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知的障害(精神遅滞)

知的障害は精神遅滞とも表される、知的発達の障害です。最新の「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」では、「知的能力障害(知的発達症)」とも表記されています。知的機能や適応機能に基づいて判断され、重症度により軽度、中等度、重度、最重度に分類されます。様々な中枢神経系疾患が原因となるため、正しい診断を受けて、早期に治療・療育・教育を行う必要があります。本人のみならず、家族への支援も欠かせない発達障害のひとつです。

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知的障害とは

知的能力障害(ID: Intellectual Disability)は、医学領域の精神遅滞(MR: Mental Retardation)と同じものを指し、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校や経験での学習のように全般的な精神機能の支障によって特徴づけられる発達障害の一つです。発達期に発症し、概念的、社会的、実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害のことです。すなわち「1. 知能検査によって確かめられる知的機能の欠陥」と「2. 適応機能の明らかな欠陥」が「3. 発達期(おおむね18歳まで)に生じる」と定義されるものです。中枢神経系の機能に影響を与える様々な病態で生じうるので「疾患群」とも言えます。

有病率は一般人口の約1%であり、年齢によって変動します。男女比はおよそ1.6:1(軽度)~1.2:1(重度)です。知的機能は知能検査によって測られ、平均が100、標準偏差15の検査では知能指数(Intelligence Quotient, IQ)70未満を低下と判断します。しかしながら、知能指数の値だけで知的障害の有無を判断することは避けて、適応機能を総合的に評価し、判断するべきです。重い運動障害を伴った重度知的障害を「重症心身障害」と表記することもあります。

適応機能とは、日常生活でその人に期待される要求に対していかに効率よく適切に対処し、自立しているのかを表す機能のことです。たとえば食事の準備・対人関係・お金の管理などを含むもので、年長となって社会生活を営むために重要な要素となるものです。

知的障害の診断

症状が重ければ年齢の若いうちから気づかれ、軽いと診断も遅くなります。幼児期には言葉の遅れ、たとえば言葉数が少ない・理解している言葉が少ないといった症状から疑われます。また合併症が先に気づかれて、後に知的障害(精神遅滞)とわかることもあります。

診断にあたっては、症状の評価とともに原因疾患の有無を調べる必要があります。原因としては、染色体異常・神経皮膚症候群・先天代謝異常症・胎児期の感染症(たとえば先天性風疹症候群など)・中枢神経感染症(たとえば細菌性髄膜炎など)・脳奇形・てんかんなど発作性疾患があげられ、多岐にわたっています。

どの検査をどこまで行うかは、お子さんの症状に基づいて決定されます。すなわち日常の生活の様子や保護者の訴え、なによりも本人の診察所見を総合して決まるもので、ケース・バイ・ケースと言えるでしょう。知的評価に加えて、粗大運動能力・微細運動(手先の操作性)・社会性・言語の理解や表出の力も、診断に際して大切な情報となります。

医学的な診断は上記の基準でなされますが、知的障害に対する福祉的な捉え方には変化が生じています。それは知的な能力と日常生活における活動能力は必ずしも並行したものではなく、個人ごとに必要な援助は異なることが指摘され、必要な援助の様式と強さによって、知的障害を分けていこうとする立場です。福祉サービスなどを受けるための制度として、療育手帳があります。知的障害児・者に対して、一貫した指導・相談等が行われ、各種の援助措置を受けやすくすることを目的に、都道府県・指定都市が交付しているもので、窓口は市町村、管轄の児童相談所、障害者センター等となり重症度が判定されます。申請条件はお住まいの都道府県によって若干異なることもあるので、確認する必要があります。

日常生活の適応機能は3つの領域、すなわち下記の概念的領域、社会的領域、実用的領域の状態で示すことが指示されています。日常生活・学校・職場など多方面における機能状態の困難さ、支援の必要性を評価した上で判断する必要があります。

  1. 概念的領域:記憶、言語、読字、書字、数学的思考、実用的な知識の習得、問題解決、および新規場面における判断においての能力についての領域
  2. 社会的領域:特に他者の思考・感情・および体験を認識すること、共感、対人的コミュニケーション技能、友情関係を築く能力、および社会的な判断についての領域
  3. 実用的領域:特にセルフケア、仕事の責任、金銭管理、娯楽、行動の自己管理、および学校と仕事の課題の調整といった実生活での学習および自己管理についての領域

わが国における適応行動評価の客観的尺度として最近、日本版Vineland-II適応行動尺度が発行されました。対象年齢は0歳から92歳までで、幅広い年齢層における適応行動を明確に得点化でき、コミュニケーション、日常生活スキル、社会性、運動スキルの4つの適応行動領域に分けて評価します。

知的障害の治療と予後

ほとんどの知的障害において、基礎にある障害そのものを改善させることは難しい状況です。しかし恵まれた環境下においては適応機能などが向上する可能性は十分あります。早期に発見され適切な療育が施された場合、長期的予後は改善するとされています。本人のみならず家族への支援も欠かせないと考えられます。

知能やその遅れに関する知識の啓蒙や教育を当事者のみならず一般社会に行うこと、家族や遺伝に関するカウンセリングがなされることも有用と思われます。出生前後の適切な医学的対応や生後の様々な福祉的・教育的支援(特別支援教育)は、知的障害や二次的な合併症(二次障害)を最小限にとどめることに役立つと思われます。

(最終更新日:2020年5月12日)

稲垣 真澄 いながき ますみ

鳥取県立鳥取療育園 園長 / 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・客員研究員

1984年鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院脳神経小児科、鳥取県立中央病院小児科、国立療養所西鳥取病院小児科、北九州市立総合療育センター小児科を経て、1993年より国立精神・神経センター精神保健研究所知的障害部、2010年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的障害研究部(現知的・発達障害研究部)部長。2020年4月より現職。

加賀 佳美 かが よしみ

山梨大学医学部小児科講師

1993年山梨医科大学医学部(現山梨大学医学部)卒業。1999年医学博士取得。山梨大学医学部附属病院小児科入局後、関連病院等研修、米国University of Connecticut Medical School留学、国立病院機構甲府病院小児科勤務を経て、2016年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部知的障害研究室長。2020年4月より現職。

参考文献

  1. American Psychiatric Association(著), 日本精神神経学会(日本語版用語監修), 高橋三郎, 大野裕(監訳)
    DSM-5精神疾患の分類と診断の手引.
    医学書院, 2014.
  2. 田中恭子,稲垣真澄,加我牧子(著), 精神遅滞.
    柳澤正義,衛藤義勝,五十嵐隆(編), 小児科の新しい流れ.
    先端医療技術研究所,p176-180, 2005.