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「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」の概要

2016年に厚生労働省「喫煙の健康影響に関する検討会」にて取りまとめられた「喫煙の健康影響に関する検討会報告書」の概要について、わかりやすくお知らせします。

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喫煙の健康問題について、1986年に公衆衛生審議会に喫煙と健康問題に関する専門委員会が設置され、「喫煙と健康問題に関する報告書」が取りまとめられ、以後1993年と2001年に取りまとめられました。

その後、受動喫煙問題を含め、喫煙に関する新たな科学的知見が蓄積されるとともに、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約が発効する(2005年)など、国際的な規制の動きがあり、喫煙の健康影響とたばこ対策に関する情報更新の必要性が高まりました。

さらに加熱式たばこや電子たばこといった新しいたばこ製品の流行が国際的にみられるようになり、それらの製品を含め、たばこ製品の現状についての更新も必要となりました。2016年8月関係各位の協力を得て「喫煙の健康影響に関する検討会報告書[1]」を取りまとめました。

「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」の概要

第1章 たばこ製品の現状

喫煙の経済的影響について、たばこによる負の影響は関連疾患の医療費支出のみならず、施設環境面への影響や介護・生産性損失など多岐にわたります。医療経済研究機構の試算では、損失の総額は4.3兆円にのぼります。正の影響を産業連関表を用いた分析ではその総額は2.8兆円にとどまり、全体では負の影響が上回ると示唆されています。喫煙の経済的影響は総じて負の影響が大きくなりますが、公衆衛生の観点からは健康アウトカム改善まで含めた総合的評価が不可欠です。

第2章 たばこの健康影響

たばこの健康影響について、本報告書では各国の政府機関・国際機関・研究グループなどと同様に、疫学研究などの科学的知見を系統的にレビューし、一致性・強固性・時間的前後関係・生物学的な機序・量反応関係・禁煙後のリスク減少の有無などを総合的に吟味した上で、たばこと疾患等との因果関係(その要因を変化させることで当該疾患の発生を減らすか、遅らせることができること)を以下の4段階で判定しています。

  • レベル1:科学的証拠は、因果関係を推定するのに十分である
  • レベル2:科学的証拠は、因果関係を示唆しているが十分ではない
  • レベル3:科学的証拠は、因果関係の有無を推定するのに不十分である
  • レベル4:科学的証拠は、因果関係がないことを示唆している

その結果、日本人における喫煙者本人への影響(能動喫煙)として、喫煙との関連について「科学的証拠は、因果関係を推定するのに十分である(レベル1)」と判定された疾患等は、がんでは、「肺、口腔・咽頭、喉頭、鼻腔・副鼻腔、食道、胃、肝、膵、膀胱、および子宮頸部のがん、肺がん患者の生命予後悪化、がん患者の二次がん罹患、およびかぎたばこによる発がん」でした。循環器疾患では、「虚血性心疾患、脳卒中、腹部大動脈瘤、および末梢動脈硬化症」でした。呼吸器疾患では、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸機能低下、および結核死亡」でした。妊婦の能動喫煙では、「早産、低出生体重・胎児発育遅延、および乳幼児突然死症候群(SIDS)」であり、その他の疾患等では、「2型糖尿病の発症、歯周病、およびニコチン依存症」でした。

受動喫煙との関連について「科学的証拠は、因果関係を推定するのに十分である(レベル1)」と判定された疾患等は、成人の慢性疾患では、「肺がん、虚血性心疾患、および脳卒中」でした。呼吸器への急性影響では、「臭気・不快感および鼻の刺激感」でした。小児の受動喫煙による影響では、「喘息の既往、および乳幼児突然死症候群(SIDS)」でした。

未成年者の喫煙に関して、「科学的証拠は、喫煙開始年齢が若いこととの因果関係を推定するのに十分である(レベル1)」と判定されたのは、「全死因死亡、がん死亡、循環器疾患死亡、およびがん罹患のリスク増加」でした。

