日本において、2000年からの健康日本21(第1次)以降、健康増進法の改正をはじめとするさまざまなたばこ規制・対策が実施されています。しかし、2005年に発効したWHO「たばこ規制枠組条約」において求められている内容と比較すると、まだ十分でない点が多く、今後のさらなる取り組みが必要です。
2012(平成24)年7月に策定された健康日本21(第2次)においては、未成年者の喫煙防止の目標に加えて「成人喫煙率の減少」と「受動喫煙防止」の数値目標、「妊娠中の喫煙をなくす」(妊婦の喫煙率をゼロにする)という目標が新たに盛り込まれています。また、受動喫煙の数値目標については、受動喫煙対策に関わる動向を踏まえて2018(平成30)年8月「望まない受動喫煙のない社会の実現」へ変更がなされました[1]。
図. 健康日本21(第2次)における喫煙に関する数値目標と現状[2]より作成
現状値 | 目標値 |
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18.3% (平成28年) | 12% (令和4年度) |
現状値 | 目標値 | |
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中学1年生 男子 | 1.0% (平成26年) | 全て0% (令和4年度) |
中学1年生 女子 | 0.3% (平成26年) | |
高校3年生 男子 | 4.6% (平成26年) | |
高校3年生 女子 | 1.4% (平成26年) |
現状値 | 実質的な目標値 | |
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行政機関 | 8.0% (平成28年) | 望まない受動喫煙のない社会の実現 (令和4年度) |
医療機関 | 6.2% (平成28年) | |
職場 | 65.4% (平成28年)* | |
家庭 | 7.7% (平成28年) | |
飲食店 | 42.2% (平成28年) |
*全面禁煙または空間分煙(喫煙室を設け、それ以外を禁煙)を講じている職場の割合
現状値 | 目標値 |
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3.8% (平成25年) | 0% (令和4年度) |
健康日本21(第2次)では、健康寿命の延伸と合わせて健康格差の縮小が最上位目標として掲げられています。喫煙率の所得格差の縮小も含めて喫煙率を効果的に減少させるためには、教育や啓発を中心としたアプローチだけでは限界があり、環境整備が必要となります。特にたばこ税・価格の大幅引き上げは成人の禁煙の促進や青少年の喫煙防止に役立つほか、喫煙率の高い低所得層の禁煙を促進する効果があります。受動喫煙防止の法規制の強化により喫煙できる場所を制限すること、たばこのパッケージへの写真付きの警告表示、たばこの広告規制、禁煙治療の保険適用による費用負担の軽減なども喫煙率を効果的に減少させる環境整備です。
これらの環境整備がたばこの消費量や喫煙率の減少、さらに受動喫煙の防止につながることについては十分な科学的証拠があり、日本も批准しているWHOの「たばこ規制枠組条約」(2005年2月発効)に盛り込まれています。
WHOは枠組条約に盛り込んだ規制・対策の中から、6つの主要政策にMPOWERという名前(それぞれの頭文字)を付け、政策パッケージとして提示しています。その内容は「Monitor(たばこ使用と政策のモニタリング)」「Protect(受動喫煙からの保護)」「Offer(禁煙支援・治療)」「Warn(たばこの危険性の警告)」「Enforce(たばこの広告・販促・後援の禁止)」「Raise(たばこ税の引き上げ)」です。
WHOの政策パッケージ | 日本 | 英国 | |
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M | たばこ使用と政策のモニタリング | 優 | 優 |
P | 受動喫煙禁止のための法規制 | 可 | 優 |
O | 禁煙支援・治療 | 良 | 良 |
W | たばこの危険性の警告表示 | 良 | 優 |
マスメディア・キャンペーン | 優 | 優 | |
E | たばこの広告・販促・後援の禁止 | 不可 | 良 |
R | たばこ税の引き上げ | 良 | 優 |
(注)
2020年のたばこ規制の取組みが4段階で評価されているので、優、良、可、不可と表示した。
日本の評価に関する説明:P(受動喫煙防止のための法規制)は健康増進法改正がなされて原則屋内禁煙になったものの、例外的な経過措置や喫煙室の設置が認められている施設があるため可、O(禁煙支援・治療)は禁煙治療の保険適用がなされているものの、無料の禁煙電話相談(Quitline)の仕組みがないため優ではなく良、W(警告表示)はパッケージの面積が50%を超えているが、画像なしの警告表示であるので良、W(メディアキャンペーン)については、法改正に伴う受動喫煙防止の啓発活動が評価されて優、R(たばこ税の引き上げ)はたばこ税が小売価格の51-75%を占めているので良と判定された。
日本では2000(平成12)年からの健康日本21の第1次計画以降、国または都道府県レベルで実施された主な対策としては下記があります。
これらの対策には、上述の枠組条約を受けて実施されたものが含まれますが、条約およびそのガイドラインで求められている対策と比較すると、まだ十分でない点が多く健康日本21(第2次)あるいは次期国民健康づくり運動の中で更なる推進が必要です。WHOが各国のたばこ規制・対策の取り組みを評価した報告書から、日本の取り組みの評価を世界で最も規制・対策が進んでいる英国と比較すると、環境整備のための法規制の遅れが明らかです。喫煙と受動喫煙によって年間約14万人の尊い命が失われ、医療費等の多くの経済的損失をもたらしている現状を踏まえると、今後のさらなる取り組みが求められています。
WHOの西太平洋地域事務局では、「西太平洋におけるたばこ規制のための地域行動計画(2020-2030)」を策定し、2020年から2030年までの10年間に域内の喫煙率を3割削減する目標を設定し、わが国を含む域内国・地域が戦略的な行動を取るためのロードマップを提示しています。その中で、たばこ産業による新型たばこ(加熱式たばこや電子たばこなど)の積極的なマーケティングが、たばこ規制の取り組みを妨げるのみならず、逆に紙巻たばこなど従来のたばこ製品に対して今日までに積み上げてきた法規制を緩める方向に向かわせかねないと懸念を示しています[5]。新型たばこを含め、たばこは健康、長寿に対する世界共通の脅威なのです。
(最終更新日:2022年01月20日)