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PTSD

心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder)の略です。生死に関わるような体験をし、強い衝撃を受けた後で、その体験の記憶が当時の恐怖や無力感とともに、自分の意志とは無関係に思い出され、まだ被害が続いているような現実感を生じる病気です。日本の総人口の1.3%に生じるとされ、それほど珍しくない病気といえます。3カ月以内に半分以上の方が自然回復するものの、1年以上経っても一定数の方は自然回復しないとする研究もあります。持続エクスポージャー療法認知行動療法)やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの薬で治療することができるようになってきました。

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PTSDの症状と診断

災害や事故・犯罪被害などで「もうこのまま自分は死んでしまう」「どうすることもできない」状況に直面して強い恐怖や無力感を体験した後で、その記憶が何度も思い出され、その場に連れ戻されたように感じ、その時と同じ感情がよみがえることがあります(侵入症状=再体験症状)。また、どきどきしたり、物音に驚きやすくなったり、怒りっぽくなったり(過覚醒症状)、現実感がなくなって感情が麻痺したり、自分の体験を遠い出来事のように思ったり、事件を思い出させるものに近寄れなくなったり(回避・麻痺症状)することがあります。また、持続的で過剰に否定的な信念を持つようになったり、様々なことに関心や興味を持てなくなったり、以前は楽しめていたことが楽しめなくなったり、他者から孤立していると感じたり、幸福感や優しさなどの感情が持てなくなったりすることもあります(気分と認知の陰性変化)。

体験直後にこうした症状が出現することは普通ですが、それが体験後1カ月経っても続き、生活の妨げになっている場合にPTSDの診断がつきます。

PTSDの治療

慢性化したPTSDではトラウマ記憶が断片化しており、体験の核心部分の記憶は思い出さないように回避されています。すると、記憶に触れたときの嫌な感情に慣れることができず、回避が強くなるという悪循環が生まれます。また、記憶の全体を整理することができず、実際よりも怖く感じたり、必要以上に自分を責めたり、人間不信になったりします。言い換えると、PTSDのトラウマ記憶とは、昔の怖かった出来事の記憶ではなく、今でも恐怖を生み出し続けている特殊な記憶ということになります。これを普通の記憶に戻すこと、つまり「トラウマ記憶は過去のことであり、思い出しても今の自分が被害を受けるわけではないこと」を実感してもらうことが治療の要点です。また、長いあいだトラウマ記憶の影響を受けていると、自分や周りの人々に対してネガティブな考え方をする癖がついていることがありますので、それを修正することも治療の目標になります。児童期虐待のように長期的に繰り返される被害を受けた場合には、特にこのことが重要になります。こうした治療のためには、トラウマについて話しながら気持ちを整理していく認知行動療法の有効性が実証されています。その代表的な方法である持続エクスポージャー療法(保険適用あり)では、安心、安全を確かめながら、治療者と一緒に決まった手続にしたがって記憶を思い出し、今までとは違った考え方を学んでいきます。

PTSDには抗うつ薬の一種であるSSRI(保険適用あり)も有効です。うつ病を併発していることも多いので、そのような場合には抗うつ薬で治療をすると、トラウマについてのネガティブな考え方がやわらぐことがあります。

(最終更新日:2021年8月25日)

金 吉晴 きん よしはる

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 所長

1984年京都大学医学部卒業。民間病院を経て90年より国立精神・神経センター(現:国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所の研究員となる。95年には在外研究としてInstitute of Psychiatry(London、英国)に滞在。97年にはペルー日本大使公邸占拠事件における医療救助活動への参加に対して厚生大臣表彰を受賞。同センター成人精神保健部長を経て2019年1月より現職。International Society for Traumatic Stress Studies理事、New York State University adjunct professorなどを歴任。主な研究テーマは、PTSDの病態と治療、災害時精神医療。

参考文献

  1. 金吉晴編
    心的トラウマの理解とケア
    じほう, 東京, 2006.
  2. エドナ・B・フォア他 著.
    金吉晴,小西聖子 監訳.
    PTSDの持続エクスポージャー療法 トラウマ体験の情動処理のために.
    星和書店, 東京, 2009.