若者の飲酒は減少傾向ですが、男女間の飲酒行動の差が減少傾向にあります。若者の飲酒は中高年と比較して、急性アルコール中毒やアルコール依存症等のリスクが高くなり、事件・事故の関連も強く見られます。対策としては未成年者飲酒禁止法の徹底が効果的です。
未成年者の飲酒については、1996年から定期的に全国調査が行なわれており、過去1ヵ月間に飲酒経験があると回答した未成年者の割合は確実に減少してきています。
しかし女性については減少傾向はみられるものの、男性との差が調査ごとに減少し、最近では殆ど消失しています。また別の調査の結果でも、20代前半では女性の方が飲酒率が高くなるなど、女性の飲酒が大きな問題になりつつあります。
アルコールは60以上の疾患と関連があるといわれていますが、その中でも若者の飲酒と最も関連の深い疾患として、急性アルコール中毒とアルコール依存症があります。
アルコール中毒は血中アルコール濃度が上昇によって、運動失調や嘔吐を伴った意識障害が起こり、身体生命に危険が迫った状態を指します。東京消防庁の調査では、急性アルコール中毒の搬送者数の約半数が十代二十代の若者となっています。
若者に急性アルコール中毒が多い理由としては「a. 脳がお酒に慣れていない」「b. 危険な飲み方を好む」などが考えられています。近年は大学等でも問題とされるようになり、イッキ飲み防止の取組も広く行なわれるようになってきましたが、それでも新入生歓迎コンパ等で先輩にイッキ飲みを強制され重症の急性アルコール中毒となるケースも後を絶ちません。
アルコール依存症は基本的には中高年の病気ですが、これにも青年期の飲酒が深く関わっています。15歳以下からお酒を飲み始めた場合、21歳以上からお酒を飲み始めた場合と比べ、3倍以上アルコール依存症になる確率が上がるという調査や、初飲年齢とその後の問題飲酒との関係を示す調査など、未成年のうちから飲酒しているとアルコール依存症のリスクが高まることが報告されています。また若いうちにアルコール依存症になると、治療成績の指標である約1年後の断酒率は15%と一般的な断酒率の半分程度であり、同期間内の死亡率も9%と高くなっています これ以外にも若年者の飲酒は、脳の萎縮や第二次性徴の遅れ等のリスクを高めます。
健康以外の問題として、若者の飲酒は事件・事故につながりやすいということが挙げられます。スウェーデンで行なわれた調査では、18歳・19歳時点における週の飲酒量と、その後15年間の全体の死亡率は比例しており、その多くが暴行によるものでした。その他にも若い男性では中年男性に比べて、低い血中アルコール濃度でも死亡交通事故を起こしやすくなるという調査や暴力事件を起こしやすいとする報告など、若者の飲酒は事件・事故につながりやすいことが明らかになっています。その為アメリカ合衆国やニュージーランドなどでは若者の飲酒運転の基準を成人より厳しく設定するなどの対策が行われています。
若者の飲酒問題に対しては、飲酒禁止年齢が比較的有効とされています。アメリカ合衆国では各州によって異なっていた飲酒禁止年齢を引き上げて21歳に統一したことで若者の交通死亡事故が減少しています。また世界保健機関でも、若者の飲酒問題の対策として飲酒禁止年齢に関する提言がされています。日本でも「健康日本21」の中で未成年者飲酒をゼロにすることが目標として掲げられています。一方で近年、成人年齢の引き下げとの兼ね合いで飲酒禁止年齢についても議論が行なわれるようになってきていますが、これは世界の潮流や飲酒問題防止のエビデンスに反するものであり、慎重な議論が必要です。