女性の飲酒は近年一般的になってきましたが、①血中アルコール濃度が高くなりやすい、②乳がんや胎児性アルコール症候群などの女性特有の疾患のリスクを増大させる、③早期に肝硬変やアルコール依存症になりやすいなど、特有の飲酒リスクがあります。
日本では以前は女性の飲酒は一般的ではなく、1954年に国税庁等が実施した「酒類に関する世論調査」では、女性の飲酒者は13%に過ぎませんでした[1]。しかし女性の社会進出とともに女性の飲酒も普通になり、2013年に行われた全国調査(表)[2]では、過去1年間に飲酒した経験のある女性の割合は63.3%と、男性(82.9%)との差が縮小してきています。この傾向は未成年でも見られ、男女差は年を追うごとに縮小してきており、中学生で差がほとんどなくなっています。
男性(%) | 女性(%) | |
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飲酒者(この1年で1度でも飲んだもの) | 82.9 | 63.3 |
スクリーニングテスト上の問題飲酒疑い者割合 (AUDIT8点以上) |
24.6 | 3.2 |
毎日飲酒 | 29.4 | 7.3 |
1日平均男性40g以上、女性20g以上飲酒する者の割合 | 15.6 | 5.6 |
週1日以上60g以上飲酒する者の割合 | 11.3 | 2.0 |
現在アルコール依存症 | 1.1 | 0.1 |
その一方で、女性は男性より酔いやすい体質を持っています。酩酊は基本的にはアルコール血中濃度に比例しますが、①一般的に女性は男性より小柄であることが多く、結果的に体内の水分量も少ない、②アルコールの代謝能力が、平均すると男性の3/4程度しかない、③飲酒量や体重が同じ場合でも血中アルコール濃度が男性より高くなること、などの理由から女性は急性アルコール中毒などの過度の酩酊リスクが男性より高く、男性以上に飲み過ぎには注意が必要です。また体へのダメージという意味でも、女性は男性の半分程度の飲酒量でも肝臓にダメージを来し、重症の肝障害である肝硬変に至る飲酒量も男性の2/3程度である等、多くの研究で女性の肝臓はお酒に弱いことが示されています[3]。
また、女性の中で最も多いがんである乳がんも飲酒と関係があります。乳がんのリスクとして、女性ホルモン(エストロゲン)や運動不足、肥満など様々な要因が知られていますが、アルコールは女性ホルモンを介して乳がんのリスクを高める可能性が指摘されています。高齢女性で大きな問題となっている骨粗鬆症でも、大量飲酒は骨密度を減少させ、骨粗鬆症や骨折の原因となります[3]。このような様々な研究結果から、女性の飲酒量は、一般的に男性の半分から2/3くらいにするのが安全とされています[4]。健康日本21(第二次)でも、生活習慣病のリスクが高まる飲酒量を、女性では男性(40g/日)の半分の20g/日としており、リスクの少ない飲酒量としては、これより確実に少ない量に抑えることが好ましいでしょう。
ただ少量であっても、妊娠中の女性は飲酒を避けるべきです。妊娠中の女性が飲酒すると、生まれてくる赤ちゃんに、体重の減少、顔面などの奇形、脳の障害など、さまざまな悪影響が出てくる可能性があり、胎児性アルコール・スペクトラム障害(Fetal Alcohol Spectrum Syndrome, FASD)と言われており、予防できる精神発達遅滞の最大の原因と推測されています。また完全に断酒することが望ましい病気としては、他にアルコール依存症もあります。昔は比較的まれだった女性のアルコール依存症も、近年増加してきており、いまでは依存症全体の1~2割を占めています[5]。女性のアルコール依存症は、①短期間で依存症となり、患者年代のピークが30代と若いこと、②摂食障害やうつ、自殺未遂など様々な精神的問題を抱えていることが多いこと、③配偶者の大量飲酒や家庭内暴力など、人間関係の問題が多くみられること、④自責感が強い、などの特徴があります。そのため、通常の断酒を目的とした治療だけでなく、家族関係の調整や、うつ病などの重複障害の治療、自己効力感の向上などにも配慮した治療が必要になってきます。
(最終更新日:2022年12月21日)