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糖尿病を改善するための運動

糖尿病の治療には、運動療法・食事療法・薬物療法の3本柱があります。運動療法により血糖コントロール・インスリン抵抗性・脂質代謝の改善が得られ、糖尿病を改善します。運動療法の目標として、運動の頻度は週に150分かそれ以上、週に3回以上、運動強度は中等度(ややきつい)の全身を使った有酸素運動、運動持続時間は20分以上行うことが一般的に勧められています。また、連続しない日程で週に2~3回のレジスタンス運動の両方を行うことが勧められています。

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「令和元年国民健康・栄養調査」の結果において、国内の糖尿病の有病者か予備群(糖尿病が強く疑われる者)の割合は男性19.7%、女性10.8%であり[1]、男女合わせて約1,900万人にのぼると推計されます。現在、過剰な食事摂取・運動不足・ストレスなどの生活習慣を主因として急増している糖尿病は2型糖尿病であり、全糖尿病患者の約9割を占めています[2]

糖尿病の治療には、運動療法・食事療法・薬物療法(経口血糖降下薬・インスリン治療)の3本柱がありますが、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」および「糖尿病治療ガイド2022-2023」では、インスリン非依存状態(主に2型糖尿病)において、糖尿病治療の基本として、「代謝障害が中等度以下の場合(血糖値250~300mg/dL程度またはそれ以下、HbA1cでは9.0%未満)、食事療法と運動療法を行う。生活習慣改善に向けての糖尿病教育を行う」「2~3カ月間程度継続しても、目標の血糖値を達成できない場合には、経口血糖降下薬またはインスリンやGLP-1受容体作用薬などの薬物療法を行う」とされています[3][4]

運動療法は、運動により使われた筋が糖や遊離脂肪酸の利用を促進させるため、血糖コントロールの改善・インスリン感受性の増加・脂質代謝の改善、血圧低下、心肺機能の改善が得られ、糖尿病を改善します。さらに有酸素運動により、内臓の脂肪細胞が小さくなることで肥満を改善し、脂肪組織から産生されるアディポサイトカインなどのインスリンの働きを妨害する物質の分泌が少なくなります。このため筋肉や肝臓の糖の処理能力が改善し、血糖値が安定します。またレジスタンス運動は、筋量の増加が糖の処理能力を改善させるため、血糖コントロールに有効です。日本糖尿病学会の「糖尿病治療ガイド2022-2023」の運動療法では、以下のような運動種目・時間・強度・頻度が一般的に推奨されています[4]

運動種目
糖尿病を改善させる運動として、有酸素運動とレジスタンス運動の実施が推奨される。また、有酸素運動とレジスタンス運動の併用はそれぞれの運動単独よりも効果的に糖尿病を改善させることも報告されている。
有酸素運動:ウォーキング(速歩)・ジョギング・水泳などのできるだけ大きな筋を使用する運動。全身運動。
レジスタンス運動:腹筋、ダンベル、腕立て伏せ、スクワットなどのおもりや抵抗負荷に対して動作を行う運動。
※水中運動は有酸素運動およびレジスタンス運動の両方が行える運動種目であり、膝への負担が少なく、肥満糖尿病患者には安全かつ効果的。
※高齢の糖尿病患者の場合、バランス能力(静止姿勢や動的動作中の姿勢を維持できる、また不安定な姿勢から回復させる能力)を向上させるバランス運動も有用。バランス運動としては片足立位保持、ステップ練習、体幹バランス運動などがある。
運動強度
有酸素運動では、一般に中等度の強度の有酸素運動(最大酸素摂取量の50%前後、運動時心拍数が50歳未満で100-120拍/分、50歳以降で100拍/分以内)を行うことが勧められている。ただし、不整脈などで心拍数を指標にできない場合、自覚的運動強度として、「ややきつい」または「楽である」を目安とする。
中等度の運動強度としては、安静時代謝量の何倍に相当するかの指標であるメッツ(METs)を用いて、ウォーキングの速度(4.0km/時間)や軽いレジスタンス運動などの3メッツの運動強度を目安とする。運動に慣れてきたら運動強度を4~6メッツに増やすなどを検討する。ただし、年齢や体力レベルは考慮する必要がある。
運動頻度・時間
運動持続時間は、糖質と脂肪酸を効率よく代謝するために20分以上の持続が望ましいとされている。
有酸素運動では、中等度の運動強度であれば、週に150分かそれ以上、週に3回以上、行うことが勧められている。糖尿病患者の糖代謝の改善は運動後12~72時間持続することから、血糖値を低下改善させるため、運動を実施しない日を2日間以上続かないように行う必要がある。また、歩行運動の場合、1回につき15~30分間、1日2回、1日の運動量として約10,000歩が適当であるとされている。運動を実施する時間がない場合でも、日常生活の中で、通勤時に歩行する、階段を使うなどの運動を取り入れることも推奨されている。
レジスタンス運動では、連続しない日程で週に2~3回の実施が勧められている。禁忌でなければ有酸素運動の両方を行うことが勧められている。ただし、虚血性心疾患などの合併症患者などでは高強度のレジスタンス運動の実施は勧められない。また、高齢者においても急激な頻度や回数での実施は勧められない。
運動を実施するタイミングは、生活の中で実施可能な時間であればいつ行っても問題ないが、特に食後1時間後に行うと食後の高血糖状態が改善される。

 

運動療法の進め方として、まずメディカルチェックを受けて運動療法の可否を確認した後に、個人の基礎体力・年齢・体重・健康状態などを踏まえて運動量を設定しましょう。最初は歩行時間を増やすなど身体活動量を増加させることから始め、個人の好みにあった運動を取り入れるなど段階的に運動を加え、安全かつ運動の楽しさを実感できるように工夫していくことが運動を継続するために重要なポイントとなります。

運動を実施する上での注意点としては、運動の前後に5分間程度の準備・整理運動を行うこと、血糖がコントロールされていない1型糖尿病患者、空腹時血糖250mg/dL以上または尿ケトン体陽性者では、運動中に高血糖になることがありますので注意しましょう[4]。また逆に、インスリンや経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)で治療を行っている方の場合は低血糖になりやすいため、運動量の多い場合には、補食をとる、あるいは、運動前後のインスリン量を減らすなどの注意が必要です[4]

(最終更新日:2022年12月06日)

家光 素行

家光 素行 いえみつ もとゆき

立命館大学 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 教授

2003年筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。スポーツ生理・生化学を専門。筑波大学大学院人間総合科学研究科助手(04年~07年)、国立健康・栄養研究所健康増進プログラム運動ガイドラインプロジェクト客員研究員(07年~現在)、10年より現職。日本体力医学会評議員、日本運動生理学会評議員、日本体力医科学会編集委員などを務める。心血管疾患、糖尿病、肥満などにおける運動効果の機序解明について多くの論文を報告している。

参考文献

  1. 厚生労働省. 令和元年国民健康・栄養調査の概要. 2020.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14156.html
  2. 厚生労働省. 令和2年患者調査. 2022.
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/10-20.html
  3. 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019. 2019.
  4. 日本糖尿病学会. 糖尿病治療ガイド2022-2023. 2022.