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運動前の健康チェック 最近の考え方

運動を新たに開始する前の健康チェックは、安全・安心に運動を楽しむために必要です。状況に応じて、現実的に必要かつ十分なチェックを行いましょう。低から中強度の運動を徐々に始める分には医学的評価は不要な一方、高強度の運動を新たに始める場合は、医学的評価が必要なことが多くなります。ここでは、運動前の健康チェックに関する最近の考え方を紹介します。

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1. アメリカスポーツ医学会における運動前の健康チェック方法の変更とその根拠

運動開始前の健康チェック(スクリーニング)は、運動時や運動直後の突然死や急性心筋梗塞のリスクが高い人を見極めるために運動開始前に行うプロセスです。国際的にも参考にされることが多いアメリカスポーツ医学会の「運動開始前健康スクリーニング」についての推奨が、2017年に更新されています[1][2]。従来は、①心血管疾患危険因子の数、②症状や症候の有無、既存の心血管疾患・代謝性疾患・腎疾患・呼吸器疾患の有無による層別化に基づいて行われていました。しかし、このスクリーニング方法が必ずしも運動中・運動直後の突然死や急性心筋梗塞のリスクを予測しないこと、擬陽性が多く精密検査のための医療費がかさむこと、人々の運動開始の障壁になっていること、などネガティブな側面があることが変更の理由となっています。

急激に行う高強度の運動時には、安静時に比べ、心筋梗塞や突然死の危険度は6倍[3] 、研究によっては17倍[4]に増大することが報告されています。しかし、発生頻度は極めて少なく、例えば男性で高強度運動150万回に1回(Physicians’ Health Study)[4]、女性では中高強度運動3650万時間に1回(Nurses’ Health Study)[5]と報告されています。また、運動時や運動直後の突然死や急性心筋梗塞には通常前もって何らかの症候があるのでそれを見逃さないことが重要です[6]。一方、普段の身体活動量が多いほど、高強度の運動時や運動直後の突然死や急性心筋梗塞の発症率が低いことが報告されていますので、普段から身体活動量アップを図ることが重要です【図1】。

 

図1. 座位行動が多い人と、活動的な人における通常時と高強度身体活動中の急性心筋梗塞の相対危険度 [1]より作成

座位行動が多い人と、活動的な人における通常時と高強度身体活動中の急性心筋梗塞の相対危険度

高強度身体活動の実施頻度(日/週)で比較。普段から活動的な人は、座位行動が多い人と比べ、通常時(ベースライン)の急性心筋梗塞の相対危険度が約半分になる。高強度身体活動の実施頻度が高い場合、運動中のリスクは上がるものの、頻度が少ない場合よりもリスクが低い。最も相対危険度が高いのは、普段運動していない人が急に高強度の身体活動を行うときである。

*高強度: 6METs以上

 

運動中ないし運動直後の突然死・心筋梗塞の発症はごくまれであるため、「運動開始前健康スクリーニング」によるこれらの事故の予測能は低いと考えられます。また、心血管危険因子による層別化スクリーニングの方法は保守的であり、擬陽性を多く生んでいます。例えば、男性および40歳以上の女性の95%が運動開始前の受診勧奨の対象になるという報告があります[7]

アメリカスポーツ医学会の「新しい運動開始前の健康スクリーニング」では、これらの状況をふまえ、次の①~③の因子に基づいて行うことを提案しています。すなわち、①現在の運動(身体活動)実施状況、②現在の症状や症候、既存の心血管疾患・糖尿病・腎疾患の状況、③望ましい身体活動強度(開始する運動の強度を無理のない範囲に設定すること)の3点です。まず、現在の運動・身体活動実施状況を確認するところから始まり、現在の疾患(心血管疾患、糖尿病、腎疾患)の状況や症状・徴候により、受診(医学的評価)が必要かどうか判断していくことになります。奨励する運動は、定期的な運動を行っていない場合は、現在の日常生活での身体活動強度にあわせ、低から中強度のものから徐々に始めます。定期的な運動を行っている場合でも、現在実施している運動の強度よりさらに高強度の運動を実施する場合は医学的評価が必要です。開始する運動強度を無理なく設定することで、多くの場合、運動負荷試験や特別な医学的評価を実施することなく運動を開始することができます【図2】。

