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葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果

葉酸は水溶性ビタミンであるビタミンB群の一種です。数多くの疫学研究から、受胎前後における葉酸摂取により胎児の神経管閉鎖障害(NTDs: neural tube defects)の発症リスクが低減することが報告されました。そこで日本では2000年に厚生労働省から、妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に関する通知が出されました。

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葉酸と神経管閉鎖障害

葉酸は細胞増殖に必要なDNA合成に関与しています。またホモシステインというアミノ酸の一種がたんぱく質の合成に必要なメチオニンという必須アミノ酸に変換される過程に必要とされます。
妊娠初期は胎児の細胞増殖が盛んであり、神経管の形成期であるため、この時期に葉酸摂取が不足すると胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクが高まることがわかってきました。神経管閉鎖障害とは神経管の癒合不全による先天異常であり、日本では神経管閉鎖障害のうち脊椎に癒合不全が生じる二分脊椎が大部分を占めます。国際クリアリングハウスがまとめた報告では、日本における二分脊椎の発症は1987-1991年で出生1万対3.10、2007-2011年で出生1万対5.59であり、増加しています。[1]

欧米諸国では神経管閉鎖障害の発症率が高率であったため、発症リスク低減に対する葉酸の効果について、大規模な疫学研究が数多く行われました。それらの研究は受胎前後における母親の十分な葉酸の摂取により、胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクが大幅に減少することを示しました。その結果、欧米諸国を中心に穀類食品への葉酸添加の義務化など、葉酸摂取による神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための対策が実施され、低減効果についても報告されました。また日本と同様に発症率の低い国でも葉酸摂取によるリスク低減効果が認められました。[2]こうした背景から、日本でも2000年に厚生労働省から、妊娠の可能性がある女性が通常の食事からの葉酸摂取に加えて、いわゆる栄養補助食品から1日400μgの葉酸を摂取することによって胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクを低減できる可能性についての通知が出されました。この通知において、諸外国の研究結果から神経管閉鎖障害のリスク低減のための葉酸の摂取時期はおよそ妊娠1か月以上前から妊娠3か月までとされています。[3]

葉酸の生体利用率と適切な摂取量

諸外国や日本において、神経管閉鎖障害のリスク低減のためには食事からの葉酸だけでなく栄養補助食品等からも摂取することが推奨されていますが、これには理由があります。葉酸は野菜や柑橘類、レバーなどに多く含まれており、小腸でモノグルタミン酸として吸収されます。しかしながら、これらの通常の食品中の葉酸(dietary folate)の大部分はポリグルタミン酸型として存在し、モノグルタミン酸として消化吸収されるまでの代謝過程で様々な影響を受けるため、生体利用率は一定でないことがわかっています。また水溶性ビタミンであるため調理損失も受けやすくなっています。これに対していわゆるサプリメントなどの栄養補助食品や葉酸添加食品などに使用される合成型の葉酸(folic acid:プテロイルモノグルタミン酸)は、通常の食品中の葉酸(dietary folate)と比較すると生体利用率が高いことが報告されています。[4]葉酸と神経管閉鎖障害のリスク低減との関連を示した諸外国の大規模な疫学研究の結果は、この葉酸(folic acid)のサプリメントによるものがほとんどです。

もちろん通常の食品中の葉酸も一定の効果はあると考えられていますが、神経管閉鎖障害のリスク低減に有効な量の科学的根拠がいまだ十分ではありません。そのため現状では諸外国でも日本においても神経管閉鎖障害のリスク低減の観点からは、食事からの葉酸に加えて栄養補助食品等からプテロイルモノグルタミン酸として葉酸を摂取することが推奨されています。[5-6]

葉酸は赤血球の形成やDNA合成に関わるため、男女とも全ての世代の人にとって必要な栄養素です。2020年版の「日本人の食事摂取基準」では、0~75歳以上まで葉酸の推奨量または目安量が定められています。18歳以降における推奨量は240μg/日、妊婦の付加量(中期及び後期のみの付加量。初期については下記の『』を参照)は240μg/日です。これらは通常の食品から摂取する葉酸を対象として設定されています。野菜や柑橘類、大豆など葉酸を含む食品をバランスよく摂取する食生活が大切です。しかし神経管閉鎖障害のリスク低減のためには、受胎前後に母親が十分な葉酸栄養状態であることが重要であると考えられるため、「日本人の食事摂取基準」には『妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性及び妊娠初期の妊婦は、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために、通常の食品以外の食品に含まれる葉酸(狭義の葉酸)を400µg/日摂取することが望まれる』という文言が葉酸の項目に付記されています。[6] 一方、神経管閉鎖障害の発症の原因は葉酸欠乏だけではないため、葉酸を摂取すればリスクがなくなるわけではなく、また通常の食品以外の食品に含まれる葉酸(狭義の葉酸)の過剰摂取による健康障害も報告されています。そのため、食事摂取基準では狭義の葉酸の耐容上限量を定めています。通常の食品から摂取する場合と異なり、サプリメントや栄養補助食品の多用は容易に耐容上限量を超えることになりますので注意が必要です。

(最終更新日:2021年6月1日)

三戸 夏子 みと なつこ

横浜国立大学 教育学部 学校教員養成課程 家政教育 教授

参考文献

  1. lnternational Clearinghouse for Birth Defects Surveillance and Research,
    Annual Report. 2014.
  2. 佐藤(三戸)夏子, 瀧本秀美
    葉酸と胎児発育.
    ビタミン 82 (1): 19-23, 2008
  3. 「神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について」
    平成12年.
    児母第72号・健医地生発第78号(通知)
  4. Molloy AM, Folate bioavailability and health.
    Int J Vitam Nutr Res., 72 (1): 46-52, 2002.
  5. Chitayat D, et al.
    Folic acid supplementation for pregnant women and those planning pregnancy: 2015 update. J Clin Pharmacol., 56(2):170-175, 2016.
  6. 厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版),「日本人の食事摂取基準」
    策定検討会報告書,2019