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摂食障害:神経性やせ症(AN)と神経性過食症(BN)

摂食障害は、主に、極端な食事制限と著しいやせを示す『神経性やせ症(AN:Anorexia Nervosa)』と、むちゃ喰いと体重増加を防ぐための代償行動(嘔吐や下剤乱用など)を繰り返す『神経性過食症(BN:Bulimia Nervosa)』の2つのタイプに大別されます。いずれも、若年女性の発症が多いとされていますが、男女問わず、また年齢に関係なく発症する可能性があります。早期発見と適切な治療が重要で、周囲の理解とサポートも、回復への大きな助けとなります。

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概要

摂食障害は、主に、①極端な食事制限と著しいやせを示す『神経性やせ症(AN:Anorexia Nervosa)』と、②むちゃ喰いと体重増加を防ぐための代償行動(嘔吐や下剤乱用など)を繰り返す『神経性過食症(BN:Bulimia Nervosa)』の2つのタイプに大別されます。診断基準としてアメリカ精神医学会の診断基準(最新版:DSM-Ⅳ5-TR)[1]がよく用いられます。

いずれも、若年女性の発症が多いとされていますが、男女問わず、また年齢に関係なく発症する可能性があります。早期発見と適切な治療が重要で、周囲の理解とサポートも、回復への大きな助けとなります。認知・心理的な特徴は、食行動や体重/体形に対する異常なこだわり、ボディイメージの歪み、完璧主義的思考、低い自尊心などがあります。また、他の精神疾患との合併も多いとされ、うつ病、不安症、依存症、小児例では発達障害との合併にも注意が必要です。

近年は、ソーシャルメディアの普及により、極端なダイエット方法ややせを礼賛する情報が拡散され、摂食障害の発症や悪化に影響を与えていることが指摘されています[2]。また、コロナ禍における社会的な隔離やストレスが、特に小児の摂食障害の増加や摂食障害症状の悪化の原因になっている可能性が指摘されています[3]

神経性やせ症(AN)の特徴

神経性やせ症(AN)は、精神疾患の中で突出して死亡率の高い疾患です。低栄養に伴う電解質の異常や極度の脱水から、心臓の不整脈や腎不全を引き起こし、致命的な結果をもたらすことがあります。また、極度の低栄養状態から急に食物を摂取することにより、再栄養症候群という致死的な合併症を引き起こすことがあります。さらに、自殺率が高いというデータもあります[4]。これらの健康リスクは、神経性やせ症が単なる「行き過ぎたダイエット」ではなく、深刻な精神疾患であることを表しています。

神経性やせ症は、体重や体型に対する過度の恐怖と、体重減少に対する強迫的な追求が特徴です。患者は自分が過度にやせているにも関わらず、異常と認識できません。食事量を極端に制限することで体重を減らす患者がいる一方で、反動で過食が出現し、嘔吐や下剤の使用などで体重増加を防ぐ代償行動が見られることもあります。

身体症状としては、極度な低体重(BMI:18.5未満)に伴い、無月経・便秘・低血圧・徐脈・脱水・末梢循環障害・低体温・産毛密生・毛髪脱落・柑皮症・浮腫などが出現します。検査値異常として低カリウム血症などの電解質異常・肝機能障害・総コレステロール上昇・低血糖・甲状腺ホルモンや女性ホルモンの低下・骨密度の低下などです。

神経性過食症(BN)の特徴

神経性過食症は、コントロール不能な過食行動と、体重増加を防ぐための嘔吐や下剤の使用が特徴です。過食は人前では行われないため、周囲に気づかれにくいことがあります。

身体症状として、最も一般的な健康リスクは、嘔吐や下剤の乱用による電解質異常です。神経性過食症は低体重の状態ではないため致死的な身体合併症は少ないですが、やはり自殺率が高いというデータがあります[4]。また、嘔吐があると唾液腺腫脹・歯牙侵食・吐きダコがみられます。頻繁な嘔吐は食道の損傷や出血、虫歯の原因となることもあります。これらは、嘔吐の症状がある神経性やせ症にも認められます。

治療

摂食障害は身体的な健康リスクも高いことから、心身両面からの専門的な治療が必要です。神経性やせ症/過食症いずれにおいても、治療者との信頼関係の構築、不安や抑うつなどの情動面の改善、適切な食習慣の再構築、食事や体重に関する信念や価値観の是正を行います。

治療は通常は外来で行いますが、外来治療での体重回復が難しい場合、著しい低体重や身体合併症がある場合、食事が全くとれない場合、精神的に不安定な場合などは入院で治療することもあります。特に、神経性やせ症の場合は、極度の低栄養状態が続いている場合は認知機能も障害されており心理療法の効果が低いため、入院治療により体重がある程度(BMIが14程度)まで回復することを優先します[5]。薬物療法は補助的に用いる場合があります。

患者は自己評価が低く完璧主義の傾向があり、依存と独立の葛藤・家族との関係・対人関係・社会生活などにおいて課題を抱えていることも多いです。心理療法としては、一般的に専門家による疾病教育・心理教育・支持的精神療法が行われます。より専門的な心理療法としては認知行動療法・対人関係療法・家族療法などが行われている施設もあります。小児例では、家族療法が推奨されています。

(最終更新日:2024年01月05日)

関口 敦

関口 敦 せきぐち あつし

独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 行動医学研究部 室長

2000年東北大学医学部卒業。2000年より山形市立病院済生館・内科研修医。2002年より九州大学心療内科・研究生。2003年より国立精神・神経センター国府台病院・心療内科レジデント。2009年東北大学医学系研究科博士課程修了(医学博士)。2009年より東北大学加齢医学研究所・博士研究員、2012年同・助教。2012~15年東北大学東北メディカル・メガバンク機構講師、2015年同・准教授。現在、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所行動医学研究部室長、摂食障害全国支援センターセンター長、東北大学教授。

参考文献

  1. American Psychiatric Association, 高橋三郎, 大野裕 監訳
    DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル
    医学書院, 2023.
  2. Dane A, Bhatia K.
    The social media diet: A scoping review to investigate the association between social media, body image and eating disorders amongst young people
    PLOS Glob Public Health 2023; 3(3): e0001091.
  3. Meier K, van Hoeken D, Hoek HW.
    Review of the unprecedented impact of the COVID-19 pandemic on the occurrence of eating disorders
    Current opinion in psychiatry 2022; 35(6): 353-361.
  4. Rosling AM, Sparen P, Norring C, von Knorring AL.
    Mortality of eating disorders: a follow-up study of treatment in a specialist unit 1974-2000
    The International journal of eating disorders 2011; 44(4): 304-310.
  5. Nohara N, Yamanaka Y, Matsuoka M, Yamazaki T, Kawai K, Takakura S et al.
    A multi-center, randomized, parallel-group study to compare the efficacy of enhanced cognitive behavior therapy (CBT-E) with treatment as usual (TAU) for anorexia nervosa: study protocol.
    BioPsychoSocial medicine 2023; 17(1): 20.