身体活動量を増加させることは、生活習慣病や心血管疾患の発症リスクを低減させます。しかしながら、この身体活動量の多寡や運動量には、後天的要因だけでなく、一部遺伝的要因も関与していることがわかっています。現在、どのような遺伝子の違い(多型)により、それが左右されるのかを調べる研究が行われています。
日常の身体活動量を増やすことは、生活習慣病や心血管疾患の発症リスクを減少させます。そのため、身体活動量や運動量が少ない人に対して、それらを増大させるようなアプローチを行いますが、すんなり身体活動量が増加する人もいれば、なかなか身体活動量が増加しない人もいます。もちろん、アプローチから導かれる成果は、アプローチ方法の適性や対象者の社会的・心理的要因、環境要因に依存する部分があります。
しかしながら、実はこの身体活動や運動の実施には、遺伝的要因も関与していることが報告されています。例えばヨーロッパ7カ国の双子37,051組において、4メッツ以上の運動を週1時間以上行っているか否かについての遺伝的要因を検討した研究では、男性では27~67%、女性では48~71%の遺伝率が認められています[1]。また、772組の双子を対象に、心拍計と加速度計を用いて客観的に評価した身体活動量や座位行動に対する遺伝率を調べた研究では、31~47%の幅で遺伝率が認められています[2]。研究により遺伝率の大小はあるものの、身体活動や運動、座位行動には遺伝的要因が関与していることがうかがえます。
「遺伝的要因が関与している」とはどういうことなのでしょうか。我々の保有する遺伝情報は、細胞の核内(一部ミトコンドリア内)に存在するゲノムの中に書き込まれ、アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)から成る塩基の配列によって保たれています。それぞれを一文字とすると、ゲノムの1セットは約30億個の文字から成っています。ヒトとヒトではこの塩基配列に0.1%の差異があり、このごくわずかな違いにより個人の容姿や能力、さらには疾患への感受性などが異なってくるのです。
では、実際に身体活動や運動実施における個人差にはどのような遺伝子の多型が関与しているのでしょうか。これまで候補遺伝子での研究や全ゲノムを対象とした研究(Genome Wide Association Study, GWAS)が行われていますが、未だ明確な結論には至っていないのが現状です。有力な候補としては、報酬系に関わる遺伝子や運動能力に関わる遺伝子などが報告されています[3]。
このように、身体活動レベルや運動実施には遺伝的要因が関与していることが明らかではありますが、具体的な遺伝子多型と身体活動や運動実施についての関連は、まだ研究段階のものが多く、更なる研究が行われることにより明らかになってくることが期待されます。遺伝的要因との関係が明らかになれば、生活習慣病や心血管疾患などのリスクの低減のために身体活動量を増大させる指導を行う際の有益な情報となり得るでしょう。
(最終更新日:2023年02月20日)