運動中に発生するけが・事故には、筋損傷、心疾患、転倒、熱中症等があることが報告されています[1][2][3]。これらのけが・事故の予防と対策をするための方法として、いくつかの注意点があります。
運動中に発生するけが・事故については、「運動実施時のけが・事故」をご参照ください。
■自分の健康状態 (日頃) の確認:健康診断
まずは、健康診断等で自分の健康状態を把握しましょう。病気があっても気づいていない人も少なくないと思います。
特にメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は加齢とともに増加し、40歳代男性では強く疑われる者・予備群を合わせて40%を超えています[4]。また、運動器に注目すると、加齢に伴う筋肉・関節・骨などの運動器の機能が衰えて、要介護や寝たきりになるリスクが高い状態を指す、ロコモティブシンドローム (運動器症候群)があります[5]。これらの中には、運動を開始するうえで注意が必要な状態があります。
健康診断の結果、病気があることが確認された場合は、健康状態のチェックと医学的な管理をしたうえで、健診結果・医療機関での診療結果や服薬状況・運動実施状況・日常生活の様子を1つにまとめて管理することがお勧めです。健康運動手帳[6]を活用すると、自分自身、医師、運動指導者がこれまでの状況を把握したうえで運動を実施できます。
■運動開始前の確認
運動開始前に、運動を実施するうえで危険がないかどうかを評価するためのツールがいくつかあります。「運動前の健康チェック 最新の考え方」を参照してください。
■運動前(当日)の確認
公益財団法人 日本スポーツ協会 (旧 日本体育協会) の昭和63年度 日本体育協会スポーツ科学研究報告 No.Ⅺ「スポーツ行事の安全管理に関する研究」で示された内容をもとに作成された運動開始前のセルフチェックリスト[7]があります。このリストには、個人が運動に取り組む前にセルフチェックをするための、当日の体調や気象状況に関する15項目の質問があります(【図1】)。運動前に、当日の体調を確認したうえで実施することが大切です。
図1.運動開始前のセルフチェックリスト[7]
■運動中の確認
運動中の身体には様々な生理学的反応が起こります。中には、けが・事故につながる危険な変化もあります。運動中に以下のような症状や異変を感じたら直ちに運動を中止してください[8]。症状が続く場合は、医療機関を受診しましょう【表1】。
また、運動は身体の中の水分が不足しやすくなります。脱水状態は、熱中症、脳梗塞、心筋梗塞等のリスクとなるため、こまめな水分補給を意識しましょう[9]。
表1.運動を中止する症状・異変(運動中)[8]を参考に作成
自覚的所見 | 他覚的所見 | ||
---|---|---|---|
1 | 胸痛 | 1 | 顔面が蒼白になる |
2 | 呼吸困難 | 2 | 冷や汗が出る |
3 | 疲労感 | 3 | 唇が紫色になる |
4 | 吐気 | 4 | 動きが不安定になる |
5 | めまい | 5 | 呼吸が激しい |
6 | 頭痛 | 6 | 運動速度の低下 |
7 | 四肢、関節の痛み | ||
8 | 足のもつれ | ||
9 | 脈拍の急増 |
安全・安心に運動を楽しむためには、自身の健康状態と許容運動強度にあった運動施設・運動内容を選択することも重要です[10]。
医学的な管理が必要な健康状態の場合は、医療機関による監視の下での運動が推奨されます。また、医学的な確認が必要な健康状態の場合は、医療機関と連携がとりやすく、健康運動指導士等の運動指導の専門家が常駐している施設での運動が推奨されます。上述の健康状態の評価等で運動によるリスクがない健康状態であれば、自主的な運動・スポーツを様々な運動施設で自由に実施することができます。また、地域で行う体操等の比較的強度が高くない(日常生活での活動レベルを超えない)運動であれば、より自由に、多くの人が一緒に行うことができます。強度の調整ができるものであればさらに参加者の幅が広がります。
このように、自身の健康状態に合わせた運動施設・運動内容を選択するためには、「運動・スポーツ関連資源マップ」[11]のような、どこに、どのような運動資源があるのかといった情報にアクセスできることが重要になります。
競技スポーツのためのトレーニングなど、高強度の運動を定期的に行う場合は、運動実施前や日々の健康状態の確認に加えて、運動前後に適切なウォームアップ・クールダウンを実施することが重要です。
ウォームアップは、運動に向けた心身の準備をすることができ、けがや事故の予防のために、15分程度のウォームアップを実施する必要があります[8]。ウォームアップの目的は、以下の4つです[8]。
また、高強度の運動を急に中止すると、めまいや不整脈が誘発されることがあります。運動後に低・中強度の動的な運動を継続することで、それらを予防できますので、5~10分ほどクールダウンを行うことが望ましいと報告されています[8]。
クールダウンの目的は以下の3つです[8]。
日常的な施設・設備の点検や人材の育成はもちろんのこと、万が一発生してしまった際の対応について、日頃から準備しておく必要があります。運動施設や運動する人が属する集団(サークル、チーム、組織、協会など)をまとめる立場にある方は、運動内容や参加人数の規模に応じた緊急時対応計画 (EAP: Emergency Action Plan)の策定が必要です。そして、自動体外式除細動器(AED: Automated External Defibrillator)を設置したり、発生する可能性のある様々な種類のけが・事故の対応、適切な救急搬送経路をEAPに明記する必要があります[12]。そして、EAPに基づいて、少なくとも1年に1回実践のための訓練を行うことが重要です。それぞれの運動現場でのEAP作成に役立つガイドラインが、公益財団法人日本AED財団から公表されていますので参考にしてください[13]。
(最終更新日:2023年03月29日)