近年、市民マラソンなど高強度の運動を楽しむ市民が増加しており、改めて、高強度運動開始前には然るべき医学的評価が必要なことも強調されています[8]

 

図2. 運動参加前健康スクリーニングアルゴリズム(アメリカスポーツ医学会推奨)[9]より転載

運動参加前健康スクリーニングアルゴリズム(アメリカスポーツ医学会推奨)

[2]より、EIM Japan の許可を得て日本語版を作成したもの。定期的運動(ここでは過去3か月間、中等度の強度(3METs)以上、1回30分以上のまとまった運動を週3回以上行っていると定義)をしているか否かでまず分け、心血管疾患、糖尿病、腎疾患を有しているか、あるいは、その症状や兆候(脚注3に記載)を認めているか否かで分類し、これから行う運動の強度に合わせ、医学的評価(メディカルクリアランス)の必要性も含めたフローを示している。

 

2.普段から自分の身体活動量を把握する

アメリカスポーツ医学会では、Exercise is Medicineの枠組みの中、Physical Activity is a Vital Sign(PAVS)として、日常診療の中で、身体活動量を把握することを勧めています[10] [11]

日本では、特定健康診査において、標準的な質問のうち身体活動・運動に関連するものが3項目あります。図3に示したようにこれらの項目に関連し、運動の種類と時間と継続期間(①)、日常生活での中強度以上の身体活動時間(②)も把握しておくとよいでしょう。アプリや歩数計で歩数を把握しておくことも有用です[12]

  • ① 1日30分以上の軽く汗をかく運動を、週2日以上、1年以上実施していますか。
  • ② 日常生活において、歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施していますか。
  • ③ ほぼ同じ年齢の同性の人と比較して歩く速度が速いですか。

 

図3. 身体活動の現状評価[12]

身体活動の現状評価

3.PAR-Q+(PHYSICAL ACTIVITY READINESS QUESTIONNAIRE)[13]

PAR-Q(Physical Activity Readiness-Questionnaire)はカナダ運動生理学会とヘルス・カナダが、個人が運動開始前にセルフチェックする際に実施することを推奨しているシンプルな7問の質問票で、症状や危険因子、監視下運動の必要性、その他の特別な問題をチェックし、事前に医学的確認が必要かどうかを自己判断するものです[13]。日本では「健康づくりのための身体活動基準2013」の中(p55)でも参考資料として示されており、特定保健指導の際等にも広く活用されています【図4】。

 

図4. 身体活動のリスクに関するスクリーニングシート[14]より転載

身体活動のリスクに関するスクリーニングシート

 

PAR-Qはわかりやすいものの、回答に1つでも〇がつくと、運動開始前にかかりつけ医に相談するなどの医学的評価が必要となり、運動開始の敷居が高くなることや、エビデンスに基づいた選別ではなかったといった欠点がありました。そのため、慢性疾患を持つ方も含めた研究を徹底的にレビューし、PAR-Q+が作成されました[13] [15] [16]。従来通り、入り口はシンプルな質問で、回答に1つでも〇が付いた場合はさらに質問を追加することで、状況に応じた対処がよりルーチン化し、必要な情報を得たうえで、セルフチェックで判断できる部分が拡大しています。PAR-Q+については、エビデンスの蓄積に伴い、更新されるべきであり、毎年有識者で検討会が行われ、5年ごとにはレビューの更新作業が行われています[9]。PAR-Q+は第2ステージで回答に1つでも〇がついた場合はウェブ上でePARMEDX+onlineを行うか、医師に相談することになります。

日本人の実情に合った形で、日本語に対応したウェブサイトの作成やアプリケーションの開発などの展開が今後期待されます。

(最終更新日:2023年03月29日)

小熊 祐子

小熊 祐子 おぐま ゆうこ

慶應義塾大学 スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科 准教授

慶應義塾大学医学部卒。博士(医学)。専門は、運動疫学、スポーツ医学、身体活動と公衆衛生。
身体活動と健康を中心テーマに、地域介入研究、前向きコホート研究、慢性疾患を有する人の身体活動促進の社会実装などに尽力している。

