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なぜ全身持久力が必要なのか -健康と全身持久力の関連性

全身持久力はスタミナや粘り強さのことをいいます。運動生理学の分野では、最大酸素摂取量という指標によって全身持久力を評価します。最大酸素摂取量が多い人は心血管系疾患の罹患率や死亡率が低いことがいくつかの研究で明らかにされています[1][2]。つまり全身持久力を高めることは、健康づくりに役立つといえます。

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「彼はスタミナがある」というような言い方をしますが、このスタミナや粘り強さが「全身持久力」です。全身持久力は、長時間身体を動かすことのできる能力を意味し、学校の体育の時間などでは800m走などの記録時間を計って評価します。しかしこのような持久走の記録では、その日の体調や心理的な影響が強く反映されてしまいます。そのため運動生理学の分野では、特別な実験室を使って最大酸素摂取量という指標を算出します。

最大酸素摂取量とは「1分間に体内に取り込まれる酸素の最大量」をいいます。酸素は体内で化学的なエネルギーを作るときに使われますが、その消費量が多いほどたくさんのエネルギーが作り出されます。エネルギーの生産量が多いほど身体を長く動かすことができるので、最大酸素摂取量を測ることによって全身持久力が評価できるのです。最大酸素摂取量は、心臓のポンプ機能や血液運搬、骨格筋、肺拡散能力などが関連するため、いわば全身組織の総合力ともいえます。

それではなぜ全身持久力が必要なのでしょうか。全身持久力の高い人と低い人を比べた場合、全身持久力の低い人は高い人よりも2倍程度死亡リスクが高かったという研究結果があります[1]。この理由のひとつとしては、全身持久力が全身組織の総合力であることに加えて、身体活動量との間に強い相関関係があるためと考えられます。身体活動量を普段から高めておけば肥満を予防することができ、インスリンの感受性を高めたり動脈硬化を予防したりするなど、生活習慣病の予防に効果的であると考えられます。

一方で、高い全身持久力の恩恵について、もうひとつ別の見方をすることができます。人を含めた生物は、生きるためには必ず身体の移動を伴います。寝たきりで一生を過ごす生物はありえません。身体を動かすためにはエネルギーが必要ですが、全身持久力の高い人はエネルギー消費の予備力が高く、同じ身体活動を行っても低い人より余裕があるので、エネルギーを効率よく使うことができます。全身持久力を高めることによって、より少ないエネルギーで楽に身体を移動させることができるのです。

全身持久力を高めるためには、有酸素運動が効果的です。有酸素運動とは、リズミカルで長時間続けられる運動をいいます。ジョギングやサイクリング・速歩などの運動で、「ハアハア」というリズミカルな呼吸が特徴です。立ち止まって「ゼイゼイ」と肩で呼吸するような運動は、それよりも強度が高い無酸素運動です。なかでも速歩は、誰もが手軽に参加できて低コストで安全ですのでおすすめです。国民向けの身体活動ガイドライン「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」では、今より10分多く身体を動かすだけで、健康寿命を延ばすことができると宣言しています[3]。これは、積み重ねられた数多くの研究成果に基づいています。健康づくりのために、まずは1日10分1,000歩の歩行習慣を目指しましょう。

(最終確認日:2022年07月21日)

真田 樹義

真田 樹義 さなだ きよし

立命館大学 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 教授

1988年鹿屋体育大学体育学部体育スポーツ課程卒業。2005年東京都立大学大学院博士課程 修了。博士(理学)、健康運動指導士、ACSMヘルスフィットネススペシャリスト、ヘルスケア・トレーナー。早稲田大学生命医療工学研究所講師、国立健康・栄養研究所客員研究員、早稲田大学生命医療工学研究所准教授、立命館大学理工学部准教授、同スポーツ健康科学部スポーツ健康科学研究科准教授などを経て、2011年より現職。専門は運動処方、運動生理学。

参考文献

  1. Kodama S et al.
    Cardiorespiratory fitness as a quantitative predictor of all-cause mortality and cardiovascular events in healthy men and women: a meta-analysis.
    JAMA. 2009 May 20;301(19):2024-35.
  2. Carnethon MR et al.
    Prevalence and cardiovascular disease correlates of low cardiorespiratory fitness in adolescents and adults.
    JAMA. 2005 Dec 21;294(23):2981-8.
  3. 厚生労働省.
    健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド).
    2013.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpr1.pdf