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身体能力と遺伝(遺伝子多型)

持久的能力や筋力といった身体能力には、一部に遺伝的要因が関与していることが明らかとなっています。近年ではどのような遺伝子における違い(多型)が関与しているかが研究されており、今後遺伝子タイプによる種目の選択や、個人に適したトレーニング方法が提供されることができるようになるかもしれません。

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優れたアスリートになるためには、優れた遺伝子が必要なのか?こんな疑問はスポーツ選手やその関係者であれば誰もが関心を寄せる題材であると思います。1991年にエリスロポエチン受容体と呼ばれる遺伝子に変異がある家族性赤血球増加症を呈する家族についての研究が報告されました。このとき偶然にも、この疾患の家系における発端者は高いヘモグロビン値や赤血球数を示すもののすこぶる健康であり、さらには冬季オリンピックのクロスカントリー競技において3回のゴールドメダルリストであり、世界選手権においても2回の優勝を飾っている選手だったことが分かりました。これはおそらくクロスカントリーという種目が高い持久的能力を要求し、それに彼の高いヘモグロビン値や赤血球数から来る高い酸素供給能力がマッチしていたためと考えられます。これは遺伝子における違いが、運動能力に影響する可能性を示した例と言えます。

実際に持久的能力や筋力といった身体能力には、どのくらいの遺伝的要因が関与しているのでしょうか?
これまで双子や親子を用いた研究から、持久的能力の指標である最大酸素摂取量(VO2max)や換気性作業域値(VT)、筋力また加齢に伴うそれらの変化などの遺伝率が算出されてきました。例えばトレーニングをしていないヒトを対象にVO2maxの遺伝率を算出したところ、約50%以下の遺伝的要因が関与しているという報告がなされています。またみんなが同じ相対的強度においてトレーニングを行った際のVO2maxの増加率の遺伝率は、47%であったと報告した研究もあります。しかしながら遺伝的要因は10%と低い割合であるとする報告もあります。遺伝率の値は報告によりまちまちですが、遺伝的な要因が関与していることは明らかです。

では身体能力にはどのような遺伝子の違い(多型)が関与しているのでしょうか。
これまで持久的能力との関連において最も多く研究されている遺伝子に、アンギオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子があります。この遺伝子には遺伝子の一部にある配列が挿入されている挿入型(I型)とその配列がない欠損型(D型)が存在しています。無酸素登山により8000mの山を制覇し得た登山家15名において、D型をホモで保有するヒトはおらず、全員がI型を保有していたことが報告され、持久的能力にはI型を保有していることが有利である可能性が示されました。その後もこのI型が持久的能力と関連していることが多く報告されています(しかしながら関連がないとする報告もあります)。
一方でスプリント能力などとの関連が報告されているものとして、α-アクチニン3(ACTN3)遺伝子があります。この遺伝子にはR型とX型が存在し、持久性のオリンピック選手だとXX型が多くなり、パワー系・スプリント系のオリンピック選手だとXX型がいなかったという報告がされています。つまりXX型はパワー系・スプリント系には不利に働く可能性があります。

このように現在、体力に関わる遺伝的要因となる遺伝子多型を同定しようとする研究が多くなされています。これらが明らかとなることにより、個人に適した運動種目を選ぶことが可能となったり、また適したトレーニング方法が見つかる可能性があります。しかしながら一方で、人の身体能力は遺伝的要因のみにより決定されるわけではないことを十分認識しておくことも重要です。

参考文献

  1. Yang N, MacArthur DG, Gulbin JP, Hahn AG, Beggs AH, Easteal S, North K.
    ACTN3 genotype is associated with human elite athletic performance.
    Am J Hum Genet. 2003 Sep;73(3):627-31. Epub 2003 Jul 23.
  2. Montgomery HE, Marshall R, Hemingway H, Myerson S, Clarkson P, Dollery C, Hayward M, Holliman DE, Jubb M, World M, Thomas EL, Brynes AE, Saeed N, Barnard M, Bell JD, Prasad K, Rayson M, Talmud PJ, Humphries SE.
    Human gene for physical performance.
    Nature. 1998 May 21;393(6682):221-2.
  3. Juvonen E, Ikkala E, Fyhrquist F, Ruutu T.
    Autosomal dominant erythrocytosis caused by increased sensitivity to erythropoietin.
    Blood. 1991 Dec 1;78(11):3066-9.