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QOLの維持・向上に大切な筋肉は?

立ったり歩いたり姿勢を維持したりといった日常動作の基盤となる筋肉が、QOL(Quality Of Life:生活の質)に強い影響を与える筋肉といえます。具体的には太腿前の大腿四頭筋・お尻の大臀筋・腹筋群・背筋群があげられます。これらの筋肉を鍛えるトレーニングを継続的に行うこと、また日常から活動的な生活を送ることが大切です。

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若年層の方にとって筋力不足によって日常生活に支障が出ること、QOL(Quality Of Life:生活の質)に影響を与えるということはまずありません。ところが加齢に伴う筋力の低下の進行は深刻な問題であり、それによって日常生活に支障が出ることがあります。加齢に伴う筋肉の委縮を廃用性筋委縮症、英語でサルコペニアといいます。

全身の筋肉は大小約400個あります。そのうちのQOLに大きく影響する筋肉は立ったり歩いたり姿勢を維持したりといった日常の動作の基盤となる筋肉です。具体的には「膝を伸ばす働きをする太腿前の大腿四頭筋」「大腿を後方に振る働きをするお尻の大臀筋」「上体を支える腹筋群と背筋群」があげられます。これらの筋肉は重力に対して立位の姿勢を維持する働きをすることから『抗重力筋』もしくは『姿勢維持筋』と呼ばれます。
そしてこのような日常の身体活動を支える、QOLに直結した筋肉ほど実は加齢の影響で衰えやすい筋肉でもあるのです。これらの加齢の影響を受けやすい筋肉をしっかりと鍛えることがQOLの維持・向上に大切です。例えば立ち上がる動作で主要な働きをする太腿前の大腿四頭筋の筋肉量の80歳代の平均値は、30歳代の平均値の半分程度であるという報告があります。筋力は筋肉量におよそ比例しますので、この報告から考えると30歳代のときに片足で立ちあがる筋力がなければ80歳代になったときに自力で立ち上がることが困難になる可能性が高いということになります。サルコペニアがQOLにいかに大きな影響を与えているかがよくわかると思います。

このサルコペニアは運動によって防ぐことができます。筋肉は鍛えることで何歳になってからでも強く大きく発達させることができるからです。サルコペニアの防止にはウォーキング・ジョギングなどの運動や、日常から活動的に生活することがなによりも重要です。さらに高い効果を得るためには筋肉に負荷をかけて標的の筋肉を直接鍛えるレジスタンス運動を行うことが進められます。レジスタンス運動とはスクワットや腕立て伏せ・腹筋運動などの標的とする筋肉に負荷をかけた動作を繰り返し行う運動のことです。レジスタンス運動とサルコペニアの防止に関する研究は沢山あり、トレーニングの程度によってその効果は異なりますが、レジスタンス運動によってサルコペニアによる筋肉の委縮の程度をおおむね1/3程度に抑えることができるといわれています。

ここにあげたQOLの維持・向上に重要であり、かつ加齢によって衰えやすい筋肉を鍛えるレジスタンス運動を継続的に行うことが勧められます。またレジスタンス運動を行うことも重要ですが、何よりも日常の身体活動を活発にして元気よく過ごすこと、個別に筋肉を鍛えるだけでなく、それらの筋肉を日常からしっかりと使っていくことが大切です。

谷本 道哉

谷本 道哉 たにもと みちや

順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科 先任准教授

静岡県出身。スポーツ、トレーニングの生理学、バイオメカニクスの研究者。NHK「みんなで筋肉体操」監修など、研究内容をマスメディア情報発信の形で社会に多く還元している。

参考文献

  1. 石井直方
    筋肉博士石井直方の筋肉まるわかり大事典 Vol.2
    ベースボールマガジン社