バランス能力とは、静止または動的動作における姿勢維持の能力のことで、この能力は感覚系・中枢司令系・筋力系などの要素によって決まります。高齢者においてはこのうちの筋力の要素がより重要であることが指摘されています。バランスボールなどのトレーニング器具を使ったトレーニングが実施されていますが、それらによる効果は研究により確認されています。
バランス能力とは、静止姿勢または動的動作中の姿勢を任意の状態に保つ、また不安定な姿勢から速やかに回復させる能力を意味します。スポーツ選手においては適切な姿勢を保つ能力は競技力における重要なボディコントロール能力のひとつとなりますし、高齢者においてはしっかりと「立ち」「歩く」生活機能上の重要な一要素になります。転倒の予防という点においても重要です。
姿勢の保持は、視覚情報・体性感覚情報(筋・腱・関節からの情報、足裏等の圧感覚情報など)・前庭系の情報(内耳の三半器官)などを基に脳が中枢処理を行ない、出された司令を骨格筋が実行することでなされます。これらの総合的な機能がバランス能力に関わっています。
バランス能力の評価方法として、閉眼片足立ち・開眼片足立ちなどの簡便法がよく用いられます。文部科学省の新体力テストでは高齢者向け(65-79歳)のバランス能力の評価として開眼片足立ちが採用されています。
バランス能力を向上させるための様々なトレーニンググッズが市販され、それらによるトレーニングが実行されています。多くのバランストレーニンググッズは「不安定な支持面を作り、その上で姿勢を保持する」という手法をとっています。
大きなゴムボール状の器具(バランスボール)に座ってバランスをとるトレーニングや、バランスボールを半球状にしたような器具(バランスディスク)などの上に立ってバランスをとるトレーニングなどが有名です。いずれもその上にただ座る・立つだけでなく、スクワットをしたリ姿勢を変えたりなどのいろいろな課題を不安定な支持面上で行ないます。
またバランスボールは、バランス能力向上のためだけでなく、コアと呼ばれる胴体部分をボールの上で大きく動かす、いわゆるコアエクササイズにも利用されます。ボールの弾力性を利用して骨盤や体幹を大きく動かすことで、意識して動かしにくい体幹部分をしっかりと動かせるようにしてあげようというトレーニング法です。
バランストレーニングのグッズを用いたトレーニングによってバランス能力の向上が実際に起こることがいくつかの研究から証明されています[1]。効果の得られる有効なトレーニング法と言えるでしょう。実行の際には転倒などの事故のリスクがありますので十分に注意する必要があります。不安定な支持面という状況は実動作とかけ離れているため、これらのグッズによるトレーニング法に対して否定的な見解もあります。
バランス能力を規定する要素のうち、筋力に関しては若者においては静的・動的な状態で姿勢を維持するだけの十分な筋力があるため、あまり問題とはされません。対して加齢により筋力が大きく低下している高齢者においては、筋力がバランス能力を規定する大きな要素になっていると考えられます。
高齢者では、筋力トレーニングの実施によってバランス能力の向上を認めたとする研究報告が多数あります[2]。転倒の回数が減少したという報告もあります。ただし高齢者において筋力トレーニングの処方だけではバランス能力向上の十分な効果は得られないとする文献レビュー(多くの研究をまとめて評価したもの)もあります[3]。筋力トレーニングに加えてバランストレーニングを併せて行なうことでより確実に効果が得られるものと思われます。