20世紀末から新たな保健上の課題に対して地球規模での対応が求められるようになり、WHOは当初から検討を進めていた「たばこ規制枠組条約」を策定し、2005年2月27日に発効しました。
欧米では古くは1930年代以降から肺がんをはじめとする喫煙の健康影響に関する科学的知見が公表され、公的な機関による総括報告も1960年代から刊行されています。
20世紀末には、持続可能な開発・発展をキーワードとして地球規模での環境問題への取り組みが政策課題に取り上げられるようになりました。保健においては、先進国だけでなく開発途上国においても感染症だけでなくいわゆる生活習慣病の予防の重要性が認識されるようになりました。世界銀行は、たばこの流行をAIDS/HIVの流行に次ぐ地球規模での脅威と位置付け、その対策の重要性をうたった報告書を1999年に公表しています。この時期から大局的に、新たな国際的に拡がる保健上の課題に対し、地球規模での対応が求められていたといえます。
世界保健機関(WHO)では世界保健総会において、1995年にたばこ規制に関する施策の必要性が議論され、1998年には条約の作成が提案されました。その後政府間交渉などの過程を経て、2003年に「たばこ規制枠組条約」として成立しました。日本が参加を表明したのは2004年6月ですが、WHO加盟国の40カ国以上が参加してからの発効という決まりになっていたため、実際に効力が発生したのは、チリが参加した後の2005年2月27日でした。
同条約には、たばこの消費量や喫煙率の減少を図るうえで、効果が実証された種々の対策が盛り込まれています。2008年に提示された「MPOWER」は、たばこの流行を阻止するために有効な6つの政策について、その各政策の頭文字を取って名付けられた政策パッケージです。
その内容は、Monitor(たばこ使用と政策のモニタリング)、Protect(受動喫煙からの保護)、Offer(禁煙支援・治療)、Warn(たばこの危険性の警告)、Enforce(たばこの広告・販促・後援の禁止)、Raise(たばこ税の引き上げ)となっており、各国の進捗はWHO Report on the Global Tobacco Epidemicにて報告されています。
また、MPOWER以外にも、たばこ産業からの公衆衛生政策の保護(第5条3項)、未成年者への販売防止措置(第16条)、たばこの危険性に関する教育・啓発や対策に関わる関係者への教育訓練などの取り組み(第12条)などが盛り込まれています。
同条約は、2021年9月現在182カ国が批准し、これまで8回の締約国会議が開催されています。第9回の締約国会議は、2021年11月に開催予定です。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で1年延期され、初めてオンラインで開催されることになっています。
また、「たばこ製品の不法な取引の根絶に関する議定書」が2018年に発効したことにより、議定書締約国の会議も2018年より開催されています。たばこ税の引き上げに伴って、課税逃れを狙う不法取引が生じていることに対応するため、たばこの追跡システム(Tracing & Tracking System)等の国際的な議論や検討が行われています。
わが国は島国であるために、他の陸続きの国々に比べてたばこの密輸入や密売が低く抑えられていることもあり、不法取引の議定書には加わっていません。しかしながら議定書締約国で進められるたばこの追跡システムが国際的に広まってくれば、わが国も取り入れる必要が生じると考えられます。
(最終更新日:2021年11月18日)