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飲酒と事故

飲酒・酩酊により「交通事故」「転倒・転落」「溺水」「凍死」「吐物吸引による窒息」などの様々な事故が引き起こされます。飲酒に関連した事故を防止するためには、飲酒行動自体への取り組みが必要です。また飲酒事故の背景にアルコール乱用やアルコール依存症が存在する場合には、治療が必要となってきます。

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いろいろな飲酒事故

飲酒・酩酊時には身体運動機能や認知機能が低下するうえ、理性の働きも抑えられてしまいます。そのため飲酒により「交通事故」「転倒・転落」をはじめとする様々な事故が引き起こされます。老若男女を問わず一度でも飲酒・酩酊をすればこのような事故を起こす可能性があり、またその被害者となることもあるため、大変身近で重要な問題です。

1. 飲酒運転による交通事故

モータリゼーションと飲酒習慣の普及により、毎年、多くの飲酒運転による交通事故が発生しています。

特に、1999年には東名高速道路で飲酒運転のトラックに追突された乗用車内の幼児2名が死亡する事故や、2006年に福岡市内の橋上で乗用車が飲酒運転の車に追突され、海上へ転落し、幼児3名が死亡した事故は大きな社会問題となりました。また、死亡事故率を飲酒有無別にみると、飲酒運転の死亡事故率は飲酒なしの9.1倍(2021年)[1]と高く、飲酒運転による交通事故が死亡事故につながる危険性の高いことが明らかになっています。

そのため、悪質な危険運転を防止するための法的な対策として、危険運転致死傷罪制定(2001年12月、改正刑法施行)、厳罰化と酒気帯び運転の基準引き下げ(2002年6月、改正道路交通法施行)、飲酒運転及び助長行為の厳罰化(2007年9月、改正道路交通法施行)、行政処分強化(2009年6月、改正道路交通法施行)、危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の移行・罪名変更である自動車運転致死処罰法施行(2014年5月)といった様々な法的対策が施行されてきました。

これらの法的対策の甲斐あって、原付以上運転者(第1当事者)の飲酒運転による年間交通死亡事故件数は、2000年の1,276件から、2021年には152件と大幅に減少しています[1][4]

しかしこのような状況においても、事故や違反を繰り返す常習飲酒運転者が存在することも指摘されています。さらに久里浜医療センターと神奈川県警察との共同研究から、飲酒運転検挙経験者の半数以上が多量飲酒者であり、アルコール依存症者の割合も一般人口に比べて非常に高いことがわかっています[5]

2. 酩酊による交通事故(歩行者)
歩行中の交通事故死者数(2021年)は941名で、全体(2,636人)の1/3以上と、状態別交通事故死者数では最も多くなっています。歩行者側の法令違反の内訳をみると、高齢者以外では酩酊等が23%と、横断違反(11%)の2倍となっています[2]。このことから酩酊歩行は死亡事故につながりやすく、大変危険であることがわかります。
3. 転倒・転落
酩酊により足元がふらつき、注意力が散漫になるほか、意識障害が出現することもあるため、転倒や転落が起こりやすくなります。また、転倒時には身体を防御するような反射的な運動が遅れ、頭部外傷などの重傷な外傷が起きやすくなります。さらに階段や電車のホームなどから転落し、死亡する事例も多くみられます。
4. 溺水
飲酒後に入浴し溺水する事例が多く、公衆浴場や川・海での溺水もみられます。飲酒が溺水の危険性を高めることが指摘されています。
5. 凍死
アルコールには末梢血管拡張作用があるため、飲酒をすると体表の血流が増加します。従って飲酒後に寒い所に長時間いると血液が冷やされて低体温になりやすく、屋外で眠り込んでしまい凍死する事例が多数みられます。
6. 吐物吸引による窒息
酩酊状態のため、嘔吐の際に吐物を吸引して窒息する事例も多く、酩酊者への適切なケアが必要とされます。

飲酒による事故の予防

飲酒によって引き起こされる様々な事故を防止するためには、その原因となっている飲酒行動自体への取り組みが必要です。飲酒事故はアルコール関連問題のひとつであり、アルコール乱用やアルコール依存症が背景にある場合には、それらに対する適切な治療が必要です。

(最終更新日:2022年10月11日)

真栄里 仁

真栄里 仁 まえさと ひとし

独立行政法人 国立病院機構 琉球病院 副院長

1996年群馬大学卒業、同年沖縄県立中部病院卒後臨床研修入職、98年琉球大学医学部精神科入局、2000年沖縄県立宮古病院精神科赴任、03年国立久里浜病院(現・久里浜医療センター)赴任、22年より精神科診療部長。23年6月より現職。
専門は、アルコール依存症薬物療法、大量飲酒者への減酒指導、アルコール政策、アルコール関連社会問題。

参考文献

  1. 警察庁交通局.令和3年における交通事故の発生状況等について.
    https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R03bunseki.pdf
  2. 内閣府.令和4年度交通安全白書.
    https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r04kou_haku/index_zenbun_pdf.html
  3. 警察庁交通局.道路交通法等の改正.
    https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/law/index.html
  4. 警察庁交通局.平成30年における交通死亡事故の特徴等について.
    https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/H30sibou_tokucyo.pdf
  5. 中山寿一, 樋口進, 神奈川県警察本部交通部交通総務課. 飲酒と運転に関する調査: 久里浜アルコール症センターと神奈川県警察との共同研究, 最終報告書. 2008年.