としては、女性の飲酒者の増大もあげられます。厚生労働省の調査[2][3]では、週に3回以上飲酒する習慣飲酒者は、男性では、平成元(1989)年の51.5%に比べ、令和元(2019)年では33.9%に大きく減少していますが、女性では同期間で6.3%から8.8%と逆に増加しています。年代別でみても男性では同期間で全ての年代で減少していますが、女性では30代から70代まで幅広い年齢層で習慣飲酒率が増大しています【注】。また同調査における生活習慣病のリスクのある飲酒者(男性40g/日以上、女性20g/日以上)の割合でも、男性では平成22(2010)年の15.3%から令和元(2019)年の14.9%と有意な変化がないのに対し(p=0.15)、女性では8.0%から9.1%と有意な増加(p<0.01)が見られており、今後、女性の飲酒問題の対策がより重要になると思われます。
【注】ただし、習慣飲酒者の割合は、平成15年国民健康・栄養調査以降調査手法が変更されたため、それ以前との単純比較は困難です。
一般成人人口における飲酒パターンおよびアルコール関連問題の実態については,2013年に全国調査が実施され、生活習慣病のリスクのある飲酒者(純アルコール消費量:男性40g以上/日、女性20g以上/日)が1,036万人、スクリーニングテストでアルコール依存症が疑われるものが(AUDIT20点以上)112万人、国際的な診断基準(ICD-10)による厳密な診断基準でも現在有病者数が57万人となっていますが[4]、その一方で問題飲酒者として治療を受けている患者数は厚生労働省の患者調査によると、年間4万3千人から6万人程度であり、ほとんどの患者さんが専門的な治療を受けられていません。またコストの面でも2013年の全国調査で労働損失が約2兆5千億円、医療費が約4千億円など全体で3兆7千億円に上ると報告されており[5]、過量飲酒は大きな社会問題となっています。
日本における飲酒量は経済の発展に伴い増大してきました。飲酒量の増加が鈍化している最近でさえも、お酒に関連した問題は依然として大きく残っています。病気になってしまってから、これまでの飲酒パターンを変えることは、実際には非常に困難ですから、まずは病気にならないように、健康日本21等を参考に、お酒との付き合い方を考え直してみましょう。
(最終更新日:2022年10月11日)