高齢者にとって過度の飲酒は健康寿命に関わる病気の強力なリスク因子です。特徴として自身の退職や配偶者の死などのライフイベントが飲酒量を増やす原因となります。生き生きとしたライフスタイルを維持し、「節度ある適度な飲酒」を守ることが肝要です。
高齢者の約15%に飲酒が関連した何らかの健康問題があり、3%前後にアルコール依存症が認められます[1]。吉田兼好も随筆徒然草の中で酒の効用を「百薬の長とは言へど、よろずの病は酒よりこそ起これ」[2]と記しています。その通りで過度の飲酒は肝臓病だけの身体問題にとどまらず(「アルコールによる健康障害」の項目を参照)、万病の元となります。まずご自身に飲酒問題があるかどうか、新KASTやAUDITといったテストをすることをお勧めします。
飲酒量と「よろずの病」の間にはさまざまな関係があります。酒の量が適切な量で収まっている間はよいのですが、その量を超えると様々な疾患に悪影響を及ぼします。
高齢者の過度の飲酒は健康寿命[3]に影響を及ぼします。脳血管障害・骨折・認知症、いずれの疾患も寝たきりの主要な疾患であり[4]、かつ過度の飲酒がこれらの疾患の強力なリスク因子であります。
飲酒量が増える原因は様々でありますが、特に高齢者で認められる現象に退職や配偶者の死をきっかけに、飲酒問題が顕在化することがあります。かつては身体的・精神的ストレスの調整弁になり、仕事や配偶者の存在で一定量に収まっていた酒が、無節制かつ過度になることで逆に身体的・精神的ストレスを助長する存在となるのです。さびしいから酒を飲む、することがないから酒を飲む、こうした酒の飲み方がさらに心と体をむしばむ結果となります。歯止めのなくなった酒にもはや「百薬の長」の意味合いはありません。
まず高齢者ではライフスタイルの維持が大切です。社会的活動や仕事の継続など生きがいのある生活が健康寿命を延ばします。そうした中に組み入れられた酒-コミュニケーションの酒・お祝いの酒など-がまさに「百薬の長」になりうる酒であります。酒に主の効用はありません。生き生きとしたライフスタイルこそが健康寿命の主体であり、節度ある適度な飲酒を心がけたいものであります。
(最終更新日:2022年12月21日)