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アルコール依存症の心理・社会的治療

アルコール依存症の治療では、心理・社会的治療が大きな役割を果たしています。代表的な介入法として、認知行動療法・動機づけ面接法・コーピングスキルトレーニングなどがあり、有効性も実証されています。日本でもGTMACKと呼ばれる新しい入院治療プログラムが開発されています。

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アルコール依存症への心理社会的介入

アルコール依存症の治療には、精神療法・薬物療法・自助グループへの参加・心理社会的な支援など多角的なアプローチが必要になります。心理・社会的療法として、様々な介入法が用いられています。主な介入法として、以下のようなものが挙げられます。

1. 認知行動療法

認知行動療法は、病的な状態には疾患特有の認知の歪みがあり、自身の認知パターンを検討して、認知のパターンや行動を変えていくことにより、疾患からの回復を図る方法です。うつ病など様々な精神的疾患に用いられている介入法です。
アルコール依存症では、自身の飲酒問題を過小評価・正当化するような認知パターンがあると考えられます。その認知のパターンに自ら気付いて、認知の仕方を変えることにより行動も変わり、最終的に飲酒行動を変えていくことを目標とします。現在、世界中で広く行われている方法のひとつです。

2. 動機づけ面接法

動機づけ面接法は、ミラーらによって開発された行動変容のための介入法です。否認や抵抗は、クライエントの抱える両価性に基づくものと考えられ、両価性の探求と解決をすることによって、患者自身の変化へのモチベーションを高めることを目標とします。回復の間にはいくつかの変化のステージがあり、そのステージに応じた介入を行い、変化への動機づけを行っていきます。

3. コーピングスキルトレーニング

コーピングとは、ストレスのある状態に対処する行動のことを言います。飲酒につながるような様々な状況、例えば酒の上の付き合いや酒のある状況、ストレス・怒りの感情に対しての適切な対処を考え、その練習することにより、危険な状況での再飲酒を避けることを目標とします。

心理・社会的治療の有効性

上記の他にも様々な心理的な介入法が試みられています。このような方法の有効性もいくつかの研究で実証されています。1990年代に米国で行われたProject MATCHと呼ばれる大規模な研究では、「認知行動療法」「12ステップ促進療法(AAの12ステップに基づいた介入法)」「動機づけ強化療法」の3つの介入技法での有効性があることが明らかになりました。どの介入法が特に効果があるかははっきりせず、またどのような患者にどの介入が有効かも明らかではありませんでした。この結果からわかることは、どのような方法を行うかよりも介入を行うこと自体に意味があるということのようです。

アルコール依存症の治療プログラム

上記のような介入技法を元に、より効果的なアルコール依存症の治療プログラムの開発が求められています。日本では1963年より、久里浜式と呼ばれる集団での入院治療プログラムが大きな役割を果たしてきました。しかし時代の変化とともにアルコール依存症の患者の特性も大きく変化したため、内容が刷新され、久里浜医療センターではGTMACKと名付けた入院でのアルコール依存症の集団治療プログラムが開発され、2012年より取り入れられています。
この方法はマトリックスモデルという包括的な物質依存治療プログラムを参考としており、認知行動療法をベースとして、動機づけ面接法やコーピングスキルトレーニングを取り入れたものです。ワークブックを用いて、より幅広い対象に対応できる実践的な内容となっています。全部で13回のセッションからなり、自分の飲酒問題の振り返り・飲酒に対する考え方の検討・危険な状況での対処・退院後の生活についての計画などが内容に含まれます。

(最終更新日:2020年06月24日)

木村 充 きむら みつる

独立行政法人 国立病院機構 久里浜医療センター 副院長