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高血圧症を改善するための運動

高血圧治療の基本は生活習慣の修正(運動療法・食事療法)と薬物治療があります。運動療法として、運動の頻度は定期的に(できれば毎日)実施し、運動量は30分以上、強度は中等度(ややきつい)の有酸素運動が一般的に勧められています。運動療法により降圧効果が得られ、高血圧症が改善されます。

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「令和元年国民健康・栄養調査」の結果において、収縮期血圧140mmHg以上の割合は、男性で29.9%、女性で24.9%であり、約3,450万人が該当することが示されています[1]。この高血圧症の要因としては、好ましくない食生活・身体活動量の不足・喫煙・ストレスといった生活習慣が密接に関連しています。高血圧治療の基本は生活習慣の修正と降圧薬治療ですが、高血圧症の発症や予防には習慣的な運動や身体活動の増加が有用であることは多くの研究により証明されています[2]。また、治療や予防に推奨されている運動療法に関するガイドラインも確立されてきました。
日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」では、降圧治療には、生活習慣の修正、降圧薬治療があげられています。生活習慣の修正は、1)食塩摂取量の制限(1日あたり6g未満)、2)野菜や果物の積極的摂取と飽和脂肪酸・コレステロールの制限および多価不飽和脂肪酸・低脂肪乳製品の積極的摂取、3)適正体重の維持(BMI25未満)、4)運動・身体活動量の増加、5)節酒、6)禁煙(受動喫煙の防止も含む)とされています[3]

運動療法は血管内皮機能を改善し、降圧効果が得られ、高血圧症を改善するといわれています。また習慣的な運動は、収縮期血圧を2~5mmHg低下、拡張期血圧を1~4mmHg低下させる効果があるといわれています[4]。また、習慣的な有酸素運動は、収縮期血圧を3.5mmHg低下、拡張期血圧を2.5mmHg低下させ、高血圧患者においても収縮期血圧を8.3mmHg低下、拡張期血圧を5.2mmHg低下させる効果があるといわれています[2]。さらに、身体活動量の増加も血圧を低下させる効果があります。運動療法には以下のような運動種目・時間・強度・頻度が一般的に推奨されています[3]

運動種目
ウォーキング(速歩)・ステップ運動・スロージョギング・ランニングなどの有酸素運動。
運動頻度・時間
定期的に(できれば毎日30分以上)運動を行う。または1回につき少なくとも10分以上持続し、合計して1日40分以上運動を実施することが推奨されている。
運動強度
低・中強度の運動は収縮期血圧の上昇はわずかであるのに対して、高強度の運動は血圧上昇が著明であるため、自覚的運動強度として、中等度「ややきつい」と感じる程度の運動強度(最大酸素摂取量の40~60%程度)が推奨されている。

また上記のような運動を急に実施するのは身体に与える負担が大きいため、掃除・洗車・子どもと遊ぶ・自転車で買い物に行くなどの生活活動のなかで身体活動量を増やすことからはじめてもよいでしょう。その場合、1週間あたりの総運動時間あるいは総消費エネルギー量で設定することが適当であるといわれています。例えば1回の運動時間を長く設定し1週間の運動回数を減らすか、運動強度を低く設定し1週間の運動回数を増やすなどの設定を個人に合わせて考えることができます。
運動を実施する上での注意点としては、準備・整理運動は十分に行うこと、メディカルチェックを受けて虚血性心疾患・心不全などの心血管合併症がないことを確認し、運動療法の可否を確認した後に、個人の基礎体力・年齢・体重・健康状態などを踏まえて運動量を設定する必要があります。また高血圧症の改善には運動療法だけでなく、食塩摂取量やアルコール摂取量の制限、禁煙などとの複合的な療法がより効果的といえます。
なお、運動療法の対象者はⅡ度高血圧以下(病院の診察測定時で収取期血圧が160~179mmHgかつ/または拡張期血圧が100~109mmHg)の血圧値で脳心血管病のない高血圧患者であり、Ⅲ度高血圧(病院の診察測定時で収取期血圧が≧180mmHgかつ/または拡張期血圧が≧110mmHg)を超える場合には降圧後に実施することとなっています[3]

(最終更新日:2022年12月06日)

家光 素行

家光 素行 いえみつ もとゆき

立命館大学 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 教授

2003年筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。スポーツ生理・生化学を専門。筑波大学大学院人間総合科学研究科助手(04年~07年)、国立健康・栄養研究所健康増進プログラム運動ガイドラインプロジェクト客員研究員(07年~現在)、10年より現職。日本体力医学会評議員、日本運動生理学会評議員、日本体力医科学会編集委員などを務める。心血管疾患、糖尿病、肥満などにおける運動効果の機序解明について多くの論文を報告している。

参考文献

  1. 厚生労働省. 令和元年国民健康・栄養調査報告. 2020.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r1-houkoku_00002.html
  2. Cornelissen VA et al., Exercise training for blood pressure: a systematic review and meta-analysis. J Am Heart Assoc 2: e004473, 2013.
  3. 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会. 高血圧学会治療ガイドライン2019. 2019.
  4. Eckel RH et al., 2013 AHA/ACC guideline on lifestyle management to reduce cardiovascular risk: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation 129: S76-S99, 2014.