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女性アルコール依存症者の摂食障害

女性アルコール依存症者にはしばしば摂食障害が重複し、多くの若年女性アルコール依存症には、神経性やせ症や神経性過食症、過食性障害などの食行動異常がみられます。

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若年女性アルコール依存症には摂食障害が重複しやすい

食事摂取の不足により体重が減少した状態である神経性やせ症(anorexia nervosa: AN)と、反復する過食と不適切な代償行動を伴う神経性過食症(bulimia nervosa: BN)、過食はあっても不適切な代償行為を伴わない過食性障害(Binge-Eating Disorder: BED)があります。(過食性障害は、DSM-Ⅳ-TRで特定不能の摂食障害にカテゴライズされたむちゃ食い障害に相当します)

女性アルコール依存症者にはしばしば摂食障害が重複します。海外の知見では、アルコール使用障害の摂食障害の生涯有病率は25%とされ、ドラッグなどほかの物質使用障害より高率に摂食障害を重複しています[1]。また本邦でも女性患者の11%に摂食障害が重複し、20歳代に限れば72%に摂食障害、とりわけ神経性過食症が認められたとされています[2]

アルコール依存症と摂食障害が重複した場合、低栄養や種々の臓器障害から身体的に危機的な状況に陥ることが少なくありません。アルコール依存症または摂食障害のみの場合と比べ死亡率が高く自殺も多く、5年後の転帰調査において重複例の25%が死亡したという報告もあります[3]。このため米国ではアルコールを含む物質使用障害患者すべてに、摂食障害のスクリーニングを行うことが推奨されています。

アルコール依存症者の摂食障害の治療

問題飲酒と食行動異常はともに「ストレス軽減の手段になること」「行為のコントロールができなくなること」「行為を隠すこと」など共通点が多く、アルコール依存症と摂食障害は同質の疾患と考えることもできます。アルコール依存症で広く行われてきている集団精神療法が摂食障害でも実施され、効果をあげているため、両者を合併する患者には摂食障害の治療も取り入れた集団精神療法を行うことが望ましいと考えられます。

(最終更新日:2021年10月19日)

岩原 千絵

岩原 千絵 いわはら ちえ

医療法人秀山会 白峰クリニック 精神科医

1998年信州大学卒。東京女子医科大学精神神経科、埼玉医科大学総合医療センター、成増厚生病院等を経て、2014年より国立病院機構久里浜医療センター精神科勤務。2020年より医長。2022年2月より医療法人秀山会白峰クリニック精神科医。専門領域はアルコール依存症、認知症、一般精神医学。2015-17年厚生労働省健康局健康課参与 アルコール対策担当(アルコール専門官)。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、産業医。

参考文献

  1. Hudson JI, Hiripi E, Pope HG Jr, et al. : The prevalence and correlates of eating disorders in the National Comorbidity Survey Replication. Biol Psychiatry. 61: 348-58, 2006.
  2. Higuchi S, Suzuki K, Yamada K, Parrish K, Kono H.: Alcoholics with eating disorders: prevalence and clinical course. A study from Japan.Br J Psychiatry. 162: 403-6, 1993
  3. 田中晴美.日本における母親の飲酒による子供の異常の現状(原著論文).日本医事新報(3714):45-49(1995)