※この内容について、改めて下記に一覧表でまとめています。

第3章 たばこ対策

世界保健機関(WHO)による「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO Framework Convention on Tobacco Control: FCTC)」は、喫煙が健康・社会・環境および経済に及ぼす悪影響から現在および将来の世代を守ることを目的として、国際的に共同してたばこ規制を行うことを定めた保健分野で最初の国際条約です。同条約は2005年に発効し、2008年にはたばこ対策推進および進捗評価のためにMPOWERが作成されました。MPOWERの頭文字で表される施策をそれぞれFCTC条文とともに示すと、
M:たばこの使用と予防政策をモニターする(FCTC第20、21条)
P:受動喫煙からの保護(FCTC第8条)
O:禁煙支援の提供(FCTC第14条)
W:警告表示等を用いたたばこの危険性に関する知識の普及(脱たばこ・メディアキャンペーンを含む)(FCTC第11、12条)
E:たばこの広告、販促活動等の禁止要請(FCTC第13 条)
R:たばこ税引き上げ(FCTC第6条)
です。
日本では2016年末時点においてM(Monitoring)のみが最高レベルの達成度に到達しているにとどまり、受動喫煙防止対策(P)、脱たばこ・メディアキャンペーン(W2)、たばこの広告・販売・後援の禁止(E)の項目において最低レベルと判定されています。

喫煙・受動喫煙と疾病との因果関係の判定のまとめ(レベル1・レベル2)

因果関係を推定する証拠が十分(確実)(レベル1)

能動喫煙との因果関係

がん

肺がん、口腔・咽頭がん、喉頭がん、鼻腔・副鼻腔がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がん、子宮頸部がん
肺がん患者の死亡、がん患者の二次がん罹患
かぎたばこによる発がん

循環器疾患

虚血性心疾患、脳卒中、腹部大動脈瘤、末梢動脈硬化症

呼吸器疾患

慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸機能低下、結核死亡

その他

妊婦の喫煙では、早産、低出生体重・胎児発育遅延、乳幼児突然死症候群(SIDS)
2型糖尿病の発症、歯周病、ニコチン依存症

受動喫煙との因果関係

肺がん、虚血性心疾患、脳卒中、臭気・不快感および鼻の刺激感
小児の喘息の既往、乳幼児突然死症候群(SIDS)

未成年者の喫煙との因果関係
(喫煙開始年齢が若いことによる)

全死因死亡、がん死亡、循環器疾患死亡、がん罹患のリスク増加

証拠は因果関係を示唆(可能性あり)(レベル2)

能動喫煙との因果関係

がん

大腸がん、腎盂尿管・腎細胞がん、乳がん、前立腺がん(死亡)、急性骨髄性白血病
子宮体がんのリスク減少
がん患者の死亡、がん患者の再発・治療効果低下、がん患者の治療関連毒性

循環器疾患

胸部大動脈瘤

呼吸器疾患

気管支喘息の発症、気管支喘息の増悪、結核の発症、結核の再発、特発性肺線維症

その他

う蝕、口腔インプラント失敗、歯の喪失
閉経後女性の骨密度低下、大腿骨近位部骨折
関節リウマチ、認知症、日常生活動作(低下)
女性の生殖能力低下、妊婦の子宮外妊娠・常位胎盤早期剥離・前置胎盤
妊婦の子癇前症・妊娠高血圧症候群(PIH)のリスク減少

受動喫煙との因果関係

鼻腔・副鼻腔がん、乳がん
喘息患者と健常者の急性呼吸器症状、喘息患者の急性の呼吸機能低下、慢性呼吸器症状、呼吸機能低下、喘息の発症・コントロール悪化、慢性閉塞性肺疾患(COPD)
妊婦の低出生体重・胎児発育遅延、小児の喘息の重症化・発症・呼吸機能低下、学童期の咳・痰・喘息・息切れ、小児の中耳疾患、小児のう蝕

(最終更新日:2018年06月08日)

中村 正和

中村 正和 なかむら まさかず

公益社団法人 地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター センター長

1980年自治医科大学卒業。労働衛生コンサルタント、日本公衆衛生学会認定専門家、社会医学系指導医・専門医。専門は予防医学、ヘルスプロモーション、公衆衛生学。研究テーマはたばこ対策とNCD(生活習慣病)対策。厚労科研研究班代表者(2007-21年度)として、たばこ政策研究に従事。研究成果をもとに禁煙治療の保険適用、たばこ価格政策、健康日本21における喫煙の数値目標の設定、特定健診における禁煙支援の強化等の政策実現に貢献。

参考文献

  1. 厚生労働省
    喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書
    2016.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000135586.html