運動実施時に、けがや事故が発生することがありますが、運動の効果は、けがや事故などの運動によるリスクを上回ると考えられています。また、運動によるけがや事故の発生は少数であり、適切な運動内容であれば、大きなリスクはないことがわかっていますので、適切に運動を実施することが大切です。
運動中に発生するけが・事故には、筋損傷、心疾患、転倒、熱中症等があることが報告されています[1][2][3]。運動といっても、医療機関で実施する運動療法、フィットネスクラブ等において個人で実施する筋力トレーニング、一般の方々が楽しんで行うスポーツ、プロ・セミプロ・学生などが勝利を目指して実施する競技スポーツ等、様々な種類があります。
これまでに、様々な運動中の有害事象*1についての報告が出されています。医療機関で実施されている運動療法を対象としたシステマティックレビューでは、運動中の重篤な有害事象として死亡・脳血管疾患・大腿骨骨折、重篤ではない有害事象として疼痛・滑液包炎・腰痛・水腫等の発生を報告しています[4]。
*1 運動実施者に生じたあらゆる好ましくない出来事、体調の変化、症状、病気、けが等。
スポーツで生じるけがには、大きく分けて「スポーツ外傷(Acute sports injuries)」と「スポーツ障害(Chronic sports injuries)」の2種類があります[5]。スポーツ外傷とは、(1回の外力で)突然発生する急性外傷のことをいいます。一方、スポーツ障害とは、使い過ぎに関連し、時間の経過とともに徐々に発生する慢性障害のことをいいます。場合によっては、使い過ぎによる損傷が急性外傷の原因となることがあります。
競技スポーツにおいては、スポーツ外傷・障害として、特にけがに注目した研究報告が多くなされており、多くのスポーツ種目において、足関節や膝関節といった下肢のスポーツ外傷・障害が多い[6]ことがわかっています。このことから、運動強度が高くなるにつれてスポーツ外傷・障害の発生リスクが高まることが予想されます。
実際、ラグビーにおける研究報告では、競技レベルが高くなるにつれてスポーツ外傷・障害の発生率が上昇することが示されています[7]。また、競技スポーツでは、運動強度の誤った上げ方によってスポーツ外傷・障害が発生することがわかっており、過去数週間の運動負荷(量、頻度、強度)からみて、急激な運動負荷の増加がないように注意する必要があります[8]。
一般の方においても、身体活動不足の方が急に高強度の運動(6メッツ以上の運動:例えばランニングや球技、水泳、登山など)を行うような場合は要注意です。運動習慣のない方が高強度の運動をした時の運動中や運動後の急性心筋梗塞のリスクは、普段から活動的(1回あたり約1時間の運動を週5回以上行う)な方が同程度のことをする際のリスクと比べ、最大で50倍も高いことを報告する研究があります[9]。また、腰痛などのより軽微なけがや事故はフィットネスクラブ等で実施する運動の際にも発生しており、消費者庁[10]や国民生活センター[11]から注意喚起が出されています。
これらの運動中のけが・事故を予防するためには、実態の把握、原因解明、対策、再評価を行っていく必要があります[12]。運動中に発生するけが・事故はその件数があまり多くはないため解析が困難な場合が多いのですが、有害事象とあわせてヒヤリハット*2も記録、報告するような体制を構築し、一つ一つの事例に対して、それぞれの運動環境で実施可能な改善策を関係者の方々で相談、立案し実施していくことが大切になります。
具体的な運動実施時のけが・事故の予防方法については、「運動実施時のけが・事故の予防と対策」をご参照ください。
*2 けがや病気、損害には至らなかったが、そうなる可能性があった予期せぬ出来事のこと。危うい状況であったにもかかわらず、人身事故、死亡事故、損害賠償事故が発生しなかった事象のこと[13]。
(最終更新日:2023年03月29日)