身体活動レベルを増大させることは生活習慣病や心血管疾患のリスクを低減させます。しかしながらこの身体活動レベルや運動参加といったものには、一部遺伝的要因が関与していることがわかっており、現在どのような遺伝子の違い(多型)により、それが左右されるのかを調べる研究が行われています。
日常の身体活動量を増やすことは、生活習慣病や心血管疾患のリスクを減少させます。そのため身体活動量や運動量が少ない人に対して、それらを増大させるようなアプローチを行いますが、すんなり身体活動量が増加する人もいれば、なかなか身体活動量が増加しない人もいます。これはもちろんそのアプローチの是非や対象者の社会的・心理的状況に依存するところが大きいと思われます。
しかしながら実は、この身体活動レベルや運動への参加といったものには、遺伝的要因も関与していることが報告されています。例えばヨーロッパ7カ国の双子37,051組において、4METs以上の運動を週1時間以上行っているか否かについての遺伝的要因を検討した研究では、男性では27-67%、女性では48-71%の遺伝率が認められています。一方200家族696名を対象に行った研究では、不活動の程度の遺伝率は25%であり、中程度から激しい活動に費やした時間の遺伝率は16-19%であり、トータルの身体活動レベルの遺伝率は17%であることを報告しています。研究により遺伝率の大小はあるものの、身体活動レベルには遺伝的要因が関与していることがうかがえます。
「遺伝的要因が関与している」とはどういうことなのでしょうか。我々の保有する遺伝情報は、細胞の核内(一部ミトコンドリア内)に存在するゲノムの中に書き込まれていります。これはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)から成る塩基の配列によって情報が保たれています。それぞれを一文字とすると、ゲノムの1セットは約30億個の文字から成っていることになります。ヒトとヒトではこの塩基配列に0.1%の差異があり、このたったわずかな違いにより個人の容姿や能力、さらには疾患への感受性などが異なってくるのです。では実際に身体活動レベルにはどのような遺伝子の多型が関与しているのでしょうか。これまでアンギオテンシン変換酵素遺伝子やメラノコルチン受容体遺伝子・ドーパミン受容体遺伝子・レプチン遺伝子などが報告されています。
しかしながら、これら遺伝子多型と身体活動レベル・運動参加についての関連は、まだまだ研究段階のものが多く、更なる研究が行われることにより明らかになってくると思われます。これが明らかになれば生活習慣病や心血管疾患などのリスクの低減のために、身体活動量を増大させる指導を行う際の、有益な情報となり得ると思われます。