摂食障害は食行動の重篤な障害を特徴とする精神疾患です。極端な食事制限と著しいやせを示す「神経性食欲不振症」と、むちゃ喰いと体重増加を防ぐための代償行動を繰り返す「神経性過食症」とにわけられます。いずれもやせ願望や肥満恐怖をもち、自己評価に対する体重・体型の過剰な影響があります。心身両面からの専門的治療が必要です。
摂食障害は食行動の重篤な障害で、一般に「拒食症」と呼ばれる神経性食欲不振症(AN: anorexia nervosa)と「過食症」と呼ばれる神経性過食症(BN: bulimia nervosa)とに分類されます。診断基準としてアメリカ精神医学会のDSM-IVがよく用いられます。
ANは10~19才に多く40才以上は稀で90%が女性です。ダイエットや胃腸症状・食欲不振を契機に発症します。多くの場合、発症前に心理的社会的ストレスを経験しています。
食事の量や回数を制限し、太りやすい食物を避けます。極端なやせ願望と肥満恐怖があります。体重・体型の認知が歪んでいて、実際はやせているのに太っていると感じ、少しでも体重が増えると際限なく増えると考えます。自己評価に対する体重・体型の過剰な影響があります。低体重の深刻さを否認し、活発に動きまわり、周囲が食事や休養を勧めても従いません。上記特徴に加えて「期待される体重の85%以下の体重」かつ「無月経」の場合にANと診断します。
約半数はやがて飢餓に耐えかねてむちゃ喰いを始め、その結果生じる体重増加を防ぐために自己誘発性嘔吐、下剤・利尿剤・浣腸の乱用などの代償行動を行い習慣化していきます。
BNは20-29才に多く90%が女性です。多くは発症前にダイエットを経験し、ANから移行することもあります。
むちゃ喰いは、一定の時間内にほとんどの人が同じ時間・状況で食べる量よりも明らかに多量を食べ、食べることを止められない感覚を伴います。体重増加を防ぐための絶食や嘔吐、下剤・利尿剤乱用などの代償行動を行います。自己評価は体型・体重に強く影響され、やせ願望や肥満恐怖、身体像の障害も伴います。むちゃ喰いと代償行動の頻度が少なくとも3ヶ月間にわたり週2回以上の場合、BNと診断します。
ANの基準にもBNの基準にも合致しない摂食の障害は「特定不能の摂食障害」といいます。
やせや栄養不足による症状として、無月経・便秘・低血圧・徐脈・脱水・末梢循環障害・低体温・産毛密生・毛髪脱落・柑皮症・浮腫などがあります。嘔吐があると唾液腺腫脹・歯牙侵食・吐きダコがみられます。検査値異常として低カリウム血症などの電解質異常・肝機能障害・総コレステロール上昇・低血糖・甲状腺ホルモンや女性ホルモンの低下・骨密度の低下などです。
患者はしばしばこだわりが強く、過敏で情緒的に不安定となります。精神疾患(気分障害・不安障害・物質関連障害・人格障害など)の併存もよくみられます。死因として電解質異常や感染症などの身体合併症、自殺などがあげられます。
思春期・青年期女性の有病率はANが0.1-0.2%、BNが1-3%程度と考えられます。発症後は慢性に経過するか寛解と再発を繰り返すことが多く、ANが回復する割合は受診後4年未満では約30%、4-10年で50%で、10年を超えると70%が回復する一方、10%強は不変で10%近くが死亡するとされています。BNは5-10年で50%は回復、30%は再発、20%は不変で死亡率は0.3%と報告されています。
治療には心身両面からの働きかけが重要です。治療者との信頼関係の構築、栄養状態の改善や身体症状・合併症の治療、不安や抑うつなどの情動面の改善、適切な食習慣の形成、食事や体重に関する信念や価値観の是正を行います。患者は自己評価が低く、完璧主義の傾向があり、大人になること・自立・家族との関係・対人関係・社会生活について課題を抱えています。心理教育・認知行動療法・対人関係療法・家族療法・社会的技術訓練などを組み合わせた統合的治療が推奨されます。