脂質異常症の基準は、血液中のLDLコレステロール値が140mg/dL以上、HDLコレステロール値が40mg/dL未満、トリグリセライド(中性脂肪)値が空腹時採血で150mg/dL以上・随時採血で175mg/dL以上、non-HDLコレステロール値が170mg/dL以上と定義されています[1]。令和元年国民健康・栄養調査の結果において、空腹時の血液中の総コレステロール値240 mg/dL以上の割合は、男性で12.9%、女性で22.4%であり、約2,200万人が該当することが示されています[2]。脂質異常症の治療は、生活習慣の改善が根幹であり、安易な薬物療法は慎み、薬物療法中も生活習慣の改善の実施を行うべきであるとされています。
日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」において、動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善には、1)禁煙(受動喫煙の防止も含む)、2)飲酒(アルコール摂取量の制限)、3)肥満およびメタボリックシンドローム対策(BMI25以上であれば体重減少)、4)食事療法(バランスの良い食事、飽和脂肪酸・コレステロールの過剰摂取の制限、食物繊維の摂取、食塩の制限など)、5)運動療法(有酸素運動を中心に実施)が挙げられています[1]。
運動療法は、脂質異常症患者だけでなく健常者においても、血中トリグリセライドレベルを低下、HDLコレステロールレベルを増大させ、血中脂質値に好影響を及ぼします。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」では、以下のような運動種目・時間・頻度・強度の運動療法を推奨しています[1]。
- 運動種目
- 有酸素運動を中心とした種目として、ウォーキング、速歩、水泳、エアロビクスダンス、スロージョギング(歩くような速さのジョギング)、サイクリング、ベンチステップ運動などの大きな筋をダイナミックに動かす身体活動。
- 運動時間・頻度
- 1日の合計30分以上の運動を毎日続けることが望ましい(少なくとも週3日は実施すること)。また、1日の中で短時間の運動を数回に分けて合計して30分以上としてもよい(例:10分間の運動を3回実施で合計30分間)。
- 運動強度
- 中強度以上の運動を推奨する。中強度以上の運動とは3メッツ以上の強度であり、通常速度のウォーキングに相当する強度の運動である。そのため、通常の歩行あるいはそれ以上の強度での運動が推奨されるが、心血管疾患や骨関節疾患がある場合や低体力者の場合には、急に運動を実施することは身体に与える負担が大きいため、3メッツ以下の強度の身体活動である、掃除、洗車、子どもと遊ぶ、自転車で買い物に行くなどの生活活動のなかで身体活動量を増やすことからはじめてもよい。
- 血中脂質レベルは1回の運動では影響を受けません。そのため血中脂質レベルに好影響を与えるには数ヶ月以上の長期的な運動療法が必要となります。
- 有酸素運動が血中脂質レベルを改善させる機序として、筋のリポプロテインリパーゼ活性が増大し、トリアシルグリセロール(血中カイロミクロン・VLDL・LDL)の分解を促進させることにより、HDLを増やすことが関与していると考えられています。 HDLは「善玉コレステロール」として知られていますが、末梢組織や細胞から余剰なコレステロールを回収し、肝臓に運搬する役割を有しています。つまりHDLコレステロールは脂質異常症の進展を抑制する働きがあります。
2005年までの国内外の運動に対するHDLコレステロールの効果を検討した研究結果から、HDLコレステロールを増加させることができる運動・身体活動の最低条件として、1週間に合計120分間の運動を行うか1週間に合計900kcalのエネルギーを消費する身体活動を行わなければならないことも明らかとなりました[3]。
- 運動を実施する上での注意点としては、準備・整理運動を十分に行うこと、メディカルチェックを受けて狭心症や心筋梗塞などの心血管合併症の有無を確認し、運動療法の可否を確認した後に、個人の基礎体力・年齢・体重・健康状態などを踏まえて運動量を設定する必要があります。脂質異常症の改善には運動療法だけでなく、食塩摂取量やアルコール摂取量の制限、禁煙などとの併用療法がより効果的といえます。
(最終更新日:2022年12月06日)