参考文献

  1. Riebe D, Franklin BA, Thompson PD, Garber CE, Whitfield GP, Magal M, et al.
    Updating ACSM's Recommendations for Exercise Preparticipation Health Screening.
    Med Sci Sports Exerc. 2015;47(11):2473-9.
  2. Medicine ACoS. Older adults. In: Riebe D, editor.
    ACSM's guidelines for exercise testing and prescription, 10th ed. 10 ed.
    Philadelphia: Wolters Kluwer; 2017. p. 188-95.
  3. Mittleman MA, Maclure M, Tofler GH, Sherwood JB, Goldberg RJ, Muller JE.
    Triggering of acute myocardial infarction by heavy physical exertion.Protection against triggering by regular exertion. Determinants of Myocardial Infarction Onset Study Investigators.
    N Engl J Med. 1993;329(23):1677-83.
  4. Albert CM, Mittleman MA, Chae CU, Lee IM, Hennekens CH, Manson JE.
    Triggering of sudden death from cardiac causes by vigorous exertion.
    N Engl J Med. 2000;343(19):1355-61.
  5. Whang W, Manson JE, Hu FB, Chae CU, Rexrode KM, Willett WC, et al.
    Physical exertion, exercise, and sudden cardiac death in women.
    Jama. 2006;295(12):1399-403.
  6. Thompson PD, Franklin BA, Balady GJ, Blair SN, Corrado D, Estes NA, 3rd, et al.
    Exercise and acute cardiovascular events placing the risks into perspective: a scientific statement from the American Heart Association Council on Nutrition, Physical Activity, and Metabolism and the Council on Clinical Cardiology.
    Circulation. 2007;115(17):2358-68.
  7. Whitfield GP, Pettee Gabriel KK, Rahbar MH, Kohl HW, 3rd.
    Application of the American Heart Association/American College of Sports Medicine Adult Preparticipation Screening Checklist to a nationally representative sample of US adults aged >=40 years from the National Health and Nutrition Examination Survey 2001 to 2004. Circulation.
    2014;129(10):1113-20.
  8. Franklin BA, Thompson PD, Al-Zaiti SS, Albert CM, Hivert MF, Levine BD, et al.
    Exercise-Related Acute Cardiovascular Events and Potential Deleterious Adaptations Following Long-Term Exercise Training: Placing the Risks Into Perspective-An Update: A Scientific Statement From the American Heart Association.
    Circulation. 2020;141(13):e705-e36.
  9. 小熊祐子他. 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)分担研究報告書. 有疾患者が安全に運動を行うためには~有疾患分担班総論~. 2020.
    https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202009034A-buntan10-02.pdf
  10. Sallis R, Franklin B, Joy L, Ross R, Sabgir D, Stone J.
    Strategies for promoting physical activity in clinical practice. Prog Cardiovasc Dis. 2015;57(4):375-86.
  11. Brannan M, Bernardotto M, Clarke N, Varney J.
    Moving healthcare professionals - a whole system approach to embed physical activity in clinical practice.
    BMC medical education. 2019;19(1):84.
  12. 小熊祐子.
    I.運動・身体活動の健康における意義と医師とのかかわり 1.運動・身体活動推進における医師(医療職)の役割. 日本医師会編 健康スポーツ医学実践ガイド 多職種連携のすゝめ 文光堂、2022.
  13. Thomas S, Reading J, Shephard RJ.
    Revision of the Physical Activity Readiness Questionnaire (PAR-Q).
    Can J Sorts Sci. 1992;17:338-45.
  14. 厚生労働省.
    健康づくりのための身体活動基準2013.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu/index_00004.html
  15. Bredin SS, Gledhill N, Jamnik VK, Warburton DE.
    PAR-Q+ and ePARmed-X+: new risk stratification and physical activity clearance strategy for physicians and patients alike.
    Can Fam Physician. 2013;59(3):273-7.
  16. Warburton DE, Nicol CW, Bredin SS.
    Health benefits of physical activity: the evidence.
    Cmaj. 2006;174(6):801-9.