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たばことストレス

喫煙者が喫煙のメリットとして感じるストレス軽減効果は、あくまでニコチン切れによる離脱症状の緩和にすぎず、むしろ禁煙によって離脱症状から解放され、ストレスが低下して精神的健康度も改善することがわかっています。禁煙中のストレスを緩和するためには、禁煙補助薬を使うことのほか、ストレスマネジメントの方法を学んで実践することが大切です。

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「禁煙はいいかもしれないけど、ストレスが溜まって逆に身体に悪いんじゃない?」という疑問を持つ方も多くいらっしゃるでしょう。しかしたばこを吸う場所を探したり、吸っていない人に気を遣ったりなど、喫煙によって起こるストレスもありませんか?
ここではたばことストレスの関係について解説するとともに、禁煙中のストレスマネジメントの方法について説明します。

喫煙者の1日の気分の変化を調べた研究によると、喫煙している人のストレス感は喫煙する前に高く、喫煙した直後に低下し、次の喫煙までの間に増加することがわかっています。この結果を喫煙のストレス軽減効果が一時的であると解釈することもできますが、むしろニコチン切れによる離脱症状(イライラ・易攻撃性など)を喫煙によって緩和しているにすぎないと解釈するほうが適切です。ニコチンの血中濃度の半減期は約30分と短く、喫煙して一時的に離脱症状が改善されても、1日の中で何度もたばこを吸いたくなったりイライラなどの症状がみられることになります。つまり喫煙はストレス解消法というのは思い込みで、実はストレスを作り出す原因(ストレッサー)なのです。

一方、禁煙の際には離脱症状によってストレスが一時的に高まりますが、禁煙に成功した人ではたばこから解放されることによってストレスが低下し、精神的健康度も改善することがわかっています。禁煙の際のストレスを緩和して禁煙を達成するためには、離脱症状の緩和効果のある禁煙補助薬を使うことと、ストレスマネジメントの方法を学んで実践することが大切です。

禁煙時のストレスマネジメントとして、「気分転換の方法を考える」「ストレスのとらえ方を変える」の2点があげられます。この2点は禁煙中だけの問題ではなく、今後一生自分につきまとうストレスマネジメントの課題として、長い目で考えながら習得していくようにしましょう。

1. 気分転換の方法を考える

  1. スポーツをしましょう。
    スポーツで汗を流すことは、軽い抗うつ剤程度の効果があります。体重コントロールにも役立ちますので、禁煙中はできるだけ身体を動かすようにしましょう。
  2. 趣味を持ちましょう。
    喫煙以外に自分の熱中できることがあると、ストレスのかかったときに趣味に没頭することでストレスの緩和に役立ちます。趣味がないという方も、この機会に趣味にできることを探すのはいかがでしょうか。
  3. リラクゼーションを心掛けましょう。
    例えば温泉に行くとか、アロママッサージをするとか、エステに行くのもよいでしょう。金銭的に余裕のない時は、お気に入りのゆったりできる公園に行ったりお寺の庭園を見るなどして、気持ちのゆったりできる「満たされた時間」を作るようにしましょう。

2. ストレスのとらえ方を変える

ポジティブ思考を持ちましょう。
いやなこと、つらいことがあったときにあなたの心は何を感じていますか?
人それぞれ物事に対する認識の仕方には違いがあります。ストレスについても同じで、同じストレスが加わっても人によってプラスとなるとらえ方をする人とマイナスとなるとらえ方をする人がおり、そのとらえ方によって感じるストレス度合は変わります。

会社の上司に怒られた場合の例

ネガティブ思考ポジティブ思考
・こんなにがんばってるのにひどい!
・もうクビになるかもしれない。
・自分はダメな人間だ。
・良い勉強になった!
・がんばって伸びて次に生かすぞ!
・期待されてるかも。

このふたつを比べてみると、ネガティブ思考ではストレスによって自分を追い込んでいきますが、ポジティブ思考ではストレスが次のエネルギーになっています。ストレスは次へのエネルギー!と考えてみましょう。自分を伸ばしてくれる人生のスパイスになるはずです。
この思考の変更は禁煙中だけで解決する問題ではありません。あなたの生涯取り組んでいく問題ととらえ、常にポジティブ思考にする練習をしましょう。ストレスが加わったときに、たばこに走るのではなく、あなた自身の成長に活かしましょう。

下記のような問題設定を使って、ポジティブ思考の練習をしてみましょう。以下の場面を想定し、例題のように「ストレスをポジティブ思考に変換」して答えてください。

例題:夫婦喧嘩をした
→雨降って地固まる/お互いの気持ちをぶつけることができた!/もっと分かり合える。

練習のための問題設定

  1. 息子が言うことを聞かない
  2. 仕事で大失敗をした
  3. (今回のストレス)
  4. たばこのない人生

練習問題だけでなく、実際の日常生活中のストレスに対し、同じようにポジティブ思考を持つ練習を心掛けましょう。

(最終確認日:2018年09月05日)

谷口 千枝

谷口 千枝 たにぐち ちえ

愛知医科大学看護学部 成人看護学(療養生活支援) 准教授

2004年国立病院機構名古屋医療センター禁煙外来勤務、13年椙山女学園大学看護学部、18年愛知医科大学看護学部成人看護学(療養生活支援)講師を経て、2020年より現職。

中村 正和

中村 正和 なかむら まさかず

公益社団法人 地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター センター長

1980年自治医科大学卒業。労働衛生コンサルタント、日本公衆衛生学会認定専門家、厚生科学審議会専門委員。専門は予防医学、ヘルスプロモーション、公衆衛生学。研究テーマはたばこ対策とNCD(生活習慣病)対策。厚労科研研究班代表者(2007-21年度)として、たばこ政策研究に従事。研究成果をもとに禁煙治療の保険適用、たばこ価格政策、健康日本21における喫煙の数値目標の設定、特定健診における禁煙支援の強化等の政策実現に貢献。

参考文献

  1. 川上憲人
    たばことストレス.
    からだの科学, 237: 40-44, 2004.