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災害とこころの健康

災害は大きな心理的な負担を与えるため、人が心身の変調を感じることは正常な反応ともいえます。しかしなかにはうつ状態・PTSDなどの精神症状や、飲酒や喫煙などの健康問題が増えることもあります。その際には適切な医療サービスや周囲の人からの支え(ソーシャルサポート)を得て、こころのケアに配慮することが重要です。

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日本は地震・台風などの自然災害を多く経験しています。特に1995年の阪神・淡路大震災以降は、こころのケアの重要性が一層認識されて、災害後に多くの予防・治療的関わりが行われています。

災害は多くの住民にとって予期しない出来事であり、大きな心理的な負担を与えます。災害によって家財を失ったり、親しい人に犠牲がでたり、生活に大きな変化や、将来の生活へ不安がもたらされることがあります。このような重大な出来事のあとで心身の変調をきたすことは、人間の正常な反応ともいえます。

多くの場合には生活の再建とともにこころの健康も回復していくのですが、なかには精神的な影響が長く続いたり、精神疾患の診断がつくこともあります。これらの診断として、うつ病・不安障害心的外傷後ストレス障害(PTSD)が挙げられます。ほかにもストレスへの対処行動として、飲酒や喫煙の増加がみられることもあります。
高齢者や子どもは災害弱者といわれますが、高齢者では身体症状の増加や、子どもの場合にも頭痛・腹痛・身体各部の痛みなどの身体の不調、気持ちの落ちこみ、またお漏らし・指しゃぶり・保護者へのべたつき(だっこ・おんぶ)といった退行現象(赤ちゃん返り)が見られることがあります。これらの反応は、恐怖感や不安な状況がもたらす心身の反応であり、異常なことではありません。安全を確保して安心感を与えることで、多くは回復していきます。

被災後に実際に不安定になっている人びとを見つけた場合、直ちに医学的な対応をすることが困難な状況が多くあります。そのような時には、「災害の後で新たに生じた不安・落ち込み・苛立ち・焦りなどは、誰にでもあることで、多くは一時的であること」「しかし程度がひどくなった場合には、迷わずに電話相談や相談室などを利用すること」を伝えて落ち着いて様子を見ることとし、精神的な援助を受けられる体制を確認することが必要です。
特に不眠が続いたり、パニック・興奮・放心などが強い場合には、できるだけ早期に専門家に相談するように勧めます。これは災害だけが原因ではなく、災害の前に別の強い衝撃があったり(家族の事故など)、何らかの精神疾患があったり、あるいはそれらが始まりかけていたという場合もあるからです。このような精神的な変化は、体の不調とあわせて生じることもあるので、身体医療のなかでもこころのケアに配慮した対応をする必要があります。

このようにこころのケアは、精神や一般の保健・医療体制のなかで対応されますが、それと同様に重要なことは、周囲の人からの支え(ソーシャルサポート)を得ることです。このような支えは災害後のこころの状態に対して、保護的に働くことが研究からも明らかになっています。

(最終更新日:2021年1月12日)

⻄ ⼤輔

⻄ ⼤輔 にし だいすけ

東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 教授

2000年九州大学医学部卒業。2010年九州大学大学院医学研究院精神病態医学専修生満了。医師、博士(医学)。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本医師会認定産業医、社会医学系専門医・指導医。2018年より東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野准教授。2021年より国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所公共精神健康医療研究部部長。2022年より現職。